A PIECE OF TRUHT 



「いってらっしゃいー今日は俺夜勤だからディナーは一緒じゃないけどポトフとサラダ用意しとくから食べていってね」
新婚の新妻もかくやとばかりに甘い顔してロイを見送ったハボックは素早く身を翻すと大きな丸い窓に走りよった。
「本当だったら車まで送りたいんだがなー」
ハボックのアパートは古い煉瓦造りのビルの最上階だ。エレベータなし元は倉庫だった広いワンフロアを手先の器用さで居心地の良い巣に改築したそこはロイの職場から車で10分という地の利もあって一応愛の巣という事になっている。
「別にこの辺の治安が悪い訳じゃないけど恋人の身を心配するのは当たり前だろうが」
見送りはアパートのドアで、少し離れた駐車場までは送るのはだめ。それは2人の関係をおおっぴらにしないための暗黙のルールだ。2人の所属する世界では同性愛者への風当たりはまだまだ強い。ハボックは気にするつもりもないがロイの邪魔にはなりたくない。だからこうして道を行く黒い背広姿を双眼鏡で見送る事で我慢してるのだが
「・・・あれ?」
たらんと弛緩していた眉が微かに顰められる。丸く切り取られた視界の界の中ですらりとした後ろ姿に近寄る2人の人影が映った。
「誰・・だ?」
人影は男2人。背広姿だからその辺のチンピラじゃないだろうがハボックの背筋に何となく緊張感が走る。
「道でも聞かれてる・・のか?」
そのまま3人は立ち止まって何か話をしてるようだった。ロイの表情まではここからは判らないがどうも知り合いのようには見えないがかと言って争ってるようにも見えない。大の男がそれだけで助けに行くわけにもいかないだろうと手近の煙草に手を伸ばした所でそれは起きた。
「ロイ?」
何が切っ掛けなのか男2人の態度が豹変し1人が乱暴にロイの腕を掴む。刑事であるロイがそれで怯む訳もなく何かを言いながらその腕を振り払うと手にした鞄で追いすがる腕を叩き走り出そうとするのが見えた。
「ロイっ!」
主人の危機を悟った犬の反応は素早い。引き出しあった銃を掴むと部屋を飛び出し一気に階段を駆け下りる。そこにはもう長閑に笑っていた大型犬の気配は何処にも無い。
「ちっ!」
ビルを飛び出し走り出した所で黒い車がこちらに向って走って来る。運転席にいるのがさっきの男だと確認すると同時にその体はためらいも無く激走してくる車に向ってジャンプした。 いもなく激走してくる車に向ってジャンプした。
甲高いブレーキ音と共に揺らいだ瞬間ごんと音がしてハボックの体は車の屋根に貼り付いた。スタントマンさながらに僅かなとっかかりを掴み片手だけでじりじりと体を進める。まさかこんな無茶をやるとは向こうも思っていなかったろう。パニックを起こしたように蛇行する車体から振り落とされないようにしながらハボックは叫んだ。
「車を止めろ!じゃないと運転席をぶち抜くぞ!・・うわっつ」
まさかそれに素直に従った訳じゃないだろうが車は急ブレーキを掛け反動でハボックの体はボンネットを滑り道路へと投げ出される。普通ならそこで気絶でもするはずだが海兵隊あがりの男の反射神経は並じゃない。くるんと猫のように回転して態勢を立て直すと同時に猛スピードでバックする車のタイヤを正確に打ち抜いた。
「ロイ!」
コントロールを失った車体は派手に半回転しゴミのコンテナ容器を跳ね飛ばし急ブレーキで焦げたゴムの匂いと白い煙が辺りに漂う。ホコリと煙で辺りの視界は陰り慌ただしく運転席を飛び出した男は目の前に突きつけられた物が一瞬何だか判らなかった。
「誰だか知らないが朝っぱらから良い運動させてもらったけどゲームセットだ」
目の前にあったのは真っ黒い丸い銃口。まだ火薬の臭いを漂わせたそれをひたりと相手の額に合わせながら獰猛に笑うのは青い瞳の肉食獣。
「早くロイを解放しな。かすり傷の1つでもついてたらどうなるか判っててやったんだろーなぁ、お前ら」
すっとその瞳が細められ殺気に満ちた気配が男を包む。その迫力に相手は怯み他の男達も竦んだように手を出せないでいる。一気に緊張が高まったその時
「その辺で許してやってくれないか、ハボック少尉」
鷹揚なしかし威厳のある深い声が霞んだ路地の裏から響いた。
「手荒な手段を取るのは止めた方が良いと忠告はしたんだがね。生憎事態が切迫してるそうだ」
その声だけでもうハボックには相手が誰か判っていた。オールバックの黒髪に隻眼。次期軍司令官確定と評判の男。
「・・・あんたでしたか、ジェネラル・キング・ブラッドレイ」
「フェスラー准将の事件以来でしたね、ジェネラル」
後部座席から出て来たロイは長身のその姿を認めてハボックと目線を合わすと垂れた青い瞳の中に自分と同じ言葉を見つけた。

