色欲 luxuria

これを罪だと決めたのは誰だ。
重なりあう2つの鼓動、高まる快感。まるで1つに溶け合ってしまったような身体。
これを罪だと決めつけた存在は知らなかったのだろうか?
お互いに与えられた温もりが魂さえ融かす事を。

肌寒さに目覚めれば隣の温もりがいつの間にか無くなっている。
「・・ハボ?」
シャワーの音はしていない。もっとも無駄に広いこの寝室ではいつも聞こえないのだが。
「あ、起こしちゃいました?」
音も無く開いたドアから金の頭が覗く。その水に濡れて鈍く光る金色にとくりと眠りかけていた心臓が脈打った。
「主人の許しも無く寝台から抜け出すとは何事だ、さっさと戻れ駄犬」
苛立たしげにふわりと羽根布団をめくれば垂れた青い瞳がますます情けなく下がる。
「我が儘言わないで下さい、ロイ」
「添い寝は飼い犬の大事な役目だ」
断固言い付けを撤回しない飼い主をなだめるようにベッドに近づいて来た男の大きな手がそっと白い頬を撫でる。
「判ってるでしょう?俺がここに泊まる訳にはいかないんです」
「知らん」
ぱしと手を払った男は後ろを向く。そのままくるんと白いシーツの中に丸まってしまった相手を
「ロイ〜」
情けない声が呼ぶけどシーツの山は身じろぎもしなかった。

それはいつも繰り返される寝室での一幕。

「政治家にはスキャンダルは御法度です。特に今は不安定な時期だ。あんたの足を引っ張る真似だけはしたくない」
望んだ椅子を手に入れた時部下で年下の恋人はきっぱりとそう言った。その時私は何を今更と軽く受けただけだったけど多分あいつの方が冷静に状況をみていたのだ。
内乱状態は脱したけれど今この国はまさに内憂外患、隙あらば足を引っ張ろうとする輩には事欠かない。それなのに最高責任者の恋人が部下で同性─これを知らればとんでもない爆弾になる。
おそらく有能な秘書官とも相談したのだろう。主任護衛官として大佐に昇進した男は決してそれ以上の出世を望まず、また人事の長になった彼の悪友もそのポジションを動かそうとはしなかった。
それは私達の関係を知る仲間達からの精一杯の思いやり。それが判っていたからあの男も決して自ら決めたルールを破ろうとしない。
この大総統府にあるプライヴェートゾーンにあいつが泊まる事は決して無い。執務室で2人きりになるのもせいぜい2〜3時間だ。
休暇を共に過ごすなんて問題外。

四六時中傍にはいる。下らないお喋りや食事を共にする事はできる。─だけど触れあう事はできない。それだけに書類を渡す時に触れる指、2歩後ろから感じる男の気配、内密の伝言を耳打ちされる時にかかる息。
たったそれだけの事が時に目眩を起こすほど身体が反応する時がある。何もかも放り出してあの男を押し倒したくなる程。そういう意味ならこれは罪なのかも知れないけれど。

「・・最高権力者なんて不便なもんだ。恋人と同じベッドで朝を迎える事もできない」
拗ねた声がシーツの山の中から聞こえてくる。それでも返事があるのにほっとしたようにぎゅっとハボックは白い固まりごと抱き締めると頭のある辺りに唇を寄せる。
「俺だってあんたと一緒に朝を迎えたい。昔みたいに朝飯を作って一緒に食べたい。シーツ越しじゃ無く直にあんたの肌にもう一度触れたい・・できるなら」
シーツ越しに手が移動する。そのくすぐったい感触は首筋から背中、腰を回ってぎゅっと閉じた掌を探り当てるとそっとそれを包み込んだ。その温もりと背中に感じるハボックの鼓動にロイはシーツを剥ぎ取りたい衝動を抑えようと唇を噛む。だってもしそうしたならこの律儀な忠犬はすぐにここを出ていってしまうだろう。
だから
「あと10分そのままでいろ、駄犬。・・それまでに私は眠ってしまうから」
ロイに言えるのはただそれだけ。

この温もりを離したくないと思うのが罪だと誰が決めた?

                 

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