「掃除とかはどうするつもりだったんです?」
ヒマができたらやるつもりだったさ。ホコリで人間死にはしない。
「洗濯とかは?忙しくてもデートはしてましたよね?まさか洗ってない軍服着てたとか・・」
全部まとめてクリーニングにだしてたよ。レディの前で恥をかくわけないだろう
『アンタには1人暮しする能力はありません!』
・・・・失敬な。
言いたい事言って生意気な救助犬はロイをベッドに追い込んだ。確かに疲れてはいたから別に逆らいはしなかったが、何となくあの迫力に押されたのも事実だ。ハボックが司令部に連絡したらホークアイ少尉は出張から帰っていたそうで、これはさぞ怒ってるだろうと明日の事を思っていささか憂鬱になったが、ともかく今日はゆっくり休んで下さいという優しいお達しが伝えられた。車を司令部に返しにハボックが戻った時にはすでに昼近くになっていて、非番の准尉にはちょっと迷惑かけたかなと珍しく反省しながらふかふかの枕に顔を埋めた。冷えきっていたこの家もスチーム暖房のおかげでほんわり暖かくなっている。こうやって自分の家のベッドでゆっくり横になるのは何日ぶりかも思い出せないくらい疲れてはいたが、なかなか望む夢の国は訪れない。窓に掛けられた遮光カーテンの隙間からもれる陽光から逃げる様にロイは布団の中に潜り込み猫の様に丸くなった。
『1人暮しする能力が無くて悪かったな。』潜り込んだ布団の中で声に出さずここには居ない部下
に向かって1人愚痴る。仕方ないだろう13才の時からの寄宿舎育ちなんだから。与えられたスペースは広くても1人部屋、大抵は2人部屋で自分で管理するのはベッドルームと共同の居間くらい。そのくらいならちゃんとできたさ。
・・尤もヒューズと同室になってからはほとんどしなくて済んだけど。アイツときたら整理整頓大好きの世話焼き人間で文句言いながらも部屋の衛生水準の維持に努めてたっけ。
「ローイ、図書館から借りた本ベッドの下に置くなよ。また期限切れてこと忘れて呼び出し食らうぞ。」
「だーかーらーどうして俺が2、3日レポートに集中してたくらいで居間がこんなになるの。お前のソレ一種の才能だぞ。」
「わかった!もうお前手だすな。片付けようとしてくれたのはよーく解った。・・・けど何で前よりひどくなるの?」
だから一応努力はしたんだよ、ヒューズ。
眠気と疲れで朦朧とした意識の中、今度はセントラルにいる親友に向かって弁解を試みる。
セントラルの幼年学校に行くまでは、家を出るまでは掃除も洗濯もした事無かったし、料理の手伝いもやらなかった−というよりさせてもらわなかったんだ。家のことは女中と執事が万事取り仕切っていたし、その中で私はほとんどほっておかれてたんだから。別に冷たく扱われたわじゃない、ただこっちも字を憶えてからは(教えてくれたのは執事だ)書斎に籠ってるような子供だったから・・扱いに困ったんだろう。
学校には行かなかった。行けとも言われなかった。だから今でも家といえばあの書斎しか思い浮かばない。天井までそびえる本の壁、革の背表紙に鈍く光る金文字で描かれた練成陣、磨き込まれた重厚な樫の扉・・
ああそうかこの屋敷は何となくあの家に似ているんだ、ハボックが捜してきたのはどれも清潔で使いやすそうで・・でも何となく馴染めなかった。石造りの壁に蔦が這うこの屋敷を見た時ホッとしたような感じがしたのはそのせいか。
おかしいじゃないか、ロイ・マスタング。何の思い出もなかったあの家が懐かしかったなんて。せっかく無理言って家捜しを手伝わせたハボックの努力を無にしてしまって・・おまけにこの醜態だ。いい加減彼があきれて怒るのも仕方ないな。
なし崩し的にマイナス方向に向かう思考は幸いなことにようやく襲ってきた眠気がうやむやにしてくれる。無意識の内に両肩を抱き締め枕に顔を埋めればゆっくりと意識は夢の淵に向かって落ちていく。
もうハボックはここには来ないな・・・思考が途切れる寸前に呟かれた言葉を聞いたのは上等な羽枕だけだった。

気がついてみれば辺りは一面の雪景色どうやら冬のブリックス山らしき所ににロイはいた。何故だか1人でおまけに着ているものといえば通常仕様の青い軍服だけでコートも無い。
なのに寒さは感じられない。それどころかなんだか熱い上に息苦しい、気がつけば自分の周りを金色のふわふわした物体が幾つも取り囲んで寒さから守ってくれているわけだが、よくよく見ればそれは金色のセントバーナードの群れだった。
つまりロイは冬場に集団で暖を取りあう猿団子ならぬ犬団子状態のまん中にいるらしい。健気に寒さから守ってくれるのは有り難いがこれでは窒息してしまう!ともがいていたら背中を向けていた1頭がくるりと振り向き、ばっちり目があってしまう。
ふわふわの長めの毛が垂れ気味の青い瞳にかかってやる気の無さそうな顔をした金色の大型犬。
それはロイを見て大人しくしてろとばかりに一声吠えた。
「何もがいてるんですかーマスタング中佐。ベッドから落っこちゃいますよ。」
「ハボック・・うわっつ」
「中佐!」
一気に覚醒した身体で飛び起きようとしたロイは自分が広いベッドのはしっこまで転がっていた事に気がついていなかった。当然の結果として起き上がろうとついた手はシーツから滑り、そのまま身体も布団ごと後を追う。
鈍い音と共に寝室の扉を開けたハボックの目の前でロイ・マスタング中佐は見事にベッドから転げ落ちた。

「だからさっきから説明してるじゃないですか。様子を見にいったら、中佐ベッドの上を蓑虫みたいに転がりながら唸ってるじゃないスか。あのままいったらベッドから落っこちると思って声かけたんですよ−。悪気なんてこれっぱかりもないスよ。」
「うるさい。お前があんな間抜けな声で起こすからあんなことになったんだ。大体上官の寝室にノックもせずに入る奴があるか。」
精一杯の威厳をこめた表情で部下を咎める上官の鼻は寝室の床とキスしたおかげで赤くなっている。おまけに御自慢の黒髪は寝癖でぼさぼさ。しかも文句を言う間に口に運ぶのはその部下が作った温かいシチューである。
「それは失礼しました。SIR.これからは最低20回はノックしてから入室致します。・・・ところでシチューのお代りはいかがですか?」
「ああ頼む。それから以後気をつけるように。」
重々しい答えと共に差し出された食器にはしっかりブロッコリーが残って、丁寧な言葉とは裏腹に金髪の部下の表情は吹き出す寸前である。皿とロイの顔を交互に見詰めてから上官侮辱罪にならないようしっかり口を抑えてキッチンに逃げてく姿にロイは小さくため息をついた。
壊滅的打撃を受けた上官の威厳はどうやったら回復するか真剣に悩みながら。




いきなり捏造過去話になるとこでした。おまけにヒュロイ風。
あわてて軌道修正したらおまぬけロイになってしまった・・

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