全ての幸いがあなたと共にありますように。

GIFT

「なぁジェイ。クリスマスプレゼントは何が欲しい?」
わぅ?
最近大佐はよくこの質問を俺にする。俺は人間の言葉は判るけど喋れないから困るんだ。でも大佐はそんなの気にしないで(当然だ。俺が返事するとは思ってないだろう)質問を続ける。
「暖かいコートが良いかな」
うー。いや俺自前の毛皮あるし。
「ふかふかのベッドとか」
くー。いまあるので十分ふかふかだと思うけど。
「いっそ橇なんかどうかな、ジェイ!」
わぅ! そんなん俺が貰ってどうすんだよ!

「たーいさ、犬に向かって何真剣に聞いてるの。そんなんはっきりしてるじゃなっスか。こいつにとって一番のプレゼントはあんたと一緒に居られる事っスよ」
わん!!
返事に困った相方を見かねて助け舟を出したのはヒト科犬属の少尉だ。さすがに同族の事は判ってるらしい彼の言葉に金色の犬は尻尾を振って賛同の意を表わしている。
「すごいモノだな、ハボック。やはり犬の事は犬が一番良く判るんだ」
真面目な顔で感心する上司にハボックは平然と追加の書類を差し出した。今さら犬扱いに動ずるような心臓は持ってない。
「えーえそうですとも。だから大佐もちゃっちゃとこの書類片付けて。期日までに終わらせないとせっかくホークアイ中尉が約束してくれたクリスマス休暇取り消されちゃいますよー」
「わ・・わかったよ、ハボック。クリスマスはジェイと一緒に過ごすんだ。そう約束したんだから」
わん!!
忙しい御主人様の言葉に足下の大型犬はもう一度嬉しそうに吠えた。

くりすますにはくりすますつりーとプレゼント。でもくりすますって何?
2度目の雪で街はすっかり白くなり散歩すると足はすっかり冷たくなる。この時期店や家の周りは何だかキラキラしたもので飾り付けられ何だかみんな陽気になる。野良だった頃はよく知らなかったがこれがくりすますと言うらしい。
そう大佐が教えてくれた。えーっと昔のエライ人の誕生日でこの日は皆集まって御馳走を食べるとかプレゼントを贈るとか。それからクリスマスツリーというのを飾るんだ。
「ほら御覧、立派な樅の木だろう」
居間にあるそれを見て大佐は嬉しそうに言う。昨日届けられたそれは居間の暖炉の横に置かれた。大きさはあいつと同じぐらいだから結構でかい。
「さー早く飾り付けしましょう。もう今日はイブですから」
あいつが手にした箱にはキラキラしたガラスの玉や小さい赤い靴下や羽根の生えた人形が入っている。これを飾らないとクリスマスツリーにならないらしい。
「じゃあ相棒、大佐を手伝ってやれよ。俺はディナーの準備があるから」
トンとそれを俺の前に置くとあいつはエプロン締めてキッチンに戻っていく。その箱の蓋を開けながら大佐は子供の様に笑って言った。
「じゃあ、始めようか」

「次はどれにしようか?このガラス玉か、林檎?」
わう!
「そうか林檎だな。・・うーんこの辺がいいかな」
わん!
果たして本当に会話が成立してるのかは謎だが大佐はそうやってツリーを飾り付けていく。さっきまで緑一色だったそれは金や銀のモール、赤いリボン、幾つものガラス玉などできらきらと輝いている。もう大分少なくなった箱の中身を見た大佐はちょっと残念そうだ。
「ああやっぱり、もう少し大きいセットにすればよかった。後はこれを天辺につければお終いか。いまいち派手さに欠けるかな」
そうかな?もう十分綺麗だと思うけど。
「秋に公園で松ぼっくりが沢山落ちてたの見ただろう、ジェイ。あれ拾ってとっておけば良かったな。・・今から拾いに行こうか」
わう?でも外はしっかり雪が積もってるよ。松ぼっくりだって埋もれてると思うけど。
「まぁ、寒いから無理か。仕方ない。じゃあツリー完成の瞬間は皆で祝おう。おーい、ハボック飾り付け終わるから見に来い」
キッチンに向かって大佐が呼び掛けた時だった。

ジリリリン。居間の電話が鳴った。

「マスタングだ、どうした中尉」
ベルが鳴った時からハボックはこの優しい時間が終わった事を確信していた。無理矢理とったクリスマス休暇は実質自宅待機で何か事あれば駆け付けるという条件が付いていたのだ。もっとも留守を預かるホークアイ中尉はよほどの事がない限りロイを呼び出そうとはしない筈だった。長年「クリスマスは家族で過ごすのが一番良いだろう。だから家族持ちを優先的に休ませてやれ、中尉」と言って必ずイブとクリスマス当日のシフトに自分を入れていたロイの姿を見てきた彼女はやっと上司がクリスマス休暇をとる気になった事を内心喜んでいたのだから。
それはハボックも同じでだからそれでも電話が鳴る時は
「3番街の工場で出火?原因は不明でテロの可能性有り?周辺地域に延焼しそうか。判ったすぐ行く」
結構深刻な事態だと言う事だ。
「ハボック!」
「アイ・サ−!」
エプロンを引きちぎるように外して金髪の部下は上着を取りに行く。その背中を見送るロイの足下をくいと大型犬がそっと引いた。
わぅ?
きょとんとした顔で自分を見上げる青い目はどうして御主人様が急にこわい顔になったかまだ判ってはないようだ。でも犬にしては聡い彼はロイが何を言うかは予測してたようで
「ごめん・・ジェイ。仕事だ」
そっと頭を撫でた時もペロリとその手を舐め返した。

「遅くなるかもしれないから、私達を待ってなくていいよ。夜は冷えるから先にお休み。晩御飯と水はここに出しておくからね」
「帰ったら御馳走食わしてやるから。それまでこれで我慢してくれよ、相棒」
ザザ−ッと餌皿にあけられたドライフードの上にあいつが肉の切れ端を置いていく。これで大佐達は夜遅くまで帰って来ないつもりなんだと判った。
「約束破ってすまない。ジェイ。帰ったらちゃんとツリーを完成させような」
俺の頭を撫でる大佐の顔はとても悲しそうだった。まるで置いてかれるのが自分みたいにつらそうな顔。俺はそんな顔見たくなくて
わん!大丈夫だから。怒ってないから。でもちゃんと元気で帰ってきてね。
尻尾を振って撫でる手を押す。早く大佐を待ってる人の所に行くようにと。
「ありがとう。・・行って来るよ」
黒いコートを抱えた大佐とドアを出と外ではあいつがもう車のエンジンをかけていて大佐が乗り込むと同時に動き出した。開けた窓の隙間から白い手袋をはめた手が小さく振られるのが見えてあっという間にその姿は俺の視界から消える。
後には午後の日射しと積もった白い雪だけが残った。

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