「なんでマスタング中尉殿がこんなところにいるんです・・・」

「さっきから何度も言ってるじゃないか、休暇だよ、休暇東部には美人が多いって聞いたんでね。」「お1人で?こんな観光するとこも無い地方都市に?大体なんだってあんなとこにいたんですよー」「別に偶然だよ、准尉。昼食をとろうと思って入っただけさ。そしたら聞き覚えが
ある声が隣のテーブルから聞こえたんでのぞいてみたら君がいた。デート中らしいから声もかけないで立ち去ろうと思ってたら・・ぷっ」「その思い出し笑いいーかげんに止めてくださいよー(泣)」あんな劇的な再会の後10分以上笑いで会話がなりたたなかったのにまだ笑うか!
休日で人の溢れる繁華街のメインストリートを脱力した金髪の男とやけに陽気な黒髪の青年がのんびりと歩いている。さすがにあのカフェで晒しものになり続けるのもアレなので2人は通りに出ていた。体格のいい男と並んだせいでよけいに小柄に見える人は子供の様な好奇心一杯の表情で通りの店を覗いていく。手にはお前のせいで昼食とりそこねたと、男に買わせたオニオンリングの紙包み。
「ああほら、油のついた手でそんな高そーな上着さわんないで下さいよ。ハンケチ持ってないンスか、もう」
「うるさい、お前は子守りか?せっかく観光に来た善良な旅行者をガイドもしないつもりね。」
「はいはい、それじゃ御希望のところに案内しますよ。サ−。何処に行きたいですか・・ってもここには観光名所なんてないですよ。」
ああせっかくの休日がエライことになった。まさかこの人とイーストシティで再会するとは思わなかった。しかもとんだタイミングで。これがいわゆる3回めの偶然なのか?
「御希望のところか・・そうだな,まず東方司令部から車で30分以内」「は?」「別に高級住宅地じゃなくてもいいが静かなところ」「あの,サ−?」「日当たりがよくて、大きめの一軒家がいいかな。」「マスタング中佐、本当にそれが『御希望のところ』なんですか」「そうだよ、どこか心あたりはないかね?」「・・・・」
からかわれてるんだろーか、俺これはどう考えたって観光じゃない、不動産案内だろーが。
あきれて沈黙したハボックを無視し、隣を歩くロイは楽しげにウインドーショッピングを続けていて、急にとある店の前で立ち止まった。予期しない行動につんのめりながら立ち止まったハボックが店を見上げるとしゃれた金看板に綺麗な筆記体で描かれた店名、ウインドーの中には繊細なレース模様も美しい絹のハンカチーフ、べっ甲の髪飾りなどが上品にディスプレイされている。
「あの右はしの黒いバレッタなんかいいじゃないかね」「は?」また脈絡なく飛んだ問いについてゆけずハボックがオウムのように問い返せば「さっきのレディへのおわびのプレゼントだよ。まさかあのままにしておくわけじゃあるまい。」と、ハボック本人はさっきからのショックですっかり忘れ去っていた件を持ち出してきた。
「多分、彼女はそんなに本気で怒ったわけじゃないだろう。あの髪飾りをプレゼントにして明日にでも夕食に誘ってみたまえ。そして素直にあやまるんだな、彼女とは長いのかね?ハボック」
「いえまだつきあい始めたばっかです。」「それならこんな風に言ってみたまえ。−君と一緒にいた時間が短いから制服姿しか思い出せなかったんだ。今度はその髪飾りに合うドレス姿をみせてくれ。絶対心に焼き付けるから−とね・・なに赤くなってるんだね?」
「赤くもなりますよ!そんな気障なセリフ俺に言えるわけないっしょ!そりゃ中佐みたいな色男が言えば様になりますけどねー俺なんか無理!絶対ダメ、想像しただけで鳥肌たっちまう」
赤い顔で手を振りながら反論する様がおもしろくてロイは思わず吹き出した。まったくこの男はおもしろいホークアイ少尉に黙って東部に来たかいがあったな−と思いながら。

