YOU'RE MY ONLY・・・ 



薄暗い通りを男は迷いもせずに歩いている。華やかな歓楽街の表から一歩裏に入ればそこは塵と酔客の怒声が響く別世界だ。普通の者なら二の足を踏むそんな通りを黒のコートを無造作に羽織った男の足取りは早く躊躇いもない。迷路めいた小路を右に左にまるでゲームの駒のように歩いていた男の足が突然止まったのはくたびれた安ホテル。おそらく客の全てが何がしかスネに傷持つ者であろうそこにオリーブグリーンの瞳を左右に走らせてから彼はそのドアを開いた。 
「ジョン・スミスだ。予約していた部屋を頼む」
ヒビの入った防弾グラスの向こうから薬をやっているのか赤く充血した目が胡散臭げに見上げてくる。例えこのホテルが創業百年だって予約なんかする者はいないだろうにカウンターの男は無表情に無言で鍵を投げて寄越す。端が欠けた青いプラスチックのプレートに書かれた文字は普通客商売では御法度の筈の だった。スクェアグラスの上の形の良い眉毛を顰めてそれを受け取った男はポケットから無造作に数枚の紙幣を渡すとそのまま奥に向かう。軋む階段を登って左電球の切れかかった廊下を進みプレート同じ番号のドアを正確に3回ノックする。ドアミラーの向こうに誰かの影が立ったと同時にドアは開き男は素早くその中に入った。
廊下と違って明るい部屋の中にいた2人は揃って見事な敬礼で彼を迎えた。着てる服は辺りの人間と同じ服の金髪の男女の表情は厳しかった。

「随分と手のこんだトコに呼び出してくれたもんだなぁ、2人・・いや3人とも。一体何が起きた?」
マース・ヒューズの呼び掛けに部屋にいた2人は一瞬目線を交わし結局階級の上の方が悪い知らせを報告する。
「お呼び立てし申し訳ありません。ヒューズ中佐。ですが緊急事態です。マスタング大佐が誘拐されました」
「要求も声明もなにも無しです。手掛かりさえも」
『もう3日も経ってるんだ!』
代わる代わる訴える金髪の男の顔は憔悴してそれが事態の深刻さをよりリアルに感じさせる。隣に立った女性士官の顔もご同様だ。
「詳しく話せ、ホークアイ中尉、ハボック少尉」
そう言うとヒューズは古ぼけた椅子にどっかと腰を下ろした。何にせよ長い話になるのは間違いなさそうだったから。

中略ー

「ヒューズ!来てたのか!」
「今頃気がつくなよ、お前」
馴れた声の元はスクェアグラスの親友。右手に銃、左手にダガーと珍しく実戦姿の男の横に佇むのは
「大丈夫だったか君!」
紅い瞳の少女だった。返事は無いが黒い瞳に小さく頷く。
「積もる話は後だ。さっさと逃げるぞ」
「待って下さい、大佐怪我してる!」
『傷どこ?見せて』
血に染まったシャツをに気がついたついたハボックがロイに手を伸ばす。その手がシャツにかかった時ロイの体が強ばった。
「触るな!」
手錠で拘束された手が容赦なく伸ばされた手を弾く。予期しない拒絶にハボックの目がロイを凝視した。蒼い瞳に困惑と衝撃がうつり辺りに払っていた注意が途切れた時
「居たぞ!あそこだ!」
声と共にロイの背後から銃声が響き、ハボックの目の前でがくりとその体が崩れた。
「『大佐!』」
「何やってやがるハボック!」
倒れたロイを背後に庇い素早く応戦したヒューズの声は鋭かった。それに叩かれた様にハボックは足から血を流して蹲るロイを抱きあげる。
「かすっただけだハボック!下ろせ!」
「我慢して下さい、大佐。君出口はどっち!」
ハボックの声に少女が動き出すのとヒューズが楕円の固まりのピンを抜くのは同時だった。
「行くぞ!」
「先行して下さい、中佐。背後の弾は俺が楯になります!」
「よせ馬鹿下ろせ!」
「こっち!」
背後の轟音を無視して4人は走り出す。先導する少女の横にはスクェアグラスの男。一歩下がって暴れる男を抱えた金髪の大型犬。
「もう良い、走れる、下ろせハボック!」
両手の塞がった状態では反撃も出来ない。前はヒューズがいるが無防備な背中はどうしようもない。ただ撃たれるだけの背中をロイは叩くがハボックは相手しなかった。
「今のあんたじゃ無理ッスよ、大人しくしてて下さい。俺に触られるの嫌でも」
「ハボ・・そうじゃなく」
『大体これは俺らのミスだ。あんたの背後にいる敵に気付かなきゃならないのに隙を見せた。ごめんロイ』
謝る声は何処か頼り無い。意味無く叱られて悄気た犬のような顔にロイはさっきの一言がどれだけ相手を傷つけたか思い知った。
「触るな!」
心から自分を心配して伸ばした手を思いきり拒絶したのだ。訳が判らず、単純に触れられるのが嫌だと思ったのだろう。

そうじゃない。








                 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送