犬日和

本当は少し嫉妬している。大佐のそばにいるあの金色の固まりに。
だってあいつが来てから大佐はあんまり頭を撫でてくれなくなった。あの白い手の感触は俺1人のものだったはずなのに。名前を呼んでにっこり微笑んでーそういう機会も減った気がする。
俺1人の大佐のはずだったのに。

「どうしたハボック。ため息ついてないで早く御飯の支度してくれ、この子もお腹すかしてる。」
なぁジェイ。
腕の中の金色の固まりを撫でながら黒髪の大佐はもう一匹の犬に催促する。しおしおとキッチンへ行く涙目になった犬(人型タイプ)の背中に嬉しそうな犬の鳴き声が響いた。
「うわん」(早くしろよー)

ーやっぱりちょっと嫉妬している。

マスタング家の朝は早い。東方司令部の実質的トップである家主には毎日山のような仕事があり重役出勤など考えられない。
おまけに壊滅的に寝起きが悪い家主をサポートするため2匹の犬はいつも早起きだ。
大事な御主人様のために。

早起き雀の鳴声に目を開ければもうすっかり朝だ。うーんと伸びをしてごくごく水を飲んでから俺は専用ドアをくぐって外に出る。
湿った土の臭い、草に落ちた露の臭い。朝の空気はきゅっと体を引き締める。そのまま門のところで待っているといつもの兄ちゃんが新聞を配達しに来る。
「おはよう。いつも偉いな。」
挨拶と一緒に渡された新聞をそっと銜えて中に戻れば階段を降りてくるあいつの気配。
「ふぁーあーあ。よぉ、相棒。」
ぼさぼさの毛並みは俺と同じ金色。(でも俺の方がずっとつやつや)黒のTシャツに腕を通しながら煙草を銜える姿は普通の人間よりずっとでかい。はっきり言って可愛げなんか全然無いのに大佐はこいつがお気に入りだ。
・・・俺はちょっと気に入らないけど。

キッチンで調子はずれの鼻歌を歌いながらあいつは朝食の支度をする。俺はその間庭と門の周りを点検に廻る。夜中に不審な物が置かれたりしてないか自慢の鼻でじっくり調べる。そして
「そろそろ、大佐起こしてくれよー。」
テーブルに皿が並ぶ頃俺は2階に駆け上がる。大事な御主人様を起こすために。
大佐。大佐、朝だよ、起きて。
「うーん、後5分・・。」
だめだよ。朝御飯食べる時間が無くなるよ!
「食べなくていいから後5分・・」
そんなのだめ!
「うわん!」
「わっっ。」
問答無用とばかりに枕を取り上げればようやく大佐はベッドから起き上がって俺を見た。ぼさぼさの黒髪のままぼーっとしている姿は犬から見てもとてもかわいい。
おはようございます、大佐。
挨拶代わりにぺろんと頬を舐めれば
「おはよう、ジェイ。」
白い手が頭を撫でてくれる。とっても大事な朝の一時。

「おはよう、ハボック。」
「おはようございます、大佐。」
金色の犬を従えて黒髪の大佐が階下に降りて来る頃にはテーブルの上に幾つもの皿が並び、ポットからは白い湯気が立ち上っている。完璧に整えられた朝食に満足そうに頷いてロイがテーブルに着くと、さっと下から新聞が差し出された。それと同時に右側からコーヒーカップが差し出されどちらを先に受け取るべきか御主人様ちょっと悩んだが結局両手で2つ同時に手にした。
「ありがとう、ジェイ、ハボック。」
2頭の犬を飼う時は愛情が片寄ってはいけません。
有能な副官の忠告をロイはきちんを守っている。










「金色の犬」後日談。ロイと2匹の金色の犬との生活は・・?ウェブにアップした「TRICK OR TREAT」も加筆修正して収録しました。

                 

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