「なんだしけたツラして。ロイが来ると思ったか?」
「んな事考えてもみませんでしたよ。」
かわいくないなー、そら差し入れだと渡された小さな金属製の水筒を呷れば喉を芳醇な香りと熱が通る。冷えきった体を火が灯ったように暖めたのはどうやら上物のブランデーらしい。
「ありがとうございます。体暖まりました。でもどうやって此処に来たんです?てかどうして。」
営倉の管理は厳しい。面会は外の部屋で行われるのが規則でそれさえも滅多に許可されないと聞いた。それなのに今は深夜、開くはずのない扉は開けられ部外者であるはずの男がアルコール片手に入って来ている。
「まー色々と蔓を持ってンのよ、俺も。それより俺が来たのはお前さんに今の状況を教ええるためだ。まるで訳判ってないだろ。なんで自分が此処にぶち込まれたか。何で有無を言わさず軍法会議送りになったか。」
「軍法会議?査問会じゃなく?」
それすらハボックは知らされてなかった。普通は予備審問として査問会が開かれるのが正式な手順だ。
「ああホントに何にも知らされて無いんだなぁ、わんこ。お前はハンス・エックハルト氏から殺人で告訴されてんだよ。」
声も無く黙り込んだ若者にヒューズは内心ため息をついた。この人の良さそうな男は自分がはまり込んだ沼がただの水たまりぐらいにしか思ってなかったらしい。ちよっと汚れるけど歩くのには何の支障もないただの水たまり。
「あのな、俺の知ってる情報とお前の話を総合するとな、これは罠だ。」
実際は水たまりでなく沼。しかも底なしで深い。脱出なんか不可能なくらいの。
「もちろん、狙いはお前じゃない。最終的な狙いは・・ロイだ。」
多分それがこの話の始まり。

相変わらず固ぃなこのマットは。ぶつくさ文句を言いながらベッドに戻したマットに腰を下ろすと眼鏡の中佐は説明し始める。それを聞いていく内にハボックの顔はより厳しいものに変わっていった。
・・・つまりこの誘拐事件をわざわざロイに持ち込んだのが罠だったんだ。誘拐事件そのものがやらせだったかどうかはとりあず置いといて。まずロイに事件を任せ、それを失敗させる。人質を部下のミスで−しかもそいつはミスを隠ぺいしようとする。それを裁判で叩いてそんな奴に救出を任せたロイの責任も問うわけだ。多分裁判が終わればこの件はマスコミに流れる。今は人質はテロリストに殺されたって報道されてるだけだけどな。
 何?軍がそんなの許すわけないって?確かに軍にとって不名誉な事だ。だが攻撃されるのは軍じゃない。ロイ・マスタング個人だ。軍組織そのものを攻撃しない限りは目を瞑るさ。足の引っぱり合いにマスコミを使うのはよくある手だ。焔の錬金術師には敵が多い。誰かが攻撃すれば皆それに乗ってくるだろう。・・ロイの『望み』には致命的だ。
 何でエックハルトがそんな事するかって?あいつは裏で結構派手にやってる男だ。薬に武器などなんでもござれ。そうだよ、今イーストシティに出回り始めてる安い武器の出所は多分奴だ。しかもあいつは軍とつるんでそれをやってやがる。不良品として却下された武器を横流しして貰いそれをブラックマーケットに流す。どうもそういう仕組みらしい。
 そう、お前さん達この件追ってただろ?俺もロイに頼まれて色々調べてたのよ。そうしたらどうもこいつが怪しいってロイが言い出した矢先にこれだ。
 え、聞いてないって?ひがむなわんこ。まだほんの疑いレベルだったし、しかも身内を疑うんだロイだって滅多な事は言えなかったさ。それに事件がなけりゃ、とっくにお前さん達に話してたさ。すぐに本格的な捜査に入るつもりだったんだから。
 まぁ、いろんなトコにネズミは潜んでやがるもんさ。特に軍上層部にはな。
お、勘は良いな。そいつがエックハルトと組んでる奴だ。そう半年前に南部から移動して来た准将閣下。そいつが検事役に俺がなるよう工作したんだ。どうしてか判るか?俺がロイに有利な様に裁判を運べばそれも一緒に叩くつもりだからだ。俺とロイが仲良しなのは知ってる奴も多い。裏から俺が援護するのを封じるつもりなんだろう。
つまりお前さんの話を聞いて居もしない人物の証明にやっきになれば俺の首も締るってわけ。
 だから悪いけど俺はお前を助けられない。俺はロイを助けるので精一杯だ。
多分これを言いに此処まで来た眼鏡の男はそうして水筒のブランデーを一気に呷った。

