CSI:EAST PROMISE


「けど俺約束したんスよー。金曜の夜は一緒に過ごそうって」
空調の壊れかけた車内の空気は温くなったお湯みたいでそこに何とも気の抜けた声が間延びして響く。
「ぼやくんじゃねェよ、新入り。最近の女に約束守ろうって奴はいないさ。お前も仕事が忙しいのご免なさいのメールで済ませられたんだろう?」
図星だったのか指摘されたほうはグウの音もでない。返事代わりにふかした煙草の煙が車内に溜り白い雲となったところで窓が開けられそれは白いラインとなって外に追い出された。
「だってゴリさん。それまで忙しくてやっとできた食事の約束だったのに。俺に会えなくて寂しく無いのかな・・・は」
「そいつはアレだ、きっとお前より大事な相手って奴ができたんだろうよ」
投げやりに応えた相手はいい加減にしろとばかりにカーラジオに手を伸ばす。週明けの月曜勤務、気温は朝からうなぎ上りなのに予算の削減で車の空調はいつまで経っても直して貰えない全くただでさえ憂鬱な所にいつもは陽気な新入りの相棒がデートをすっぽかされたとかでやけに鬱陶しい。適当に相槌打って流していたがそれももう飽きた。太い指がボリュームのつまみを思いきり廻すとビートの効いたサウンド共に誰かの叫び声
「WHO ARE YOU?」が耳に飛び込む。そこに
「こちら本部、ハーリィストリート西ブロックのイースト高校で420発生76号は直ちに現場へ急行せよ」
音楽に負けじとばかりに隣のスピーカーから呼び出しが響く。車内の男達は一瞬顔を見合わせた。そのコールサインが意味する事件はたった1つ。
「 │4(了解)直ちに向かいます」
「ったく夏休みだっていうのになんだって!」
彼等の乗ったパトカーは一気にスピードを上げて走り出した。点滅する赤い光とけたたましいサイレン、そしてラジオから流れる男の歌声をB・G・Mにしながら。

 昔ある事件で記者が職場恋愛についてどう思うかと質問してきた事がある。確か犯人は同じ職場の男で事件はつまり痴情のもつれと分類される代物だったからだろうがその時自分が何と答えたか科学捜査班主任ロイ・マスタングはよく憶えている。
「これは私の意見だが仕事場で顔を合わせてデートでも顔を合わすなんて飽きないか?それに喧嘩しても仕事はちゃんとこなさなければならないだろう?まぁあんまりお薦めできないと思うがね」
─確かにそうだな。お前は正しかったよ。
「マスタング主任こちらです」
過去の自分に頷きながら声の方に視線を向ければ見慣れた黒い制服の金髪、青い瞳の警官が彼を呼ぶ。黄色いテープの向こうにいるのは先週デートの約束をすっぽかした恋人だ。正直後ろめたさに声をかけるのも躊躇いたいがここは大事な犯罪現場で私情に走った行為はもちろん許されない。だから
「判った、ハボック巡査。君は中に入ったのか?」
ことさら抑揚のない声で規定通りの質問をする。もっともしばらく振りに見る空の蒼に目を合わす事はできない。
「いいえ、主任。中の確認はダリウス巡査が行いました。俺は周囲を見回っただけです」
それでも耳は微妙なアクセントまで拾うおうとする。どこか非難めいたトーンはないか怒りの色が滲んでいないかと。
「おぅ、俺が規定どおり確認した。死体に触っちゃないし扉にも何処にも手も付いてねぇ。│後はあんた達の仕事だろ」
そんな空気を壊す勢いでとある類人猿の一種を想像させる容貌の厳つい警官がテープの向こうからロイを呼ぶ。その乱暴な言い種に眉をひそめる男の脇をすり抜けてロイ・マスタングは黄色いテープの向こうに足を踏み入れた。

中略


「所持品に学生証は見当たりません。でも多分この学校の生徒だと思います」
その姿をカメラにおさめながら金髪の美女が沈痛な面持ちで報告する。監察医から捜査官に転身して日が浅いリザ・ホークアイにとって少年の被害者はこれが初めてなのだろう。
「どうも後ろからいきなり撃たれたらしいですね。背中に2発弾は貫通してます」
小さな鉛玉をピンセットで摘んで掲げる男の声には抑えられない怒りが滲んでいる。明るい茶色の髪は短かめで鶏冠のように逆立っているのがファイマンス・ブレダ捜査官のトレードマークだ。高い分析力と論理的な洞察力を誇る彼はしかし熱いハートの持ち主でもある。証拠を捜して床を這い回るその姿は絶対に犯人を逃すものかという気迫に満ちていた。
「こんな子供を後ろから撃つとは犯人は大した勇気の持ち主らしい。それで第一発見者は誰だ?教員か?」
「いいえ、同じ学生です。名前は・・」
ヘイゼルの瞳が手にしたメモから名を読み上げようとした時
「おい、お前ちょっと待て!」
「どけよ、おっさん!」
「あ、こらそこは入っちゃだめだ!」
廊下で誰かが揉み合う音、明らかに少年の声と警官の声が入り乱れて何事かとロイ達の視線が入り口に向けられた所で
「アル!」
金髪金目の少年が黄色いテープを引きちぎらんばかりに飛び込んでこようとするがその胴体はがっちりと後ろから金髪の警官が押さえ込んいて
「アルフォンス!」
捕らえられた獣さながらに暴れる少年の悲痛な声が教室中に木霊した。

                 

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