「各班、配置に着きました、大佐。」
「よし、作戦開始だ、少尉。人質の救出を最優先に行動せよ。」

突入は深夜に決行された。作戦前に手に入れたアパートの図面でこの3階立ての建物に左右に4部屋づつ、突き当たりに1部屋の合計27部屋もあるのが判った。古い建物なのであちこち傷んでるらしく外から見た外壁には幾つもの亀裂が走り、中の漆喰が露出している所もある。おまけに電気が通ってるかも判らず無駄に広いこの建物の何処に人質がいるかは判っていない。周囲は開発に見捨てられ同じような廃屋が立ち並んで真っ当な人もいなくなったこの街ではキナ臭い騒ぎにも慣れっこなのか、騒ぎ立てる住人も居ない。もっともこの一帯はとっくに封鎖されそこにいるのは犯人グループとロイ達軍の人間だけだろう。例外はアパートの近くに停められた指揮車両にいるエックハルト氏とその忠実な執事だけだった。

「大丈夫でしょうか、ああカールどうか無事でいてくれ。」
狭い車両の中で太めの紳士はさっきから不安で震える体を押さえ付ける様に手にした紫檀のステッキを握りしめる。民間人の同行は無理だと言ったのに無理矢理ついて来てこの有り様の彼にロイも同行を許可した事を早くも後悔し始める。この様子では何かあったら真っ先にパニックを起こしそうだ。
「御安心下さい。エックハルトさん。カールさんは必ず我々が救出します。だからどうか後方の車両でお待ち頂けませんか?」
「お言葉は有り難いが、マスタング大佐。儂はなるべくカールの近くにいてやりたいんです。」
そこにあんたがいても多分絶対大事な娘婿のためにはならないだろう。とは言えず次の手を考えていた時意外な方向から助けの手が差し伸べられた。
「御無理をしないで下さい。旦那様。また倒れられたらどうします。ここは軍部の方々にお任せして我々は後方に下がったほうがよろしいと思います。」
どこかの中尉のようにやんわりとだがきっぱり言い切る声にさすがに周囲の気がついたのかバツの悪そうな顔をして
「そ、そうか。ここに私が居ても何の役にも立たないな。判ったよ、エーヴェルス。申し訳ありません。儂はマスタング大佐、身内のことばかり考えて皆さんの邪魔をしてましたな。」
「いいえ、御家族が危険な目に逢っている時に冷静でいられる人はいません。ですがどうぞ我々を信頼してお待ち下さい。軍曹、お二人を後方の車両に案内し給え。」
丁寧なしかし有無を言わせぬ口様にそれ以上の抵抗はせず招かれざる客はその場を去った。やれやれと無言で首を振るロイの耳に無線にかじり付いていたフューリーが報告が入った。
「ハボック少尉からです。突入開始。1階の制圧に取りかかるとの事です。」

「やばいぞ!軍の犬だ!」
「逃げるな、応戦しろ!」
古ぼけたアパートに銃声が響き、あちこちに怒声が響く。古ぼけたドアには鍵は無かったが、見張りはいた。迅速な行動が何よりの武器とハボック達は迎える銃弾の雨をかいくぐって一斉に応戦を始める。
「ディンス、1階は任せた。残りは俺に続け。」
「アイ・サー!」
声を上げたと同時に2階からの銃弾が頬を掠める。一瞬の熱に顔を顰めながら手すりを楯に応戦し、相手の銃撃が止んだ隙を突いて一気に階段を駆け上がる。
階段を上がったところで呻いてる男を部下に任せてハボックは角に身を潜めて暗い廊下を窺う。どん詰まりにある扉が薄暗い裸電球の光のせいでやけに遠く見える。
とにかく早く人質を発見しないと、不味い。連中はどうやら軍の急襲を全く予想して無かったらしく、半分パニックを起こしたように浮き足立っているが、そのうち誰かがカール・エックハルトの持つ価値に気付くはずだ。外からみた限りじゃ屋根の傷みが酷かった。あれじゃ満足に雨露を防げないだろう。だから3階はあんまり使える場所は無いはずだ。人質が居るのは多分1階か、2階。
「イェガー、お前達は3階へ、後は俺と2階を捜索。行け。」
言うなりハボックは廊下に飛び出す。それと同時に奥の方から再び銃声が聞こえた。