ぐるぐるとハボックの頭の中をヒューズが話した情報が駆け巡るが、いかんせん容量の違
うおつむは彼の様に理路整然と働いてくれず混乱するばかりだった。
罠?この事件が?俺はまんまと嵌められたのか?どうしよう、どうしたらいい?第一そんな
ことあるのか。
「・・じゃあ、エックハルトは自分の利益のために娘婿を殺したってわけですか!」
あの必死の表情は全くの嘘?
「ありえない話じゃない。カールは元々ある上級将校の息子でどうも軍との結びつきを強め
るための政略結婚だったらしいが、肝腎の父親は半年前急死した。つまり利用価値は無くな
ってたって事だ。」
死んだ?あの男が?
「けど娘の旦那でしょう!」
「まぁ理由は他にもあるかもしれないが、今はわからん。今考えなきゃならないのはこれから
どうするかだ。」
それはそうだ。大事なのはこれからの事。一番大事なのは
「大佐はなんとか助けられますか?俺はどうでもいいから。」
「それを今考えてるんだ。どうやったらロイに累が及ばないようできるか。・・・ミスったのが
お前の部下ならまだ何とかなったんだ。全部お前さんの責任にして終わりってもってき方もでき
たのに。一番の部下が先頭切って行くんだものなぁ、さすがワンコ。」
ため息付く男の顔にも焦燥が見られる。それがハボックにこの切れ者中佐の頭脳を持ってしても容
易に解決できない程の事態であると思い知らせた。
俺のせいで大佐が失脚する?まんまと罠に頭突っ込んだ犬のせいで?別に処分を受けるのは構わない、
一兵卒に降格されようと俺は平気だ。でも大佐は?軍のトップに立とうと人にはどんな瑕も許されな
いだろう。
「お前の無罪を証明するのは無理でも何とかロイは助けたいんだ。・・・俺を恨むか?ワンコ。」
疲れた顔に謝罪の笑みが微かに浮かぶ。いつもはマイウェイを貫く男が見せる気弱な表情。もちろん
ハボックには彼を恨む気持ちなぞ微塵もなかった。
「いいえ。」
だって俺の望みも同じだから。俺のせいなら尚更大佐を守りたい。俺にできる事があれば何でもするの
に、無力な自分が恨めしい。・・・・まてよ?
ハボックの脳裏にある考えが浮かんだ。もしかしたらロイは助けられるかも知れない方法が。
もしもあの事をヒューズ中佐に話したら。事件について違った解釈ができる。それをうまく利用すれば、
綱渡り並みに難しい事だけどこの俺とは段違いの頭を持つ中佐なら何とかできるかもしれない。でも、
だけど約束したのに、絶対誰にも言わないと誓ったのに。それにもしかしたら彼女に迷惑かけるかも知
れない。あれから3年か?今頃何処かで平穏に暮してるだろうに。・・だけど俺は・・俺は

右側には大事な人、左側にはそれ以外の全て−さて秤の針はどちらに傾く?

「・・・ヒューズ中佐。俺あんたに言わなかった事あります。」

今までとは違った静かな声に眼鏡の中佐は改めて金髪の少尉を見詰めた。そこにはいるのはさっきまで動揺
し狼狽えていた若者とは違う男。深い蒼の瞳に見えるのは強い意志と決意で何かを切り捨てた者が持つ光。
同じ眼を戦場で何度か見かけた事のある男は黙って鉄の水筒をハボックに渡した。

説明的な話がもう少し続きます。ちゃんと辻褄あってるのか物凄く不安だ・・。

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