「まったく普段はあんなにいー加減な人なのになー。」
立ち入り禁止の黄色いテープが張り巡らされた瓦礫の山、最初の爆破事件のフラワーショップ跡の前で長身の軍人は呟いた。
約1ヶ月経ったそこは未だ片付けられることなく青空の下その破壊の痕を曝していた。市内巡回を終えたハボックが部下を一足先に帰し、独りこの現場に立ち寄ったのはさっきのロイの言葉のせいかもしれない。
彼の言葉どうりにほんの僅かな手掛かりでもいい、何か見落とした物が無いかと思って事件の始まりである此処に来たのだが、鑑識が洗いざらい運んでいった後の空虚な灰色の空間が在るだけだ。
いつもは隙さえあれば書類から逃亡するのに、部下に残業押し付けてデートに行く癖に、こんな時だけあんな顔して立派な事言うのか。
「カッコ良過ぎスよ。」
呟きながら足下の土塊を蹴飛ばす。花瓶か何かの破片であるのか薄らと模様が見えるそれは壁にぶつかって2つに砕けた。
また食事ちゃんととっていないな、中佐は。仮眠室にもあんまり居ないし寝ても無いんだろう。顔色も冴えないし、できるなら家に連れ帰って御飯食べさせてやりたいな。食堂のメニューばっかじゃ栄養片寄るし、あの人好き嫌い多いし。ちょっとでも事件に進展があれば、少しは休んでくれるンじゃ無いかと此処まで来たんだが今さら新しい手掛かりなんて見つかるなんてそんな都合いいことあるわけないし。
自宅での遭難騒ぎに遭遇してからハボックには上司の護衛以外に健康管理という任務が追加された。もちろん本人が命じられたわけでも、時間外手当てが付くわけでもない、むしろ自ら買ってでたその役目を彼は結構楽しんでいた。傍から見れば冷静沈着・有能と評価される上司の力の抜けた姿を見れるのは面白いし、何となく嬉しい。一見人当たりが良いようで、いつもどこか気を張って見えない壁を作ってるかのような彼が自分にあんな我侭に振る舞うのは、もしかしたら多少は信頼されてるのからかもしれない。そう思えば多少の(?)我侭も許せるような気がするから不思議なものだ。今まで上官に対する尊敬とか忠誠心なんて毛程も感じた事はない。どちらかというと反抗的で、上司受けが悪いと評判だった自分が彼のためなら何とかしたいというと思うのはのはどうしてだろう。
できることなら彼の信頼が欲しい。
そんな事を酒のついでについうっかり悪友のブレダに言ったらたっぷり5分沈黙した挙げ句に
『お前それ無自覚なのか?ま・・がんばってくれや。』
意味不明なこと言われて肩を叩かれたが。

「中佐の面子潰されるのも、身体壊されんのもヤだし。」

その猫背姿でため息つく金髪の軍人に後ろから声を掛ける者がいる。
「誰かと思えばこの間俺の応急手当てしてくれた軍人さんじゃないか、あん時は世話になったな。」
振り返ってみれば通りの向いにあるケーキ屋の大柄な主人の姿がそこにあった。
何故こんなごつい身体であんなファンシーでスイートなケーキを作れるのか、密かにこの通りの七不思議の一つになっている剛腕のパティシエは頭に巻いた包帯を指差しながら陽気に言った。
「あ、あの時の親父さん。怪我はもう大丈夫?お店の方はすっかり直ったんだ。」
「おお、店は先週からなんとか再開したよ。あん時はどうなることかと思ったが、生きてさえいればなんとかなるもんだ。メアリ−の怪我も大分良くなって来たしな。」
一時は生命も危ぶまれた花屋の若い主人は奇跡的に回復したが今も病院のベッドから離れられない。そんな彼女を励まそうとこの商店街の住人は毎日の様に誰かしらが見舞いに行っている。
「あんな良い子の店に爆弾を仕掛けるなんてとんでもねぇ野郎だ。聞けば他所でも同じ悪さしてるっていうじゃねいか!軍人さんっ何としても犯人捕まえてくださいよ!」
怒りでよけい凄みのでた顔を近付けて訴えてくる親父に気押されて、宥めるようにハボックは答えた。
「そ・そりゃなんとしても捕まえますとも!だからこ−してまた現場を見に来たんです。親父さん何か思い出した事とか、気付いた事なんかないですか?どんな些細な事でもいいんスよ。」
「うーん、知ってる事は全て話したんだがな。・・・あの日は天気が良かった。朝早いから通りに人はほとんど居なかった。儂は店の中からメアリ−が開店準備をしとるのを見た。その時店の中が光ってその後すぐに物凄い音と閃光がして、うちのショーウィンドウが全部割れちまった。慌てて外に飛び出したら血まみれのメアリ−が鋪道に倒れておった。・・・あの光景は忘れられんよ。」
まるでその光景が目の前にあるかの様に顔を歪ませて話す親父を痛ましげに見るハボックの脳裏にふいに何かがひっかかった。
「あれ?店の中が光ったってそれは爆発の閃光じゃ無く?」
「うーん、そういや違うような・・あれは爆発の一瞬前だった。しかも閃光という
よりもっと弱い・・淡い感じの光りだったような気がする・・っておい何処行くん
だい?」
いきなり走りだした金髪の軍人に掛けた声はまるで届かず、無言のまま彼は通りを左に
走りだした。−と思ったらUターンしてもう一度爆破現場に駆け戻る。そのまま何かを捜すように地面に這いつくばりやがて目当ての物が見つかったのか、再びそこから走り出しあっという間に親父の視界から消えていく。
「どうしちゃったんだ、あの軍人さん。」
呆然としてごつい手に持っためん棒で頭を掻きながら呟く親父の声に答えるものはいなかった。

