DOUBLE DOGS

 アメストリスの要、セントラル。建国時よりこの国の中心であり続ける由緒正しき都を地震が襲ったのはとある日の夜半だった。幸い規模は大した事なく古い建物や使われなくなった下水道の一部が崩れただけで怪我人などもなかったそれを住人達はすぐに忘れてしまったが│
多分それが全ての始まり。

「テロリストがイーストシティに潜入している?」
「正確に言えばアエルゴが我が国を混乱させようとして送り込んだスパイでありテロリストで名前も年も一切不明だ。ただ呼び名はトレデキムという事しか判っておらん。そいつが極秘に入国しセントラルで幾つかテロを計画したのだが幸いこれは未然に防げた。それで奴は慌てたのだろう」
言葉を言い繕ってはいるが要はテロリストの身柄確保に失敗したという事だろうとロイは内心ため息を吐く。
「そうしてそいつはこのイーストシティにやって来た。判りました閣下、貴重な情報感謝します。必ずやテロリストは我々の手で捕らえますので・・」
「いや、それには及ばない、マスタング君。この件はセントラルの領分だ」
意外な言葉に返事が遅れる。いつも尻拭いをこちらに押し付けるだけのセントラルが一体どうした事か。
「私がここに来たのは我々の行動が極秘であり公にできない事を君に説明するためだ。君達の助力は一切必要無い。ただ私達の任務の邪魔はしないで欲しいのだよ」
「つまり勝手に動くが見ない振りをしろと?しかし何故です。テロリストの捕縛は重要な任務です。非力ですが東方司令部の力が必要な時もあるのでは?」
自分の縄張りで好き勝手されて堪らない。特に今は。
「・・気持ちはありがたいがマスタング君、これは極めてデリケートな問題を含んでおる。さっきもいったが奴は只のテロリストではない。アエルゴの人間だ。捕らえたら外交問題に発展する可能性がある。ブラッドレィ閣下もその事を危惧して私にこの任を託された」
最高権力者の名前を出されればもうロイにできる事はない。
「・・判りました、閣下。任務の邪魔は致しません。この件は私1人の胸に止めておきます」
「そうしてくれると助かるよ、マスタング君。何そう難しい話じゃないと儂は思っている。奴の狙いははっきりしてるし優秀な部下も連れてきているのでね。すぐに奴は捕らえられるさ」
忙しい所邪魔をしてすまない、グラマンにはよろしくと言っておいてくれ。言うだけ言うと急な客人はさっさと立ち去ってしまった。1人残された黒髪の大佐は側近を呼ぼうともせずデスクに戻ると電話に手を伸ばす。

中略

『だからどうだっていうんだ。俺等は正規の軍人だしマスタング大佐の部下だ。誰にも文句言われる謂れはないよ。あんたも余計ないちゃもんつけてないでさっさと任務を終わらせてセントラルへ帰れよ。俺等は今忙しいんだ』
ここで尻尾を巻く程野良犬は柔じゃ無い。だが階級を無視した啖呵を男は
「はは、本当に別人のようだ!世界にはまだまだ私の知らない事があるものだ。これだから人生は面白い」
笑い飛ばしただけで顔色も変えない。
「正直私はあなた方の特性なんかどうでも良いんです、ハボック・・いえこの場合ジャックとお呼びしましょうか。私も早くこんな厄介な任務早く片付けて静かな生活に戻りたいんです。それで貴方に協力をお願いしたいのですよ」
『・・は?』
「小耳に挟んだところではあなた方はあるテロ組織に潜入中とか。裏の情報は掴み易いでしょうし私が追っている人物がその組織と接触する可能性もある。それを知らせて欲しいのです」
『あんたの親玉は自分等でやると大佐の申し出を蹴ったじゃないか。今さら言ったって遅いぜ。ま、精々馴れない土地で苦労するんだね』
なんだつまり自分の仕事を手伝えって事かよ。得体の知れない男だけど言ってる事は普通の奴を変らないじゃん。ロイの言う通り無視だよ、無視。
セントラルの軍人に関わるなんて碌な事にはならないとばかりにジャクリーンは踵を返す。が相手の方が一枚上手で
「欲しくありませんか?自分だけの身体」
投げかけられたのは思ってもみなかった餌だ。ぴたりと止まった背中にキンブリーは続ける。
「2人で1つの身体を共有するのは色々大変でしょうね。お互い半分はやりたい事も我慢しなければならない。恋人と過ごす時間だってそうだ。これでは人生も二分の一しか楽しめない」
『だから何だよ。あんたならそれをどうにかできるか?』
それは確かにそうだが自分達は生まれた時からそうしてきたのだ。今さらそれを不便と思った事はない─というよりそんな可能性は思いもしなかった。自分だけの身体、自分だけの人生?
どんな奇蹟がそれを可能にする?
「セントラルの錬金術は最高レベルです。しかもあそこでは禁忌も関係ない。ホムンクルスと呼ばれる魂のない肉体を作る事にも成功してるし、聞いた話では精神を他の物体に移す事も可能だそうです。今のその身体と全く同じボディを造りあなたの魂をそれに錬成すればあなたは1人の人間として生きていけるそう自分だけの人生を満喫できるんじゃないですか」

中略

「何のつもりだ、この駄犬」
嗅ぎ馴れた苦い匂いに深い蒼。狼藉者の正体に気付いたロイは悪戯を仕掛けた飼い犬を睨み付けるが
『何って餌を貰いに。いい加減腹も減るよ、いくら忠犬だってね』
悪びれない男はそのままシャツに手をかける。
「・・いい加減にしろ。任務中だぞ、ハボック少尉」
ロイが階級で呼ぶ時は最後通告だ。だけどそれを知っている男の手は止まらない。片手で押さえた手をベッドにかけてあったロイの上着で括ると露になった胸に手を滑らせる。
『大声出す訳にはいかないでしょ。俺鍵かけてないし』
深い蒼の奥にあるのは紛れも無い情慾だ。熱すら感じさせるそれにロイの身体も反応しかける。それでも
「・・仕方のない駄犬だ。餌が欲しいならさっさと食らえばいい。だが一体何があった、ジャクリーン」
冷静な声は様子のおかしい恋人を気遣う。もう1人のハボックと違い不真面目な態度を取る男だが自分の命令には絶対のはずだ。それがこんな危険を犯す程動揺するには理由があるはずで
「ジャンはどうした?お前が抑え付けているのか?」
ストッパー役の不在に眉を顰める。だが
『今は俺の時間だよ、ロイ。あんたを抱くのは俺1人だけで良い。・・本当は誰にも触れさせたくないんだから、例え過去でも』
「ジャクリーン」
『あんたの初めての相手って奴に会った』



ダブルハボックその8。陰謀ものに相応しくキンブリー登場。いいように遊ばれて2人のハボックは右往左往。きっちり借りは返せるでしょうか?ロイも胡散臭い笑顔全開で頑張ります。(笑)

                 

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