Hell's Delivery




今一番食べたい物は何ですか?
そんなたわいも無い質問にも彼は笑って答えてくれた。
「そうだな・・・・ 

「ジャン・ハボック伍長、只今帰還しました!」
そう言って部屋入った俺を迎えたのは数秒間の沈黙、そして敬礼の手を下ろす間も無く俺はその場にいた全員に取り囲まれてしまった。怒声と歓声が狭い部屋に響く。
「生きてたのか、この小僧!」
「心配かけやがって!」
「畜生、幽霊じゃ無いだろうな、今まで何処で何してた!」
背中をどつかれ、肩を抱かれ、アイアインクローをこめかみに食らわされた俺が目を廻しかけた時救いの神は来た。
「そのくらいで許してやれ、坊主が目を廻しかけてるぞ。」
「ウィーバー中佐!。」
相変わらず銜え煙草の隊長が腕を組んでそこに居た。その変わらない厳つい姿に俺はやっと古巣に戻ってこれたという実感が湧く。
第13補給部隊 通称「Hell's Delivery」どんな激戦区にも必ず物資を届ける別名、地獄の配達人。
俺のいた部隊。

「元気そうじゃないか。」
トレードマークの両切り煙草を銜えてフランク・ウィーバー中佐は一つしか無い茶色の瞳を細めた。
あの荒っぽい歓迎の後、俺は取りあえず報告と言う事でウィーバー中佐の執務室に呼ばれた。確かに良く考えれば真っ先にこっちに行くのが普通だろう。
「報告が遅れてすいません、中佐・・。」
「あ?良いってことよ。俺よりあいつらの方がずっとお前を心配してたんだから。・・俺は居場所もお前が置かれてた状況も知っていた。知っていたのに何もしてやれなかった。すまんな。」
「わっ、謝らないで下さい、中佐。あれはどうしようも無かった事ですから、中佐のせいじゃないスよ。」
ぺこりと大きい体を曲げて謝る中佐に俺は慌ててそう言った。だって本当にどうしようも無い事だったから。
俺が行った部隊がイシュヴァール人に襲われて全滅しかかったのも、そのおかげで俺が最前線の基地に取り残され、戦場に駆り出されたのも、全てはどうにもならない事だ。
たかが新兵1人、負傷してるのならともかく無傷な奴をわざわざ迎えに行く余裕なんて何処にも無い。
「何度かあの基地の司令にも抗議したんだがな、梨の礫だ。それがいきなり帰って来れるなんてお前は運がいい。」
多分それは運じゃなく俺の脳裏には黒髪の少佐の姿が映る。
中佐は黙った俺の頭をいきなりわしわしと犬の様に撫でて何かを確認する様に俺の目を覗き込んだ。
「何すんスか、俺はもう子供じゃ無いッスよ!」
「・・ふん。最前線に放り込まれて、どんな荒れた眼になったかと思ったが・・まぁまだ大丈夫だな。」
その言葉に俺はあそこで自分がした事を思い出す。血と砂にまみれたあの日々を。補給部隊でも戦闘が無いわけじゃないが大抵は護衛が付いたし、大体銃撃戦で敵は遠かった。
「ウィーバー中佐、俺あそこで・・」
人を殺しました。それも沢山。この手で。ゲリラの中には子供や女もいて多分それも俺は殺したんです。
「言うな、ジャン・ハボック。これは戦争でお前は兵士だ。その中でしなきゃならん事をお前はしただけだ。いいな。」
叩き上げでここまで来た中佐は歴戦の勇士だ。特殊部隊で何年もやって来た後、右目を失ってここに来た。それでも必ず現場に出て部隊を守る。(俺の時は別の部隊に付いて行った)最前線にいたからこそ補給の重要さが身にしみたといつも言う。
「アイ・サー。中佐。判りました。・・で明日から俺は何するんスか?また護衛ですか?」
中佐の気遣いに肩を竦めて戯ければ厳つい顔がニッと笑う。良い人なんだがこの笑顔は心臓に悪い。
「おおそうだ。ハードなトコからの御帰還だからな。喜べハボック。お前は当分エヴァンスの代わりに倉庫番だ。」
にーっこり。心臓に悪い笑顔がよけい凄みを増して言った。

「・・102,103,104・・・あーあもうきりがねぇ!。」
だだっ広い倉庫にうんざりした俺の声が響くが咎める者は誰も居ない。だってここにいるのは俺1人だけ。朝から晩までずーっと缶詰めなんかの数を数えるのが俺の任務。
「全くもー。実家でもさんざやらされた事をなんで軍隊に入ってまでやらにゃならんのよ。」
どっかと床に腰を下ろして煙草に火をつければそんなぼやきが口を付く。あれから1ヶ月。来る日も来る日も俺は倉庫で貯蔵物資の数を数えて過ごした。前までこの任に付いていた右手が無い軍曹が急病で入院してその代わりと言うわけだがこれが結構辛い。いやいい加減誰か代わってくれ。





DESERT ROSE の後日談。補給部隊に戻ったハボックとロイは再び会う事ができたのでしょうか。実はNO REASONのエピソードとリンクしてます。

                 

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