中略

「人質の命と引き換えに殺人犯で逮捕された兄貴の冤罪を晴らせってぇ?」
「声がでかい、ヒューズ」
素っ頓狂な声を嗜めるようにロイは悪友の頭を軽く叩く。最もここはイーストシティパークの奥の広場で周囲に怪し い人影はない。
「まぁ簡単に言えばそういう事なんだけどな・・・」
ブラドッレイ達から解放された後ロイがヒューズを呼びだしたのはここJEAN’SCAFEのある広場だ。青い中古のフ ォルクスワーゲンを改造してハボックが作ったこのサンドイッチ屋は今は彼の元部下ブロッシュが二代目店長を務めていてロイ達CSI捜査官の密かなたまり場と化している。だから情報部が絡んだ事件に盗聴などを警戒したロイが密 談の場所にここを選んだのも何の不思議も無い。
「でも情報部がよく取引に応じましたね。普通テロリストのどんな要求にも応じないもんじゃないんですか」
なりゆきで関わったハボックにはまだ状況がよく飲み込めてないようだった。それだけ状況はややこしい事になって いる。
「まず人質になってる男達は情報部の工作員って事ですよね?彼らがイシュヴァールで何らかのスパイ活動を行って いたところをスカー達に捕まった・・それが何でバレたらヤバいんです?」
イシュヴァールは砂漠の国でイシュワラ教と言う独特の宗教を持つ遊牧の民の国だった。気候は厳しいが先祖代々素 朴な暮らしを営む国は近代になって大国同士の争いに戦略的に重要なポイントとなり何度も侵略やそれによる内戦に よって国は疲弊し人心は荒れた。そこから過激な民族主義が台頭し外の世界に対して武力で自分達の力を示そうと言 う一派が現れ始め─ロイ達の国で大規模なテロが起きたのが十数年間。国の威信を傷つけられた報復としてイシュヴ ァールに侵攻した軍は彼の地を武力で蹂躙した。そうして一応国家としての態勢を整えて紛争は終結した─はずだが 今もそこは安住の地とはとても言えない状況だ。
「正確に言えばハボック工作員達が囚われたのはイシュヴァールと隣国の国境沿いだ。多分彼らはイシュヴァールか ら隣国に密入国しようとしたんだろう、そこが問題なんだ。そこは我が国と同盟関係にある。勝手に入っていい所じ ゃない」
隣国は古くからイシュヴァールと交流があったが今はこっちと軍事的同盟関係にあり侵攻の際も積極的に協力してもらった。
「けどまぁあそこが内心はイシュヴァール寄りってってのは誰もが知ってる事だしあの国を経由してテロリストに武器が供与されてる疑いはは随分前からあったんだ。だから古巣の連中があの辺うろついてても俺は驚かんよ」
シュトルヒが言ったようにマース・ヒューズは元は情報部で働いてた男だ。だから誰よりこうなった状況を的確に把 握している。
「きっと連中が捕まったのは国境を越えたところだろうさ。もしかしたら何らかの戦利品・・・武器密輸の情報とかそういうのを持っていたのかも知れん。そいつを世間にばらされちゃ確かにまずい」
「もしかして情報部の勇み足か?上の了解を取ってない?」
「その可能性は高いかも。正規の作戦にしては人数が少ないし今のトップは経済問題が優先って考えだ。余計な火種は燃やしたくないってのが大方の意見だろうが・・・火のない所に煙を立てたがる連中は何処にでもいる」
「くだらねぇ、そんなんで戦うのは俺らみたいな下っ端だ」
元海兵隊のハボックはイシュヴァールに送られた経験がある。過酷な戦場で心身をすり減らした彼には聞き捨てならない話だった。
「ジャン・・気持は判るが今回の件はそれと関係ないよ」
吐き捨てるように言い放ったハボックの頭を白い手がそっと撫でる。飄々とした大型犬のような恋人のたまに見せる兵士の顔はロイにとっても辛い。
「すんません、ロイ。話の腰を折って。でもじゃあ連中の要求を聞かなければ人質は殺されてしまうんですか?」
「そんな事はさせない」