「ファルマン!ちょっとこっち来てくれ!」
「ハボック准尉何処に行ってたんですか?ホークアイ少尉が随分捜していましたよ。」
大部屋に入ってくるなり自分の名を呼ばれて細目の曹長は驚いた。
もう午後の遅い時間−心地よい春の夕暮れが訪れようと言う時刻で、事務仕事に追われていた軍人達も定時と言う解放の時間を夢見る頃あいである。そのいささかユルくなった空気を蹴散らすように大部屋に入るなりヴァトー・ファルマン曹長を呼ぶハボックの手には小振りのダンボルール箱が抱えられていた。
「ファルマンお前確かジグゾーパズルが得意だったよな。」
「ジグゾ−パズル?ええまあ得意というか好きですよ。」
東方司令部の歩く辞書と言われるこの一見学者風の男はクロスワードからジグゾ−までおよそパズルと名の付く物は大概やっていた。
「そうか!じゃあこれなんとかならないか?」
そういって机の上にどっかりと置かれたダンボルー箱の中身を見てファルマンは首を傾げる。今の会話と箱の中身がどうにも結びつかない。
「あの・・准尉、私のジグゾーパズル好きとこれになんの関係があるんでしょうか?」
箱の中身を一つ摘んだ彼はふと恐ろしい想像が浮かんだが、あえてそれに気付かぬ振りをして尋ねた。箱の中には粉々に砕けた瓦礫の破片が詰まっている。材質は赤茶けた素焼きの焼き物らしく表面はざらざらして、幾つかの破片には薄らと赤い線のようなものが見えた。
「これ鑑識のトコから持って来たんだ。いやーあそこにある押収品から同じ材質のもん捜すのに時間かかった!小隊の連中に手伝わせても段ボール5箱でこれだけだもんな。でもこっからは俺じゃ無理だ。頼むファルマンこれ復元してみてくれ!
一部分だけでもいいから。」
「この残骸をですか?ハボック准尉〜」
見事に適中した予感に答える声にも思わず泣きが入った。ちょっと見には全く同じに見える破片の山にいくらジグゾ−パズルが得意だと言ってもこれは無理だろうと確信する。第一原形がなんだか解らないんじゃ得意の記憶力も役に立つか−何とか穏便に諦めさせようと開きかけた口はハボックの真剣な表情に気押されていつの間にか無意識に正反対の言葉を紡いでいた。
「うーん保証はできませんが何とかやってみますか・・しかし私は今晩、夜勤ですが。」
「あ・それは俺が代わるから大丈夫。ホント助かるわファルマン。」
大きな身体を折り曲げるようにして礼を言うハボックに
「御礼はいいですよ、准尉。これ現場にあったものですね。だったら私の仕事です。」
気弱そうな顔に笑みを浮かべて厄介な仕事を引き受けてくれた同僚にハボックはもう一度頭を下げた。

ファルマン登場、おかげでヒューズさんのスペース無くなりました。結構ファルマンは好きです。軍人なのに銃構える姿が様にならないとことか。あの博識ならジグゾ−パズルよりクロスワードが得意そうです。管理人も好きです。○日新聞の土曜日版のクロスワードは欠かさずやります。

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