「おい、おっさん」
緊迫した店内に響いたのはいたって普通の声
「モノは相談なんだけどさぁ。ちょっと話聞く気ない?」
弾かれた様に黒い銃口がそちらを向いても声の主の表情は変らず
「あんたにとっても悪い話じゃないぜ」
血走った目が睨んでも浮かべた笑みは変らなかった。

「周囲の封鎖は完了しております。マスタング大佐殿」
「御苦労、大尉。後は我々の仕事だ、君達は後方に下がってくれ、ああ不測の事態に備えて救護態勢は整えておいてくれ」
「イエッサ−!」
ロイ達の到着と共に黒い制服は後ろに下がり現場を青の男達が支配する。バリケード替わりに置かれた車の影から指揮官は双眼鏡で店内の様子を探るがこちらも椅子などが楯の様に置かれて視界は悪かった。
「何か見えますか?大佐」
上着を脱いで愛用の狙撃銃を抱えた副官はすっかり臨戦体勢で同じ様に鷹の目で中を窺う。
「・・・人質の姿は見えませんね。おそらく床に座らされているのでしょう。多分あの立ってるのが犯人ですね。隣にいるのが巻き込まれた通行人の少女でしょう」
「鷹の目は確かだな、ホークアイ中尉」
裸眼でそれだけ見て取った副官に黒髪の大佐は賞賛を惜しまないが要求も躊躇しない。
「どうだろう?君なら奴の頭をここから打ち抜けるかね」
「可能ですが撃たれた衝撃で人質に向けた銃の引き金が引かれるかもしれません。そのリスクはどうします?」
冷静な指摘にロイは笑って手を振った。
「確かにそうだ。それは最後の手段で何より優先すべきは人質の安全だからな。そうすると我々が取るべき行動は何だろう、中尉?」
「取りあえず犯人に呼び掛けるのがいいかと。それによって何か要求が出るかも知れないし、説得に応じる可能性もあります。計画的な犯行ではなさそうですから」
「全く君は有能な副官だよ、中尉。どこかの駄犬とは大違いだ」
現場で得た証言からハボックが人質になっているのは間違い無いと今ではロイ達も確信している。垂れ目で大柄な軍人が煙草を吸いながらベーカリーの行列に並んでたのを複数の人間が目撃していたから。
「全くあの男も何考えてわざわざこの店で昼飯買おうなんて思ったのか。ベーカリーは他にもあるんだ。サンドイッチ買うのに行列する事なかったろう」
おかげで自分は無駄なかくれんぼをする羽目になった。
「・・大佐、ハボック少尉が何でこのベーカリーに行ったのかお気付きになりませんか?」
「それはどういう意味だね、中尉」
何か自分に見落としがあったのか。あくまで真面目に聞いてくるロイに何故か憐れむ様な視線を向けた彼女はそれ以上答えず再び店内を見ながら静かに言った。
「何か中で動きがあるみたいです、大佐・・誰か出て来る」
鷹の目の視線の先。明かりの消された薄暗い店内に黒い影が動くのがロイにもはっきり見えた。
「う、動くなお前ら!これが目に入らないか!」
銃口を人質の頭にあててその体を楯にしながら出て来た男の姿に司令部の面々は驚愕し、そして深いため息を吐く。
銃を頭に突き付けられていたの
は目に入らない訳無い程体格のイイ金髪の軍人だったから。

なぁ、あんた助かりたいなら人質交換した方が良いぜ。何故って女性や子供は逃げるのに足手纏いになりやすいからな。
パニック起こして動けなくなったり、ヒステリー状態になって暴れたりしやすい。それで人質傷つけたりしたらアンタその場でバンッツ!だ。例え逃げ延びても軍は一生追い掛けるぜ。だからさぁ、人質は俺にしとけよ。
え?軍の狗の言う事なんか信用できないって?何言ってるの。外の連中と同じ軍人だから言えるんだぜ、これは。
あのな、俺もこーゆー立場まずいの。おめおめと人質になって何も出来ませんでしたじゃ、評価に響くんだ。
まだ銃頭に突き付けられてなら、しょうが無いって上司も考えてくれるかも知れないしな。そう、俺の上司は外にいる黒髪の男だよ。有名な焔の錬金術師、あの内乱の英雄だ。
・・おっとびびらなくて大丈夫。俺は彼の直属の部下だから。しかも側近。嘘じゃ無いって。だから俺人質にした方が有利だぜ、あれでもあの人部下には優しいから
俺の姿見たら絶対焔なんか出さないぜ。
約束するよ。
そう言って笑った男の顔に邪気は無かった。でも尻尾はあったかも知れない。黒くて先の尖った細い尻尾が。

この話ネタ元は某新宿駅近くの某有名行列のできるお店です。よく前を通るたびに待ち時間を見ますが30分以上がほとんど。そこまでして食べる気はないのですがどーも気になる。さて何処でしょう?

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