中略

ブラッドレイの指摘に激高しかけた感情を何とか宥めようと深く息を吐いてロイはシュトルヒの方を向いた。
「ミスターシュトルヒ我々CSIは法と科学的分析に従って捜査をするのが仕事です。そこにはいかなる政治的圧力も入る余地はない。例え人命がかかっていようがそこは変えられない。彼らの要求が囚人の返還なら我々の捜査なんかなくても大統領に訴えて超法規的措置をとって貰う事が可能でしょう」

中略

「それって自白ですよね、じゃあ犯人はそいつって事じゃないですか」
夜食のハンバーガーとミネストローネを差し出しながらハボックはあきれたように呟く。今日からラボに泊まり込みだと言われれば反対はできないがこうしてせっせと差し入れに来る事はできる。
「だがそれがカイル本人と証明はされてない。彼の音声データは向こうも入手できなかったからな」
職場への差し入れに付き合い当時なら文句の1つも言っただろうが今はもうなし崩し的にロイは受け入れてしまって いる。
『別に悪い事じゃないし、気にする事はありませんわ』
『ついでに俺達も美味いドーナッツにありつけますからね』
とどこまで見透かされているか判らないがすっかり餌付けされた部下達はそう言うのでロイも開き直ったと言う訳だ。それに今回はハボックも最初から巻き込まれているので気兼ねなく話ができる。
「カイルの知人に音声を聞かせた所似てるという証言は得られたが断言はできなかった。残念だが声紋で血縁関係は特定できない」
DNAならアレルという共通の因子の存在で血縁関係である事が証明できるが声ではそれができない。スカーの音声 データはあるからもし声で血縁関係が判るならカイルの声といえるのだが。
「しかしスカーって奴も兄の事信じきってますね。あんだけ危ない橋渡って無実を証明しろと言ってくるんだから」
「肉親の情ってものはそれ程強い。以前ステラに聞いた事があるが兄の冤罪を信じてそれを証明しろと脅迫してきた 男がいたそうだ」
「それって今度の事件と似てますね。で冤罪は証明できたんですか」
「いや、証明できたのは有罪だ。そして弟は逮捕された。だが弟にとって兄の有罪はどうしても受け入れられない事 だったのだろう」
「・・・もし今度の件で冤罪が証明できなかったらあんたが直に連中に言うって言いましたよね?本気ですか」
最悪の事態を想像したのかふっとハボックの気配が警官から軍人に変わる。
「言っときますがイシュヴァールの民は頑固ですよ。おまけに名誉を重んじるし身内の結束はもの凄く固い。裁判で 陪審を説得するのとは訳が違うんです。それに連中はテロリストなんでしょう?」
「いやシュトルヒの話によれば彼らはテロ組織とは無関係のようだ。どこの情報機関にもデータがないしあの国境地 帯に住む部族は元々政治には興味を持ってないらしい」
「だったら余計決心が固いって事じゃないですか!」
荒れ地で静かに暮らしてた民が人質を取って大国を脅したのだ。生半可な覚悟でできる事じゃない。下手をすれば軍 隊が送られてくる可能性だってあるのだから。
「ロイが連中と直に会う時は必ず俺も傍に居ます。護衛として」
「ハボ、待て、それは」
それはハボックにとって戦場に戻るのと同じ事だ。あの砂漠の国で感情全てを失いそうで恐いと除隊したハボックが 銃を持ってそこに戻る?ロイにそれが許せる訳は無い。
「・・・ダメだ。ジャン」
「ロイ」
「お前を軍人に戻す事なんてできない」

