東方的日常生活

ある日上司が感心したように言った。
俺の作った料理を食いながら
「お前本当にマメな奴だな。でかい図体して。」
・・・・・は?
まめ『忠実』(名・二形動)
1、まじめなこと
2、めんどうをいとわずにすること。よく注意して働くこと。かげひなたがないこと。
3、体が丈夫なこと。健やか・・・・以上歩く辞書ことファルマン准尉より。

いやそうじゃなくて!サーそれは誉めているのでしょうか?

自慢じゃないが生まれてこの方いーかげんとか不真面目とかならさんざ言われてはきたけど。
「こうやってちゃんと食事のしたくできるし」
シチューなんて材料切って煮るだけです。
「部屋もキチンと片づいてるし」
あんたの部屋とくらべればのハナシです。独身男の一人暮らしなら平均以下だと思います。
「やっぱりマメな男だよ。それで何で御婦人方ににもてないのかね?」
よけいな一言を言って満腹の上司はデザートを要求した。

俺ってマメな男なんだろうか?必要最低限のことができるのは姉貴達にそう叩きこまれたからだ。俺の実家は東部で商売と農業をやってて両親は忙しく俺の世話は年の離れた二人の姉にまかされたと行って良い。彼女らの教育方針は「自分のことは自分で」これにつきた。食事の後片付けから調理の手伝い、部屋の掃除や洗濯まで物心ついた頃から2人に仕込まれ育った俺はそれが当たり前だと思ったもんだ。
おまけに二人ともさっさと結婚してあっという間に母親になり、これまでのお礼とばかりに俺に赤ん坊の世話を手伝わせた。まさしく錬金術でいう等価交換。おかげで襁褓もかえられるし、ミルクを人肌に温めることもできる。十代の貴重な日々をベビーシッターに費やし、何故か近所の子供の世話係にまでなって(俺の村は同年代の子はどういうわけかあまりおらず、ちょっと下の年代の子ならやたら多かった。)何かと慌ただしい子供時代を送ってしまった。
その反動で家を出てからは他人の世話なんかまっぴら!になるのは仕方ないだろう。あっさり、飄々、マイペースを信条に、つきあう女の子も世話好きな感じの子が多かった。可愛くって面倒見がいいコとか、胸がおっきくて年上の世話好きな女性とか(ゆっとくけどシスコンじゃないぞ。)頼られるとウレシイけど、甘えるのも大好きだ。
なのに何で横暴・我侭・上司の世話を焼いているにだろう?
食事の支度をしたり、部屋を片ずけたり軍人の仕事じゃないよな。確かに放っとけない何かがあるし、どういうわけか傍にいたいなんて思ったりする事もあるのだけど、年上のしかも男で上司の世話を焼きたがるなんてヘンだろう、普通。
きっかけといえばあの事件(?)か?イーストシティに赴任して来たマスタング中佐はあろうことか自宅で遭難しかけたのだ。

その頃の東方司令部の忙しさは殺人的といってよかった。ロイ・マスタング中佐の赴任直前に前任者オーベット大佐は急病で入院。後を引き継いだ人物は故意にか力不足か穴だらけの引き継ぎ業務を残し、そのしわ寄せは中佐の書類仕事を倍にした。
おまけにテロの予告がいくつか発生−それらは中佐の的確な指揮と判断で未然に防がれたが−司令部内の誰もが緊張と疲労を強いられる日々が続いた。とどめとばかりにホークアイ少尉は中央に出張となってしまい、着任したての中佐は仮眠室に泊まり込むという日が続いた後の事。
晩秋のイーストシティの夕暮れは早い。街路樹を色鮮やかに染めていた枯れ葉もいつの間にかすっかり落ちてしまい、マトモに風景を見る余裕もなかった事をハンドルを握るハボックに感じさせた。連日の泊まり込みで疲労が隠せない上司は車で自宅に送られる時も今夜は冷え込みそうだから暖房の用意しといたほうがいいスよ−とか、ちゃんと食事とってくださいね−という部下の話にも生返事しか返さなかった。
「つきましたよ中佐。起きて下さい。」
「・・ああ御苦労、お前は今夜は夜勤か。」
「イエッサー。それより今日は暖かくして休んで下さい。この時期のイーストシティは急に冷え込みますから。」
「そうかセントラルはまだそんなに寒くはならないがな。御忠告ありがとう、お休み准尉。」
「それでは明日は7時にお迎えに上がります。」
吐く息が白くなってるのに気がつかないのか、手を振って中佐の姿は扉の中に消えた。・・思えばこの時から嫌な予感はしてたんだ。東方の冬は駆け足でやって来る。おまけに砂漠の間にある山岳地帯のおかげでセントラルよりずっと寒さは厳しいのだ。甘くみると大変なのに。

翌朝は予測通りこの冬一番の冷え込み。司令部の中庭は芝生に降りた霜でうっすら白く光り、バケツの水には薄氷がはっていた。
「おはようございまーす!ハボック准尉。これからマスタング中佐のお迎えですか。」
頬を真っ赤にして挨拶してくるフューリー軍曹の息は真っ白、眼鏡も曇りそうないきおいで傍らを元気に走り抜けていく。
「おう、それがすんだら俺は今日こそ家に帰るからなー」
ここ2、3日叶わなかった願いを今日こそはと思いながらハボックは送迎用の車に乗り込んだ。
ロイ・マスタング中佐の家は司令部から車で20分の静かな住宅街にある古い屋敷だ。もとはイーストシティの名士の一族が代々住んでいた重厚なしかし暖かみがある古い家で、裏手には小さな公園が広がっている。先の休暇の時に言い付けられた無理をなんとかこなそうとハボックが慣れぬ不動産屋通いをしてリストアップした新築、高級物件は尽く没にした男はその際に通りかかったこの家を何故だか一目で気に入ってしまった。その日の内に手続きを済まし、1週間後には仮住まいの上級将校用宿舎を金髪の副官が止めるのも聞かずさっさと出てしまって、今日に至る。
「おっかしいな・・・」呼び鈴はもう10回以上鳴らしている。それなのに重厚な樫の木でできた扉は開く気配も答えも無い。時刻はもう7時20分過ぎでいい加減出て来て頂かないとヤバい、というよりおかしい。今までこんな事は無かった、何回か中佐の出迎えは受け持ったがいつも1回目のベルで出て来たのに返事さえ無い。寝過ごしているならいいが、万が一病気だったり、何か不測の事態が起こっていたとしたら・・これはもう非常手段を使うしかない。
そう判断してハボックは迎えに行く者が一時的にホークアイ中尉から渡される合鍵を取り出した。いつもはロイの机の引き出しに入っているそれは今の様なアクシデントを想定して迎えの者に渡される。そして車に乗り込む時に本人に返還されるのだ。尤も今の所誰も使った事は無いだろうソレをハボックは緊張しながら鍵穴に入れる。
重い樫の扉は僅かなきしみと共に開き玄関ホールの薄暗い様子が徐々にハボックの目に入ってくる。凝った寄せ木細工が美しい模様を描くホールには冷えてしんとした空気が漂って人の気配などまるで感じられない。
「失礼します。マスタング中佐ー起きてますかーハボック准尉です。」
取りあえずそこから寝室のある2階に声をかけた時、なにやらうめき声のようなものが玄関ホールの右手の扉、元・応接室の方から聞こえて来た。

やっと始まった東部編。二人のいまいち普通でない日常をお互いの視点から。まずはハボックバージョン。甘い雰囲気になるんでしょうかねぇ・・・(いつも努力はしているつもりなんですが)

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