サービスDAY

天気が良いから洗濯をした。天気が良いから掃除をした。天気が良いから買い出しに出かけた。
ひさしぶりの非番の行動を全て天気のせいにできるほど今日の空は澄んで蒼かった。秋の日ざしは強すぎず、夏の日より光の粒子が多い様なかんじで−ともかく家にいるこたないなとハボックは背伸びしながら
思った。それにここのところ忙しかったし、色々不足している物もある。えー石鹸に歯磨き、塩に小麦粉
買い物リストを延々頭の中で作成しながら市場への道を辿る。そういや我侭上司のお気に入りのお茶もきれてたな。自分の家に不定期に食事を食べに来る(半分はこっちが誘う。)直属の上司は好き嫌いが激しい。
嗜好品に関しては気に入りの物でなければ手も出さない。おかげでハボックは東方に赴任してからそんなに経って無いのに上司の好みはすっかり把握してしまった。この間お茶の銘柄間違えたら水しか口にしなかたもんなー。ぼやきながら彼の好みお茶をお買い物リストのてっぺんに書き込むハボックは気が付かない。上司ー東方司令部副司令官ロイ・マスタング中佐がそこまで我侭っぷりを曝すのはこの金髪の准尉相手限定とういうことを。

市場がある広場は人であふれていて無駄にでかいと上司から言われるハボックは目当ての店を回るのに大分苦労をしていた。
「おばちゃんそのお茶、違う右の包みのやつ。それ半斤ちょーだい。」それにしても俺なんで中佐専用茶を一番に買ってんだ?今日来るって約束したわけじゃ無いし・・そーいや今日は中佐ホークアイ少尉となんとかいう東部の田舎に日帰り出張だったっけ。なんて名だったかな・・いささか上の空の人間の手をこれ幸いと売り手のおばちゃんがはっしと掴んだ。
「待った兄ちゃん。見れば若いのにぼーっとしてビタミン不足やないか?。若いうちからそんなんでどーする。この林檎買ってきなはれ」近郊の農家から来たらしい妙な?方言を使うおばちゃんにあっという間に山盛りの林檎を持たされ気が付いた時には財布を出している自分にはっとしてハボックは抵抗を試みた。
「多いよーおばちゃん俺一人もんだし・・」
到底買わないとは言えそうもないのでせめて数を減らそうとするが「一人もん?それなら尚更ちゃんと果物とらなきゃあかん。毎朝林檎一個で医者要らずちゅー昔の人の有り難い言葉も知らんのかい。それに今日はサービスDAYや。いつもより3割引のお値段や」「おいくらですか・・」すっかり白旗掲げてハボックは全面降伏する。渡された紙袋に山盛りの林檎はそれでも甘い秋の香りがした。
ま・いーか。今の攻防ですっかり疲弊した陣営を立て直そうと、広場のベンチで一服しながら、伸びをした。見上げる空は何処までも蒼く、光に溢れて、地には平和な光景が広がっている。「サービスDAYね。」幸せそうな笑みを浮かべて、金髪の青年は呟いた。

