「何考えてるんだ、この事件の犯人は!」朝の大部屋にハボックの腹立たしげな声が響いた。
「あれから連続で5件ですからねぇ、しかもたった一ヶ月の内に。」
隣に座った眼鏡の軍曹も溜息付きながら同意する。
「しかも予告も犯行声明も無し。今までの過激派とは異なるようですし。」
向いの机からファルマンも感想を述べる。
「おまけに爆破場所もなんの関連もねぇ。ホテルに一般家庭、ブティックに郵便局だ。何が狙いなんだかさっぱり解らん!」
いつの間にかハボックの後ろに立っていたブレダが追加の資料を机に叩き付ける。
「それを突き止めるのが私達の仕事よ、ご苦労様ブレダ少尉。それが昨日の事件の資料ね。」
それまで黙っていた金髪の美女がそう言っていらだった会話を締めくくる。
「ハボック准尉、悪いけど新しい資料がきたから中佐に会議室に来て下さるように伝えて下さい。皆もそっちに移って。」
「アイ、マム。」
「その必要はない、准尉。移動するのも面倒だ。会議はここでやる、いいな少尉?」
寝不足気味の不機嫌な声は開いた扉から入ってきたロイ・マスタング中佐のものだ。そのまま手近にある椅子に座りブレダに報告を促す。形式などにこだわらない上官に馴れた部下達はなし崩しに始まったミーティングに各々メモを走らせ始めた。
「えー昨日ホテル・イーストオリエンタルの1階ロビー付近で起きた爆破事件ですが、被害は重軽傷者合わせて25名、内3名が重体です。ロビーは大破。2階3階にも損傷がでました。しかし時限装置などの痕跡は見つからず、火薬の種類も不明。爆破直後にホテルを出たなど不審人物の目撃、また不審な小包、あるいは届けものなどは一切なかったようです。」
「だけどホテルなんだから荷物を預かったりすんだろう。その中に爆弾が入ってたとか。」
「ここのホテルの支配人は普段から用心深い人でな。一連の爆破事件が続いてからは手荷物の預かりは必ず中身を
確認する事にしてんだ。おまけに出入りの商人のチェックも厳しい。それでも爆発は起きちまったんだ。」
「イーストシティ内の過激派や反政府主義者の中に目立った動きをする者は居ないか?」
「今の所目立つ動きをしている奴はいません。彼等にもこの事件の犯人は謎のようです。」
ホークアイ少尉の冷静な答えは部屋の空気を一層重くしただけだ。事件発生から1ヶ月何の成果も上げられない軍部に批判の声も上がり始めている。治安の維持が第一という軍の威信に掛けても一日も早く解決しなければならないのだが、この事件には手掛かりが少な過ぎた。共通するのは爆発の規模と予告無しの無差別な犯行ということ。それ以外に被害者に関連は見つからないし、事件の頻度に規則性も無い。1日に2度と云うのもあれば、2週間後というように。
「・・・諸君らの自由な意見が聞きたい。どう思うかね、この犯人を。」
重苦しい気分を払うように低いテノールが大部屋に響いた。それを合図に部下達は腹にたまっていた意見を言い出し、部屋の空気は再び活力を取り戻す。
「少なくとも政治的なもんじゃないスね。」
「いわゆる愉快犯というものでしょうか。それにしては犯行声明などがないのが変ですが。」
「爆弾大好きな変態野郎じゃないですかね。ともかく爆発させるのが楽しいとかゆう奴。」
「それって最悪ですね。じゃあ犯人が飽きるまで続くって事でしょうか?」
「・・もしかしたらこれはメッセージなのかもしれません。誰かに対する。」
「どういう意味かね、ホークアイ少尉。」黒い瞳が興味深げに細められる。
「つまり爆弾はあくまで手段の一つで、目的は誰かに対してメッセージを送る事ではないかと。だから爆破の対象は誰でもいい、事件そのものがメッセージだから犯行声明も要らないという事です。・・あくまで推論に過ぎませんが。」
ヘイゼルの瞳を伏せつつ金髪の副官はそう結んだ。
「面白い考えだが少尉、そうするとメッセージがその誰かに受け取られ無い限り犯行は続くということか。」
「それは解りません。手段を変えるかもしれませんし、あるいはさらにエスカレートするか・・」
「うっわーそれだけは勘弁して欲しいスよ。ただでさえ最近市民の皆さんの目が冷たいんだから。」
また重くなりかけた空気を変えるように大柄な肩を竦めてハボックは戯けた仕種で天井を仰いだ。会議中でも煙草を離さないこの男は無意識にかいつも沈みかけた雰囲気をその飄々とした態度で自然に散らしてしまう、そんな特技を持っている。
「そうならないためにも、犯人の意図が何であれ、我々はこれ以上犯行を続けさせるわけにはいかない。どんな些細な手掛かりでもいい見つけ出すんだ。何か気がついた事があったらすぐに私に報告するように、いいな。」
「アイ・サ−!」
凛とした声に答えるように、力強い返事が部屋に響く。状況は厳しくとも少なくとも部下の士気は衰えて無い、そのことにロイは感謝した。

「午後の巡回はお前の隊か、ハボック。さっき聞きそびれたが市民の様子はどうだ?」
柔らかな春の光を背景に書類の山を前景にしてロイはサインを求めに来た金髪の部下に問うた。その疲れが滲んでいる声に改めてハボックはロイの疲労の深さに気がついた。何しろ爆弾騒ぎで市内は常時警戒体勢、実質司令部を動かす彼はほとんど司令部に泊まり込みである。おまけに通常の書類仕事もこなしている。手足となるハボック達だって同じようなものだが、抱えている責任の重さは比べ物にならないだろう。
「それほど動揺が広がってるわけじゃありません。ただ漠然とした不安は抱いてるみたいで・・。」
「・・大きな催し物や行事は自粛するよう勧告を出すべきかもしれないな。犯人の意図は何であれ目立つ機会を逃すとは思えん。」
「しかし中佐・・。」
適切な判断だと解ってはいるがハボックは素直に賛成はできない。
それは市民に対して軍の力不足を認めるようなものだ。市内の治安が守れない司令部に対していずれ声高に非難する者も出てくるだろう。そして新任の中佐に対する絶好の攻撃になる。
「大事なのは市民の安全だ。そうだろう?准尉。我々はそのためにあるのだから。軍の威信が傷付こうと、私の面子が潰れようとそんなのはどうでもいい事だよ。」
静かに言い切るロイにそれ以上何も言えず、敬礼を残してハボックは部屋を出る。閉じかかった扉を通る時、背後から聞こえたロイの電話の声が何故だかやけに耳に残った。
『ロイ・マスタング中佐だ。軍法会議所のヒューズ少佐を頼む。』

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