「・・・んでお前さんはどうした。」
報告書から顔も上げずにヒューズは問う。もっとも内容はとっくの昔にその優秀な頭脳の中に入っているはずだ。今彼が見てるのはハボックの様子だ。声の調子はどうか。手は震えていないか。先に提出された報告書と合わない発言は無いか。伏せられたオリーブグリーンの瞳は実は相手の全てを見ている。真実を話しているか−否かを判断するために。
「2階の真ん中あたりの部屋に何人かいました。そいつらと交戦しながら俺達は一番手前の部屋から順に中を調べていきました。そうしてジリジリと前進してったんです。そうしたら・・」

追い詰められた犯人の中にヤケを起こした者が居たのだろう。応戦するハボック達の方にカランと1個の缶が転がされてきた。
「催涙ガスだ!マスク装着!」
それはハボック達にはお馴染みの暴動鎮圧用のCSガスだ。強烈な刺激は目や鼻を傷め相手を戦闘不能にする。だがこれは屋外で使用するものであってこんな狭い空間で使えばどうなるか。判らない程相手は追い詰められていたのだろう。

「素人だな、殆ど。」
「そんな感じでした。応戦も組織だってない。訓練を受けたという感じもなかった。幸運な事に俺達は簡易ガスマスクを装備してましたから、まぁなんとかなりましたが連中は自分で自分の首を絞めたようなモンです。」
催涙ガスで兵士達が苦しんでる隙を突こう考えたらしいが、彼等は訓練を受けたプロだし、装備もある。ハボックがすぐにそいつをひッ掴んで手近の窓から外に投げ出したからガスもそれ程残りはしなかった。だから兵達はうろたえはしなかったが、突進してきた彼等はそうでなかった。廊下に撒かれたガスに自分達が苦しみ、余計にパニック状態になった連中を取り押さえるのは結構大変だ。何しろ銃を振り回しながら盲滅法に突っ込んでくるのだから、おかげで現場は一時騒然となった。
「その時そこにいたのは何人?」
「暴れる連中は5人でした。ただ俺達が確認できたのはその時手前の2部屋だけでした。尤ももしそこに誰か潜んでいたら絶好の機会だったでしょう。」
「だが誰も撃っては来なかった。そうだな。」
「そうです。そして拘束した連中をともかく纏めて下に下ろしそのまま俺達は捜索を続行しようとしました。その時俺は一番奥の方にいました。部下はガスで苦しんでる中を階下に誘導してました。そこで彼等が戻るまで俺は部屋のドアを楯に奥を窺いながらそこにいました。けどこれ程の騒ぎになっても他に反応がないのだから人質は3階にいるんじゃないかと思いました。」
「つまりその時お前さんは1人になったわけだ。」
「・・そうです。そしてその時奥からいきなり銃撃があったんです。」
「何発?」
「ハンドガンじゃありません。多分セミオートのマシンガンです。」
「それでお前さんはどうした、少尉。」
もうヒューズは徒に目を伏せたりはしていない。スクェアグラスの奥から鋭い瞳が真直ぐにハボックを見ている。ハボックもその視線をから目を逸らす事無くはっきりと答える。その時何が起きたか自分は真実を語っていると訴える様に。
「応戦しました。銃は一番奥にある突き当たりのドアからでした。だからドアも開いていない。中も見えなかった。そのドアへ向けて5発撃ち込みました。」
「応戦はあったか。」
「いいえ。それきり沈黙しました。」
「それで?」
「俺は銃を構えながら奥に向かいました。途中、手前の部屋を開け中を見ましたが誰もいませんでした。」
「左右、両方?」
「そうです。どっちも空でした。・・そして俺は奥の扉を蹴破りました。」
「そこには誰がいた?・・いやお前さんが一番最初に見たものは何だ。」
「俺が・・俺が最初に見たのは椅子に座ったカール・エックハルト氏でした。彼は目隠しをされて椅子に縛り付けられていました。椅子はドアに向かっていて彼の胸や腕からは血が流れていました。」
「それ以外にそこに人はいたのか。」
「いいえ。そこに生きてる人間はいませんでした。」

武器の事とか詳しくないので、おかしなトコがあってもスルーして下さい・・。アクションは好きですが、書くのは難しいです。

広告 [PR]スキンケア  転職 化粧品 無料 ライブチャット