中略

CSIのオフィスはガラスの壁で幾つもの部屋に分かれたまるで迷のような造りになっている。ある部屋は物質分析、またある部屋指紋の抽出、たまに『試射します!』と銃声が響くのは弾道検査門の部屋だ。二十四時間人気の絶えないそこは科学捜査の最前であり司法の砦である。どの部屋も様々な機材が所狭しと並んるがワークステーションと呼ぶそこは広い大きな机があるだけだ
もその机の上には所狭しと様々な証拠物件が並び壁一面は現場真で埋め尽くされてはいる。そこでリザ・ホークアイは数枚の書類共にじっと証拠の山を見つめていた。
ニュープティンの捜査データには誤りはなかった。ダブルチェックしたからそれは間違いないわよね。なら何が問題なのかしら。
再捜査は間違い探しじゃない。手にした証拠の山から私達ならどんな答えを導き出すか─そういう事よ。パズルのピースは揃った。ならどのピースとピースを結びつければ良いのかしら・・・。
机の上には1つ1つビニール袋に入った証拠品が所狭しと並んでいる。血に染まった衣類に押収した宝石類、凶器のナイフに容疑者の履いていた靴。それらの上を獲物を狙う鷹の瞳が通過して─ふと一点で止まった。
「珍しいデザインね・・このペンダント」
それは5cmぐらいの銀製らしいペンダントだった。丸いコインのような形で一面に凝った唐草紋様が細い線で刻印されていて高価ではなさそうだがどこか異国情緒漂う1品だ。何となくデザインに惹かれてデータを確認すれば被害者が事件当夜身につけていた物らしい。
「もしかしてイシュヴァールの物かしら。ボランティアしてたらしいから誰かから貰った・・・・あら?」
押収された中には幾つかの写真立てもある。そのどれにもよく見れば被害者はこのペンダントを身につけて写っていた。
「余程大事な物?親の形見?」
何となく気になってリザはそのペンダントのデータをじっくりと見直した。すると不思議な事に気がついた。
「このペンダント・・指紋が1つも検出されてないわ」
銀だし被害者が身につけていたものだから犯人の指紋が付着している可能性は高い。向こうの担当官もフューミングしてきっちり調べてあるから間違いはないだろう。
「一度犯人が手に取ってそれで拭き取った?そんな事しなくても持ち去ればいいし。確かに大して高価には見えないけど盗まれた宝石類だって手当たり次第って感じ・・よね」
一度手に取って元に戻したのはそれが被害者にとって大事な物だと知っていたからだろうか。わざわざベッドに丁寧に死体を寝かせた事といいどうも被害者と犯人の間にはなんらかの関係性があるようにリザには思えてならない。
「その手がかりがここにあるかも─」
封印の赤いテープを外して慎重にペンダントを取り出してそこに書かれた見えない証拠を読み取ろうとヘイゼルの瞳はじっとそれを見詰めた。

中略

「首謀者が軍関係なら手駒もそっち系かも知れないし。という訳でロイ悪いがお前のペット借りるぞ、用意は良いか、ワンコ」
「ハボ?」
「いつでも良いっスよ、おっさん」
音も無く背後に表れた黒い影にロイは一瞬それが誰か判らなかった。
全身を黒で包んだ姿に顔には目出しの黒マスク。ガンベルトには銃と弾薬とごついアーミーナイフが装着されている。唯一表情が伺える目は何時もと違う蒼く冷たいアイスブルー。

「いや俺が先に行って右側の建物の様子を見ますからあんた方は後から来て下さい」
「おい、ワンコ・・・」
「はっきり言って足手まといだ」
指示を途中で遮る男に調子に乗るなとオリーブグリーンの瞳に剣呑な光が宿るがハボックは躊躇なくそう言いきった。
「ESUの連中が一斉に突入すればすぐに気付かれます。人質救出が最優先なら俺1人の方が有利っスよ。相手はこちらがこの場所を突き止めてるなんて夢にも思ってないでしょうからね。それと連中がいるのは多分右側っしょ。こっちなら入り口からは見え難いし後ろは丘に接しているから侵入し辛い」
「・・・・オーケイ少尉殿」
的確に状況を読み取る能力は確かに実戦を生き延びた兵士のものだ。軍人の顔に戻ったハボックにヒューズもそれ以上文句も言わず素直に両手を上げた。
「30分待つ。それで何の連絡も無ければこちらも突入する、それで良いか?」
「了解しました。じゃあ行きますんであんたはロイの傍にいて下さいよ?この人が血迷って現場に出てこないようしっかり見張ってて」
「おい、ハボ!」
「判ってますって、主任さん。現場はなるべく荒らさない、でしょ?」
へたくそなウィンク一つ残してハボックの姿はあっという間に夜の闇に紛れて消えた。

                 

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