NO REASON

理由なんか知らない、必要も無い。大儀も名分も関係ない。
あるのは傍にいたいという想い、ただそれだけ。
それだけが唯一のREASON。

彼は退屈していた。ここの暮らしにそれほど不満はなかったが変化のない日々は心底彼をうんざりさせる。
なにかこの徒然を慰めるものは無いものか。そう考えていた時に何処の神の気紛れか−尤も彼は何の神も信じていなかったが−ソレは来た。代わり映えのない食事のトレーの傍らに潜んだ白い封筒は、灰色の壁に見えない穴を穿つ。その穴から垣間見る外の世界にどんな種をまけば一番おもしろく遊べるか−フルコースの中の前菜を味わう様に彼は策謀の紅い紋様を描く。


春浅きイーストシティの朝はまだ少し肌寒い。店のシャッターを開けた時、メアリー・エレンはちょっと犬の様にブルッと身震いした。それからさっき掃除した店頭に店の奥から運んできた幾つものブリキのバケツを並べてゆく。
並べ終わったバケツに今度は色とりどりの花々を活けてゆき、すっかり開店準備を終えた時には朝の空気は春らしい柔らかさが満ちていた。最後のバケツに今日の目玉商品、露を含んだピンクの薔薇を挿し終えて、うんと背中を伸ばして空を見上げた時、後ろの誰もいないはずの店内で何かが光った。一瞬後に彼女を襲ったのは白い閃光と轟音。
背後から襲ってきた衝撃は細い身体を舞い上げ石畳の道路に叩き付けた。黒い煙りと鉄錆の臭いが辺りに満ちていく。
何が起きたのか解らないまま意識を失っていく彼女が最後に聞いたのは、剛胆で評判な向いのケーキ屋の店主の悲鳴だった。
オカシイナア、アノオジサン。ナンデヒメイナンテアゲテルンダロウ?
1人の悲鳴は呼応しあい、やがて辺りを圧する叫びとなる。けたたましいサイレンがそれにとって変るまで。

「ひでえなあ、これ」ヘビースモーカーの軍人はお馴染みの煙草を銜える事も忘れて呟いた。現場に立つ彼の前には残骸と化したフラワーショップ、看板に使われてたらしいピンク色の板の破片にはかろうじて読める筆記体のFの文字。
あたり一面に飛び散ったガラスの破片や瓦礫などの無彩色の光景に色鮮やかな花の切片が紙吹雪の様にちりばめられて悲惨な現場に奇妙なコントラストを加えていた。喜びを与える美しい花とそれに飛び散った赤い血痕。
「・・・で人的被害はどのくらいだ、ハボック。」
振り向きもせず現場の指揮官は隣の部下に尋ねた。
「重傷者1名、軽傷者14名です。重傷はこの店のオーナー、メアリ−・エレンです。爆風による打撲と骨折、臓器への損傷も見られます。後はガラスの破片などで通行人が怪我をしました。全員イーストシティ中央病院に搬送しました。SIR.」
いつもは軽口を絶やさない不遜な部下は日頃の態度から想像もできない真面目さで黒髪の上官に報告をした。
「爆発の原因は?」
「今の所断言はできませんがガス漏れなどの事故ではないと思われます。なんらかの爆発物が原因かと。」
「司令部から爆薬の専門家を呼んで徹底的に検証させろ。憲兵隊は不審人物などの聞き込みを担当してもらう。
それから周囲の家屋の被害状況も詳しく調べる様に。外側が無傷でも土台が傷付いた場合もある。工兵隊から何人か来てもらえ。」
「YES.SIR!直ちに手配します。」
命令を伝達しに金髪の部下は走り去る。その場に残った上官−ロイ・マスタング中佐は記憶に焼きつけるように瓦礫と化した店を見詰めた。

1時間やっと落ち着きを取り戻し始めた現場を作業中の兵士を残して主だったものは司令部に引き上げ始める。
肩に羽織ったままのコートをひらめかせロイは無言で車に向かう。護衛の准尉は正確に2歩後ろを着いていく。そのまま振り向かずに放たれた問いはその距離にいた者にしか聞こえなかっただろう。
「メアリ−・エレン嬢の容態はどうだ。大丈夫なのか」
「詳しい事は解りませんが、命はなんとか取り留めたそうです。ただ意識の回復がいつになるかまでは・・。もしかしてお知り合いですか、中佐。」
「・・・2、3度花を買った。店内の花より明るい笑顔のお嬢さんだよ。」
答える声には何の感情も籠ってはいない。背後の男には前をゆく上官の表情は見えない。それでもロイがどんな顔をしているかなんとなくハボックには想像できる気がした。形の好い唇は真一文字に結ばれ、黒い瞳には冷たい光が宿ってるだろう。怒っているのだ。深く静かに怒っている時のロイは誰よりも冷静になる。青い焔が赤い火より燃焼温度が高いのに似て。
怒りのオーラを纏うロイの後に続きながらハボックはここ暫く続いた平穏の終わりを告げる重い音を確かに聞いた。


成功だ、大成功だ、黒髪の軍人が車に乗り込むのを見詰めながら彼は心の中で快哉を叫んだ。
自分の理論は間違って無かった。ほんの少しのアレンジで予想通りの効果が得られたのだから、やはり僕には才能があるんだ。あの男と同じくらいに。
あの男−ロイ・マスタング、今は中佐らしいが外見は昔と全然変らないじゃないか。イシュヴァ−ルの功績を独り占めして今の地位に着いたのを恥とも思わないのか?必ず後悔させてやる、本当の英雄は誰だったのか思い出させるまではこの火祭りは終わらない、
そう呟いた男の姿が現場に集まった野次馬の影にまぎれて路地に消えていくのを気に止めた者はいなかった。

久しぶりのシリアス・アクション物です。オリキャラでます。過去話でます。長くなります、きっと。とっても。
拡げた風呂敷がうまく畳めます様よろしければおつき合い下さい。

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