秋の日は暮れるのが早い。あれから人込みに再突入したハボックが買い物リストの全てをクリアーした時には空は見事な夕焼けになっている。明日の晴天を確実に約束する様な真っ赤な夕日を浴びながら家路を急ぐ
と前方自分のアパートの入り口に佇む人影を発見した。黒髪に黒い瞳遠目でも決して違える事のないー
「マスタング中佐!」両手を塞ぐ荷物の山を崩さないようにしながら慌てて駆け寄る。
「何してるんですこんなところで。一人ですか、護衛はどうしたんですか。今日出張でしたよね。おっと」矢継ぎ早に質問をだすとその勢いのせいかついに荷崩れをおこした紙袋からさっきの林檎が転がり落ちる。「あわわ」雪崩を起こそうとする荷物を止めようと体勢を崩す。あわや全面崩壊というところを「落ち着きたまえ准尉。」冷静な上司が手で押さえた。そのまま荷物を下に置かせ、散らばった林檎を拾って渡す。「出張は無事にすんだ今日の業務はそれだけだったので、駅から直帰したんだ。車はついさっき帰したばかりだ。ここへは夕食を食べに来た。」
まるでハボックの家が食堂みたいな言い方に脱力しながら「あーそですか。しかし俺居なかったらどうすんスか。」「デートの約束があるとは思えなかったし、ちょっと遠出したのでいささか疲れてね。食事抜くくらいなら家にこいと言ったのはお前だろう。」
それは事実だ。食事よりは睡眠、睡眠よりは読書を優先するロイの生活習慣を見かねての申し出だった。
ただそれを言った時この男が内心でガッツポーズをきめたのには気がつかなかったけれど。
「優しい部下を持って幸せだよ。私は」上目使いにニッコリ笑うと何故かたじろぐ失礼な部下を尻目にさっさとロイはドアに向かう。慌てて鍵を取り出しながら「そんならいいですけど、本当にホークアイ少尉が許可したんスか。まさか駅から逃亡したなんてことないでしょうね。」ドアを開けてロイを招き入れながらまだ不信感を漂わせるハボックに「疑い深いなお前は。今日は少尉の方から帰っていいと言ったんだ。それより客にお茶も出さんのかね。この家は。」とふて腐れた様にロイは言ってソファに座り込む。
「へーへーちょっと待って下さい・・って少佐手ぐらいちゃんと洗ってくださいよ。」俺はこの人の母親かとつぶやきながら狭いキッチンでお湯を湧かし、買ってきた荷物を整理する。それからシンクに転がった林檎を手にとった。

「おまたせしましたー。」買ってきたばかりのお茶と山盛り剥いた林檎を手に居間に戻る。居間といっても薄給の身、小さいダイニングテーブルとソファで一杯だ。西向きの窓はかなり大きく夕焼けの名残りが明かりもつけない部屋を赤く染めていた。赤から闇へ翳りゆく空間の中で物憂げにソファに座ったロイは生気のない置き物の様に見える。頬杖をついた顔には表情が無く視線は当ても無くさまよう。・・変だな。ようやくハボックはいつもと違うロイの様子に気がついた。疲れているにしても覇気がないというか、なんか途方に暮れているている子供みたいな。東方司令部の業務を仕切るホークアイ少尉が素直に帰えらせたのも無理はないかも。
「お茶ですよ。少佐。ほら上着ぬいで、寛いでください。ああしわになるからこっちに貸して。」明かりをつけながらいつもの様に世話を焼く。
「何だこの林檎の山は。」「市場で威勢のいいおばちゃんに売り付けられまして。でも林檎って身体に良いらしいっスよ。なんでも毎朝林檎一個で医者要らずだそうで」その時の攻防を思いだして金髪をかきながら垂れ目の男は笑う。「まあ・・昔からそう言うがな。」そういってロイはカップに手を延ばした。
・・やっぱりおかしい、いつもならここでおばちゃんに適わなかったのかとか皮肉の一つも来るはずなのに。忠犬は敏感に主人の異常を感じ取る。出張先で何かあったのかな。「そーいや今日の出張ってどこでしたっけ。なんか東部の小さい村って聞きましたけど。」「リーゼンブール。」「あんま聞いた事ないっスね。どんなとこですか。」「なんにもない田舎だよ。車もなくてな。とっくに退役してなきゃならんような御老人の憲兵が荷車で案内してくれた。」「そりゃうちの実家より田舎ですね。」
それ以上会話は続かなかった。こんな好い天気の日にそんな田舎の村でアンタにそんな顔をさせるような事
があったんですか。心に浮かんだ問いかけはしかし言葉にしない。
「それより夕食なんにしましょう。なんかリクエストありますか。」「いや何でもいいよ」「そーすか、それじゃちょと時間掛かるけどチキンクリームコロッケにしましょうか。好きでしたよね。」「珍しいないつも手間掛かるとか言って作るの渋るのに。」なんとなく不信感を漂わせるロイにわざと明るく答える。
「いやホント今日はそうするつもりだッたんスよ。新鮮な生クリ−ムも買ったし。」それは嘘だほんとはクリームシチューにするつもりだった。でも今のロイの様子を見て予定は変更。「じゃできるまでそこで休んでて下さい。毛布持ってきますか。」「・・世話かけるな。」「それは言わないお約束でショ。」めったに言わない感謝の言葉をわざと茶化して返してハボックはキッチンに戻った。 

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