怠惰 ACEDIA

「っとに、あんたはものぐさなんだから」
一国の指導者をあんた呼ばわりする男は床に脱ぎ捨てられた軍服を拾って皺を伸ばしハンガーにかける。
もう側仕えの者だっているし自分だって結構な地位にいるのにそれは昔からまるで変らない。
「何を言う。私を怠惰の罪に堕としたのはハボックお前じゃないか」
寝椅子にゆったりくつろいだ黒髪の総統閣下はそう言って忠実な部下を糾弾した。
「やれ部屋が汚いだ、食事もまともにしないだ、挙げ句の果ては家事無能のレッテル貼って全部自分の役目
にしたのはお前だろう?あんな風に世話をされたら誰だって怠惰になるさ」
だから私のせいじゃないよ。
言い切る唇には誘うような笑みが浮かびそれに引かれたように隣に座った男は違いないと苦笑した。
「確かにあんたの生活見たらほっておけなくなっちまったものね。甘やかした俺のせいだって言われてもしょう
がないッス」
「そうだ責任とって精々尽したまえよ」
「アイ・サー」
近づく苦い香りも昔と変らない。それにうっとりするロイの心にあったのは無言の告白。
判ってないな。ハボ。ずっと寮暮しだった男がそんなに生活無能の訳ないだろう。
お前に会う前は1人でちゃんと暮していけたんだ。掃除も一応自分でやって、洗濯は業者に頼んで、食事は外食
かケータリング。パンとスープぐらいなら自分で用意したものさ。
だけど新任の垂れ目の護衛官がある程度家事が得意と知った時から─私は自分に怠惰のレッテルを貼ったんだ。
文字どおり何にもしなくなって、世話焼きのお前が見かねて手を出してくるまで。
「ああ、もうホントにあんたは何にも出来ないんだから!」
そう言ってお前が私の家に来るようになるまでどれだけ苦労したか知らないだろう?
全く怠惰でいるのも大変だったのだよ、ハボック。
クスリと笑ってロイは怠惰に相手に身を任せた。

                 

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