CSI:EAST NO BORDER! 

彼等が作業している部屋の入り口を塞ぐ黄色いテープにはCRIME SCENE DO NOT CROSSと書いてある。
犯罪現場につき立ち入り禁止そう書かれたテープの内側こそロイ・マスタング率いるイーストシティ市警CSI科学捜査班の仕事場であり戦場だ。CSIとは最新の科学を武器に犯罪に挑むプロ集団である。彼らは犯罪現場にある全てのもの─塵より小さい埃から髪の毛1本まで分析しそこから答えを導き出す。そこにあるのは予断や憶測など一切入る隙のない厳然な事実のみ。それだけにミスの許されない世界だがロイの部下達の中でそれに怯む者はいないだろう。
今も
「主任、足跡取れました」
「血痕のサンプルと部分指紋採取終了ー」
「隣の寝室は俺がやります」
床に這う者、トイレを覗き込む者、皆真剣な面持ちで作業に勤しんでる。それをロイが満足げに眺めてるところでふいにベルの音がポケットから響いた。
「はい、マスタング・・なんだヒューズか。何処で油売っているんだ?もう現場検証は始まってるんだぞ・・何?」
電話の相手はロイの悪友であり同僚のヒューズ警部だ。いつもならとっくに臨場してるはずの男が何をしているとロイが問いかけたところでその声が急に変る
「何?公園で発砲事件?」
緊迫した声にその場の全員の動きが止まり
「現場は奥の広場の所だって?」
その言葉にロイの顔色が変った。
「それで怪我人は?えまだ良く判らんって?判ったすぐにそちらに行く」
「こっちは任して下さい。主任はどうぞ公園に行って」
察しの良い部下は心得たとばかりに頷くと金髪の美女はロイに銀色のフィールドキットを手渡す。
「すまない、ブレダ、リザ」
それを受け取ったロイはラテックスの手袋をはめたままその場を飛び出して行き
「珍しい事もあるもんだなぁ。あの主任さんが慌てふためくの俺ァ初めて見たぜ」
事情を知らない検屍官がその姿を見送った。

 現場のアパートから問題の公園は幸いな事に近かった。だけど重い荷物を持って全力疾走すれば当然息は上がる。秘かに自慢の黒髪もすっかり乱れたまま目的地に駆け込んだロイを迎えたのは
「あっれー来てくれたんだ、ロイ」
空色の瞳一杯に喜びを表わす金髪の青年のなんとも長閑な声と
「おー早かったな、主任さん」
手製のドーナッツを頬張ったまま喋るヒューズのモゴモゴした挨拶だ。そこにはけが人も走り回る警官の姿もない。
「ど・・どういう事だヒューズ、今は現場検証、検証、中」
ぜいぜいと息を切らしながらロイは問いつめる。その目には本気の殺気が宿っていたが付き合いの長い男は気にもしない。
「どういうって、電話で話したろ?公園で頭のイカレた野郎が銃をぶっぱなした。で俺が駆け付けたらこのワンコがそいつをノしちまってたんだよ」
いや大した事ないッスよ。
笑う青年はそうしてハイとロイに水のカップを渡す。その曇りのない笑顔にロイは脱力したように芝生に座り込んだ。

中略


モノクロームの映像はざらついて鮮明とは言い難い。しかしそこに写る人物を特定するのは容易そうだった。だってその人物はカメラに向かってにっこりと挨拶を送っているのだから。
白いパナマ帽に白いスーツ白のスカーフと着こなした姿は洒落者めいているがレンズを見詰める瞳には得体の知れない光があるようで
「これエレベーターの監視カメラです。推定犯行時刻に近いものからチエックしていたんです。この人物がエレベータに乗った階は犯行のあった階ですし」
あからさまに怪しいですよね?とフュリーが後ろを振り向けば背もたれに掛かった手が震えている。黒髪の主任は画面を凝視しながら押し殺した声で呟いた。
「・・貴様だったのか、キンブリー」

中略

「痩せましたね、ちゃんと食べてますか?」
隻眼の男が去った後駆け寄ったハボックはロイの顔を見るなりそう言って情けない顔になる。へたりと垂れた作り物の金の耳が自分のせいだと言ってるようで
「すまない、仕事が忙しくてな」
ロイは帽子の上から頭を撫でた。だが忠犬はそれぐらいでは誤魔化されない。
「ブラッドレイは何のためにあんたに会いに来た?あの男が関係するような危険な事件に関わってるの?もう心配してるんですよ、俺は」
人目につかないのを良い事にぎゅっと抱き締められてロイはジタンブロンドの混じった匂いに目眩を起こしそうになる。どれだけこの匂いを温もりを身体が求めていたかと。
「仕事だから詳しくは言えない。だがお前が心配するような事はないんだ。私がいつもラボに籠ってるのはお前が一番よく知っているだろう?」
「判ってますけどね・・」
「この仕事が終わったらゆっくりしよう。そうだ今度不動産屋に行かないか?」
「ええっつ・」
思いもかけない言葉にがばとハボックは顔を上げた。これはもしや夢にまで見た
「いつまでも移動販売車じゃだめだろう?そろそろちゃんとした店を持つ事を考えなくては」
同棲の申し出かと思ったハボックのテンションは一気に落ちるがロイはそれに気づかず
「イーストショッピングモールの一角なんかどうだ?あそこに今あるドーナッツチェーンよりお前の方がよっぽど上手い」
まくしたてるが恋人の反応は冷静だった。
「資金がまだまだ足りませんよー。それに店だと人を雇わなきゃ出来ないだろうし」
「資金ぐらい援助してやる。ああ、親の遺産があるから心配するな。これは純粋な投資だしお前の才能を認めてる訳だから。店を持って落ち着くのが夢なんだろう?だったら」
文句言うなと続けようとした唇をハボックの口が塞ぐ。そのまま暫く呼吸も止まる程貪られてようやく解放された時はロイの身体はすっかり力が抜けていた。それをひょいと抱き上げてハボックは彼をワーゲンの中に連れ込む。カウンターのシャッターを閉じて窓のカーテンを引けばそこは外部から遮断された空間だ。料理の匂いと材料を入れた段ボールに調理器具。男2人には息苦しいだろうが恋人達には丁度いい。
床に置いたじゃがいもの木箱の上にロイを腰掛けさせるとハボックは床に膝をついてその身体を抱き締めた。
「何がそんなに不安なんです」


                 

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