焔の中にその人は居た。それ程広く無い空間は容赦なく焔の侵略を受けているのにロイ・マスタングの半径2m以内には決して近寄ってこない。まるで目に見えない球体が彼を包み込んで守ってるかの様に、赤い火が布のみたいに周りを取り囲み、その中心に座す彼は火を統べる王にも見える。煤のついた顔に不敵な笑みを浮かべ、真直ぐにハボックを射る黒い瞳には恐れの影など何処にもなかった。
「御無事でしたか・・大佐」
「無傷と言うわけには行かないがな。爆風で倒れた柱で足をやられた、それでもお前は私を連れてゆけるか?」
「愚問ですよ、大佐。アンタを連れに俺はここまで来たんです。」
言うなりハボックは上着を脱いでロイの頭に被せ、何するんだと喚く人を肩に担ぎあげてしまう。
「ハボック!」「あーあばれんで下さいよ、大佐そんな上着でも一応防火の足しにはなります。あ・俺はツラの皮厚いから大丈夫。」
「・・そんなのよ−く知ってる。しかし荷物じゃないぞ、私は。」
「それ以上文句言うならお姫さまだっこしますよ、大佐。じゃいきますからね!」

火の勢いはさっきよりずっと強くなっていてあちこちから燃える破片などが落ちてくる。それらを避けつつ
来た道を戻る。むき出しの二の腕が火に炙られるが痛みを感じている余裕は無い。生きてた。生きていてくれた。その事が俺に力を与える。背中に感じる彼の鼓動、確かに刻む命の証、それが俺の鼓動とシンクロしていくみたいだ。
「!」やっとたどり着いた出口の前は火の海だった。燃え盛る焔は壁のように立ちふさがりその先にあるはずの扉さえ見えない、この中に飛び込むのはいくら何でも自殺行為だろう。立ち止まろうとする俺の耳もとに大佐の命令が力強く響く。
「止まるな、ハボック!」「YES.SIR!」
目の前に白い手袋をはめた手が突き出され、背後から突風のような風が吹き抜け、焔の壁に穴を穿つ。瞬間的にできた間隙にためらわず俺は飛び込んだ。そのまま勢いを殺さずに走り抜け、階段をジャンプし、気がついた時にはあの熱気は何処にも感じられない。煙りで充満していた肺が新鮮な空気を欲して思いきり息を吸い込む。見上げた空は火に焼かれた目に眩しい位の青だった。
「着きましたよ、大佐。大丈夫ですか?」
「私は平気だよ、少尉。さっさと下ろしたまえ。」
変らないその言い種に泣きたいんだか、笑いたいんだか自分でもわからなかった。
「ハボック少尉!マスタング大佐!」
周りにいた部下達が驚いた様に駆け寄ってくるのが煙りにやられてぼんやりとした視界に映る。もしかしてあの小柄な金髪はホークアイ中尉か、これはきっと物凄く怒られるな。覚悟を決めつつ肩に担いだ人を怪我の具合を見つつゆっくり下ろす。
「大丈夫スか、大佐。中尉が来ますから覚悟して下さいよ。・・・気絶した振りしたってダメっスよ!」

ホークアイ中尉の雷は取りあえず保留となったらしい。彼女は現在の状況を簡潔に報告し大佐と俺を医療班
の所に連れていった。軽症だった俺はそこからすぐ現場の指揮に戻り、消火活動に専念することにした。大佐の事も気になったけど中尉がいるならあの人もこれ以上無茶はしまい。そう思ってたのに、指揮車両に呼ばれてみれば胸から腹に包帯巻かれた大佐が上着を肩に掛けただけのワイルドな格好で指揮を執っている。頬についた黒い煤も落とさずにいるからまるで前線にいるみたいだ。傍らに控えたホークアイ中尉は何も言わないけれど何となくその顔には、仕方ないといった空気が漂っていた。
「な・何でアンタまだここにいるんです!。さっさと病院行って下さいよ、大佐。」
叫ぶ俺を目線で抑える大佐からはさっきまでは無い怒りのオーラが立ち上っているみたいで思わず俺は姿勢を正す。
「爆発直後にこの近辺をうろついていた不審者を尋問した。その結果、先ほどの爆発はこれを消すためのものだったらしい。」
そういって彼が投げたのは小さなパラフィンの袋。中には白い粉が入っているもので、ある意味俺達には見慣れた代物。
「あの建物の奥の部屋に落ちてた。どこかの組織がどうやらあそこで違法ドラッグの精製をしてたらしい。町中だからかえって盲点になると思ったらしいが、そのうち住民に不審がられた。それに気がついてブツを移動し、ついでに火事にみせかけて証拠隠滅を謀ったんだ。その細工中に我々が来たものだから焦った馬鹿が起爆スイッチを押した、であのザマだ。」
「道理で火の廻り早いと思いましたよ。・・でどうするんスか?この後。」
「ハボック少尉怪我は大丈夫か?」
黒い瞳に光がうかぶ、悪巧みをする時は特に強く感じるそれを受けて俺も負けずに答える。
「こんなのなんともありませんよ。大佐、どうか命令を。」
「移動したブツの場所と組織の幹部の居場所を聞き出した。司令部よりこちらからの方が近い。ここは他の隊にまかせお前はアジトを急襲しろ。まだこの事に奴等も気付かないだろうが、いずればれる。」
「YES.SIR.
直ちに向かいます。・・でもこの短時間に良く聞き出しましたね。」
「焼き加減はミディアムレアがお好みだったらしい。」
そう言って視線を流した先には両手を黒焦げにされて放心したようにへたり込んでいる男が2人。
「また過激な事を・・・」
苦笑する俺を見て大佐はちょい、ちょいと犬にでもするように手招きしてくる。素直に近付く俺の熱でちりちりなった前髪をいきなりひッ掴んで耳もとに囁いた。
「愛犬のお気に入りの金色の毛並みを台なしにしてくれたんだ・・罪は万死に値するよ。ハボック」
耳に響くその声。悪魔の囁きだってこんなに甘くはないだろう。俺の脳髄に直撃をくらわした人はポンと頭を押してさっきの甘さをかけらも感じさせずに言い放つ。
「これは時間が勝負だ、走れよ猟犬。」
「アイ・サー走りますよ、アンタのためにね・・そのかわりすぐ病院行って下さいよ!」
言い捨てて俺は走り出す。ちらっと振り返った視線にホークアイ中尉が任せろとばかりに手を挙げたのが見えた。
「小隊!集合!これより連中のアジトを襲う。気を抜かずにかかれ!」下火になった火事現場に猟犬の咆哮が響いていた。

・・・「行け!」その命令が俺を動かす。その白い手が指す方向が俺の行く先。その声がある限り、例え
息が途切れても俺は走り続けるだろう。






12巻買いました。やっぱりまとめて読むといろいろ込み上げてくるもんがあります。すっかり『男』の顔になったハボに感動したり、怪我をかばいながら戦う大佐にくーっときたり・・・・その挙げ句に書いたのがこれ。興奮そのままいささか暑苦しい物となってしまいましたが、御勘弁を。 
がんばる少尉と戦う大佐にエールをこめて。

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