「イーストシティは思ったより活気があるな。」歩くのにあきたとごねる人をベンチに座らせ近くのカフェから買って来たカフェ・オレを渡すと猫舌らしく文句を言いながらそれでもおいしそうに飲んでいる。食べきれないと押し付けられたオニオンリングを齧りながら隣を見るとさっきまでの子供じみた言動が嘘のように静かな瞳が街の喧噪を眺めて呟いた。
「もっと荒れた雰囲気だと思っていた。あれから何年も経ってないのに、立派に復興してる。」
あれから−イシュヴァ−ル内乱時にはイーストシティは最前線の軍事拠点として大本営が置かれ、街は軍に占領されたも同然だった。軍関係、商業関係以外の一般人は自らあるいは強制的に郊外に移され、内乱に荒れる兵士の喧噪、高級将校等の夜毎の乱痴気騒ぎが街に溢れていた。喧噪と渾沌とした空気に満ちた街にかつてはロイも居たことがある。それだけにあの頃の荒れた灰色の町並みと目の前の光と人々のざわめきに満ちた街路が同じものとは思えなかった。
「見かけ程平和なとこじゃ無いッスよ。この間は過激派が爆弾をしかけたって声明だして大騒ぎになった、今だってセントラルから手配中のテロリストが流れて来って情報が入って警戒中だし・・おかげで残業続きでデートもろくにできなかった。その挙げ句にあの始末スよ。もう笑っちゃいますよね。」
おどけて話し掛けても返事はこない。自分の思いに沈み込んだような横顔をそっと見てハボックは既視感に捕われる。同じ様な横顔を見たことがあった、イシュヴァ−ルの荒野で、南部の森で−透明な静かな表情、その黒い瞳の奥になにが映っているのか、さざ波一つない湖水を覗き込むように彼の心を見れたならそこにはどんな思いが沈んでいるのだろう。
「准尉・・ハボック、君はどうして軍に残った?」「え?それはどういう・・」
「あんな経験をしたんだ。もう軍はこりごりだと思わなかったか?君には待っている家族もあったし、働く場もあったはずだ。御両親は軍に残るのを良しとしたわけじゃないだろう?」
黒い瞳がいつの間にかこちらを向いて静かな視線を投げかけている、問われた意味の重さに今まで自分の中で沈んでいた思いをかき回されるのを感じながら、ハボックはゆっくりとそれを言葉にしていく。
「そんなに大した意味は無いンスよ。ただ内乱終わってこれからどーすんかって悩んだ時に休暇で故郷に帰ったんス。あ、家族もみんな俺の無事喜んでくれたし、さっさと除隊して家の仕事手伝えって言われたんですけどね。久しぶりに会った甥っ子達も大きくなったし俺のいない間に生まれた姪はもう歩けるようになってて・・イシュヴァ−ルで同じ年頃の子供の死体をたくさん見ました。なんかそれを思い出したらこれでいいのかなって思っちまって」
ポケットから出した煙草に火をつけ、深く煙りを吸い込む。馴れているはずのそれはいつもより苦く感じられた。
「このまま内乱の事忘れて、普通に暮らしてそんでいいのかなーって考えちゃって・・そう思ったら除隊するのもどうかと思ちゃったんです。そしたら軍の上司が仕官学校への入学を勧めてきたんです。」「人出不足解消策の特推入学か」「そ、あの現場の仕官が足りなくて、とりあえず使えそうな奴を仕官学校に放り込めってゆーアレです。仕官になりゃ給料も上がるしもう少し・・何と言うか自分の言いたいことも言えっかなー思ってその話に乗ったンですけどねー。」残業多いし給料低いしこき使われてさんざんです、と笑う男の顔からはそれほど後悔は感じられなかった。イシュヴァ−ルを垣間見た青年のそれが自分なりの答えなのだろう。彼は全てを無かったことにしたくなかった、まだ問い続けていたかったのかもしれない。
あの戦いはなんだったのか、これから自分に何ができるのか。
「そうか・・」呟く人の視線は再び大通りに向けられていた。同じ静かな表情、端正な横顔、しかし口元にはさっきまで無かった微笑が淡い光のように浮かんでいた。

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