フュリー曹長は寮住まいだ。だから普通の1人暮しみたいに食事の心配はしなくてもいい。それでもこういう青空市をぶらつくのが好きなのはたまに古いラジオなんかを売ってる店があるからだ。今はもう手に入らない部品とか、珍しいタイプの壊れたラジオなんかを見つけるのは楽しいし、たまについ買ってしまう事もある。だから今日も寮への帰りに寄り道して彼は市の雑踏の彷徨っていた。焼けたソーセージの香ばしい匂いが鼻を刺激して知らずに足はそちらに向きそうになる。その足を止めたのは
「いい所にいた、フュリー!」
「ハボック少尉?」
金髪垂れ目の少尉だった。今日はもう先に帰っていたはずなのにまだ軍服のままの男は何を慌ててるのかいきなりフュリーの腕を掴むとぐいぐい角の方へ引っ張っていく。
「ちょ、ちょっとなにがあったんですか」
まさか事件かと一瞬考えたが腕を掴んだ男の表情は標準モードだ。フュリーはこの少尉が現場で見せる顔よくを知ってるからすぐこの考えを打ち消した。連れてこられたのは角の電話ボックス。受話器を掴んだハボックはそれをフュリーに渡して
「ちょっとこれ何とかしてくれないか!急いで電話しなきゃならない事があるんだけど、この電話使えねーの。この辺だとここしかないし、頼むフュリー!」
「はい?」
確かにフュリーはよくこの手の頼みごとを受ける。東方司令部で手に負えない機械があればフュリー曹長を呼べというのは当たり前に言われてる事だ。でもまさかこんな町中で言われるとは。「しかし、少尉これ公共のものですよー。勝手に触っちゃまずいんじゃないですか」
一応良識を働かせてみるが相手は聞く耳もたない。
「判っているけど、どーしても今連絡取りたいんだ。頼むフュリー様!」
階級も年も上の相手に頭を下げられて眼鏡の曹長はやれやれとため息を吐く。こういう頼み事を断わるのは苦手だったし正直壊れた機械をほっておくのも嫌だから。
「判りましたよー。でも誰にも言わないで下さいね」
ポケットから取り出したのは小さなケース。ぱっと開けばそこには七つ道具がコンパクトに収納されていてその中の一つを手に取った曹長は素早く覆いのネジを取り外しにかかる。
「部品が必要だったりしたら手に負えませんから。そうだったら諦めて下さいね、ハボック少尉」
「ああ、判ってる。すまんないなフュリー」
ホッとしたようにまた頭を下げるハボックにフュリーは電話の相手はもしかしてハボック少尉の恋人じゃないかと思う。もしかして何か急用ができてデートの時間に遅れてしまうところじゃないのかと。ところが
「すいません、大佐。俺です」
電話の相手はなんと自分達の上官だ。回線は繋げたが応急処置でちゃんとした修理はやはり担当の部署に任せるつもりなのでフュリーは電話が終わるまで所在なげにボックスの外で待つ事はめになる。別に聞き耳たてるつもりはなかったがやはり聞き取り難いのか大きな声で喋る会話は嫌でも耳に入ってしまう。
「帰るの大丈夫スか?・・そうですか、良かった。いえ、今市場に居るんですけど晩飯のメニューで相談が。実はヒラメの生きの良いのと、捕れたての鴨見つけまして、それがどっちももう最後の1匹なんですよ−。両方の店の人にちょっと待っててくれって頼んだんですけど早く決めなきゃ売っちまうって言われて・・大佐はヒラメのムニエルと鴨の香草焼きどっちが良いですか?」
???。眼鏡の曹長頭に?マークが並ぶ。電話の相手は『大佐』と呼ばれる人物でハボック少尉がそう呼ぶ人は多分きっと『あの』大佐に間違いはないはずだが、会話の内容がどうもそぐわない。ハボック少尉がわざわざ上官の家に夕食を作りに行くなんて聞いた事ないし
「いや、俺はどっちでも良いスけどね。やっぱりあんたが好きな方がで良いでしょう?だから大佐が決めて下さいよー」
しかも少尉はとても嬉しそうだ。声は何だか弾んでるし気のせいでなければまるでそう、甘えているような雰囲気すらある。
「野菜がない方?また好き嫌いはダメですよー。どっちを選んでももれなく付け合わせの温野菜はありますからね。え、お前なんか嫌いだ?はいはいニンジンは除けてあげますから、いい加減決めて下さい」
聞いているだけならこれはまるで我が儘な恋人との会話そのもの。ちらりとボックスの中に視線を向ければ垂れ目をいっそう緩ませて笑う顔は今まで見た中で一番幸せそうだ。
「判りました!鴨ですね。じゃあ俺腕によりをかけて料理しますから、大佐も早く帰って来て下さいね」
がちゃんと音を立てて受話器が置かれる。フュリーは慌ててボックスから背を向けて何気ない風を装ったけどすでに心は夕飯の準備に向かっていた男はそんなの気にはしてなくて
「すまない、曹長!ホント助かった、ありがとう!それで悪いけど俺急ぎの用があるんだ」
そう言って走り出す男の背に向かってフュリーは手を振る。
「ええ、ちゃんと片付けておきますから気にしないで下さい、ハボック少尉」
その声が聞こえたのか男は振り返ってもう一度ありがとうと叫んだ。その笑顔はさっき見たのと同じくらい輝いていて
「・・・まぁ、いいか」
正直何がどうなっているかまるで判らないけれど、彼の技術が役に立ったのは確かな事で。その事だけで眼鏡の曹長は満足だった。

1本の銅線は声を伝え、情報を伝える。だけど伝わるのはそれだけじゃない。だからケイン・フュリー曹長は自分の仕事に誇りを持っている。

ハボックやホークアイ以外のマスタング組の背景ってまるで書かれてないですよね。それじゃ寂しいのでイロイロ捏造してみました。発展中のバカップルに振り回される東方の面々、トリはホークアイ中尉です。

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