暴食 gula

いくら与えられても決して満たされぬ思い。
そのじりじりと焼け付くような傷みは飢餓にとてもよく似ていて
「もっとちょうだい」
そう言わずにはいられない。

「おかわりだハボック」
差し出された皿はソースまで綺麗にパンで拭き取られている。はいはいと皿を受け取った男はキッチンに向いながら
「食欲あるのはいいですけどねー。最近運動不足なんだから気を付けて下さいよ。政治家は見た目が命なんだからメタボ腹なんかになったら即支持率下がります」
そう笑った。それに
「私のスリーサイズが変りない事はお前が一番良く知ってるだろう?」
嫣然と応えた男はワイングラスに手を伸ばした。

食欲はストレートに精神とシンクロする。嫌いな相手との食事なら豪勢なフルコースだって砂を噛むようなものだし恋しい相手となら例え固くなったパンだって一流のシェフが焼いたものと変らない。ましてや恋人の手料理なら。
「ホント昔からそうだけど意外に大食いですよね、あんた」
そんな簡単な事実を知らない男にロイは苦笑するしかない。これだけ長い付き合いなのにハボックは気がつかないのだ、ロイが健啖家になるのはハボックの手料理限定だって事に。
「頭脳労働者は肉体派よりずっと高カロリーを必要とするってことさ。科学的にもそれは証明されている」
「それって言い訳じゃないスっかね、大食いの・・ってちょっととらんで下さいよ、俺の肉!」
まったく子供じゃあるまいしと苦笑する男の顔はだけど慈愛に満ちている。その笑顔にちりとまた心が灼けた。

お前の愛情はそうやって途切れる事なく与えられる。だけど私は貪欲なんだ。与えられても満足することはない。まるで飢えたように欲しがってしまう。誰より傍にいて、その温もりを感じられる今でもそれは私を苛むんだ。甘い蜜壺にどっぷり浸かりながらそれでも飢える蟻のよう─なんて浅ましくて醜いのだろう。
こんな思いもちろんお前は知らないけれど。

「ハボック、おかわり」

この餓えがもし満たされてしまったら─本当はその方が私は怖いんだ。



                 

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