「失礼します!中佐、ハボックです!ちょっとお話したいことが・・うわっつ!」
「静かに開けろや、准尉。ロイが目を覚ます。」

翌日の昼過ぎロイ・マスタング中佐の執務室をノックし、いつもの様に返事も待たず中に勢い良く入ろうとした金髪の准尉を迎えたのは頬を掠めるように飛んで来た鋭いダガ−だった。その明るい金髪を2、3本散らして壁に突き刺さった凶器をしかしハボックは見て無かった。なぜなら目の前の光景−来客用の大きな革張りソファーに座っている黒髪、スクウェアグラスの奥からオリーブグリーンの瞳が剣呑な光を放つ青年将校とその膝を枕に猫の様に丸くなって眠るロイ・マスタング中佐の姿−に思わず彼はフリーズ状態になっていたから。ソファに座った男は硬直したハボックを面白そうに眺めながら、膝の上の黒髪を撫でいない右手の人指し指をそっと口に当てて、囁くように声を掛けた。
「元気そうだな、ハボック准尉。ロイに用か?悪りぃが急用で無きゃ出直してくれや。こいつさっきやっと飯食ったばっかなんだ。」
実際は例え大総統が急死したっていうニュースが飛び込んでも起こす奴は必ずダガーの餌にする−にっこり微笑む笑みの中には明確にそういうメッセージが込められており、その迫力に若い准尉は回れ右をするしかない。
「わかりました、また後で来ます。」
小さな声で、気持ちさそうに親友の膝で憩う人を起こさない様に言ってドアノブに手を掛けたハボックの背に寝起きのふにゃけた声がかかる。
「うー、んー待ちたまえ、ハボック。何か用があるんだろう?・・おいヒューズ起きるから、その手どけろ。」
後半の抗議はしつこく頭を抑えている膝枕役へのものだ。
「えーロイ君もう起きちゃうのーつまんねー。せっかくかわいい寝顔を堪能してたのに。」
「やかましい!大体30分で起こせっていったじゃないか。」
お前のでかい声のせいだと目線で語る男にダガーなんか投げる人が悪いんですとこれまた視線で返してハボックはわたわたと起き上がろうとするロイにさっと手を貸して立たせた。(傍から見れば膝枕から引き剥がした様に見えたかも知れない。)
「お休みのところ申し訳ありません、中佐。ですがちょっと見て頂きたい物がありまして・・」
そう言って書類の散乱するロイのデスクに抱えて来た小さな箱をそっと置いた。どれどれと覗き込む2人の士官目に入ったのは、一見バラバラになった瓦礫を並べただけのもの。約15センチ四方の四角形に並べられたそれはよく見ればそれぞれの破片がちゃんと組み合わさって、その表面には薄らと赤黒いラインが見える。
切れ切れの線はそれでも円を描きそしてその内に三角、一番内側に三日月。円弧を描くそれは禍々しい笑みを浮かべているようだ。
「最初の爆破現場の中から集めた物からファルマン曹長が徹夜で復元してくれました・・・マスタング中佐?」
反応のない上官に視線を向ければ彼の表情は紙の様に白く、形の良い唇をきつく噛み締め黒い瞳はただ赤い三日月を睨み付けてるばかり。
その尋常で無い様子に報告を止めるハボックに
「なんでもねぇ。報告を続けろ、准尉。」
と固い声で命じたのは微かに震える背をそっと後ろから支える男だった。こちらも表情は強ばりさっきまでの遊び半分な空気は微塵も無かった。2人の様子はどう見ても普通では無いがその言葉に押されるようにハボックは報告を再開する。
「・・昨日会った目撃者の証言の中に爆発直前、不審な閃光があったとありました。念のため入院中のメアリ−・アン嬢に確認をとった所確かに無人の店内で何かが光ったそうです。」
「・・・そこからお前は何を思い付いた?」
問いかける声に先程の動揺は感じられなかった、いつの間にか椅子に座りデスクに頬杖つく姿はもうすっかり平静を取り戻したいつものロイ・マスタングだ。
「この事件には錬金術師あるいは錬金術が関わっているんじゃないかと。確か術が使われる時、発光しますよね?ええと確か・・ヘン・」
「変成反応だ。そんくらい憶えとけ坊や。」
からかう様に茶々を入れる男もいつものペースを取り戻したらしい。ハボックにはあんまりうれしくないが。
「とにかく!そう思ってメアリ−に事件の前に店に来た物にどんな些細な事でも変った事は無かったか聞いてみました。そしたらその3日前に入荷した観葉植物の植木鉢に今まで見た事のない模様が描いてあったそうです。いつもは素焼きの無地の鉢なのに。尤も模様は薄くあんまり目立たない物なのでサービスかと別に気にはしなかったそうですが。」
「業者はいつもと変らないんだな?」
「はい、なじみの業者だそうです。それから他の事件現場にも観葉植物などの鉢植えは確かにあったそうです。ただホテル・イーストオリエンタルでは支配人がレンタルの鉢植えの中まで掘り返してチェックしてたそうですが。」
それでも爆破事件は起きたのだ。ケーキ屋の親父の一言から直感に任せて走ってきたハボックだがこの先はまるで解らない。
どうして何の変哲も無い植木鉢が爆弾に変るのか、しかもそこに錬金術師はいないのに。
「ハボック准尉、黒色火薬の成分はなんだ?」
「あー硝酸カリウム、炭素、硫黄?」
「正確には硝酸カリウム74%、炭素16%、硫黄10%だ。そして硝酸カリウムは園芸用の肥料に、炭素は木炭などに硫黄は薬局でも買える。つまりこれらの物が鉢植えの中に入っていればそれ自体が爆弾になる。」
「しかし現場に不審な行動を取る者はいませんでした。また現場から逃走した人物も目撃されてません。」
「多分こういう事だと思う。犯人はあらかじめ植木鉢に火薬の元となる物質を仕込む。もともと肥料に入っているし、木炭などは砕けば分からないだろう。それを飾りにみせかけた練成陣付きの植木鉢に入れれてばらまく。そして自分は現場から近いしかし人目に付かない場所から・・」
話ながらロイは白い紙に丸い練成陣を描いた。手袋に描かれた焔の練成陣とは異なるそれのまん中に、机にあったコーヒーカップに入っていた銀のティースプーンを置く。そしてもう一枚の白い紙にさっきと全く同じ練成陣を描いてその上にそっと手を置いた。
すると同時に2つの練成陣から淡い光りが溢れ出し、それが消えた後には銀色の小さな蜥蜴みたいな物が陣のまん中に残された。
「すっげえ・・こんな事もできるんスか錬金術って。」
「まぁあんまり一般的なやり方じゃないな。練成陣の共鳴現象みたいなものだ。」
「つまり犯人は現場近くに隠れていたわけだ。ロイ、術の有効範囲はどれくらいだ?100mか1kmか?」
「うーんこれは術者の技量次第としかいえん。ただ練成陣付きの植木鉢がそこら中にばらまかれてるとしたらそんなに遠くからのコントロールは難しいと思う。」
「まぁ間違って自分が爆発に巻き込まれてりゃ世話ないしな。しかしよく爆弾包んでた鉢の破片が回収できたな。ホントならもっと復元不可能なほど粉々になるだろう?」
「これは多分不発だったんだ。練成陣は一ケ所でも途切れたら発動しない。おそらく何らか傷がついて陣の力が発揮できなかったわけだ。見つけられたのは僥倖だ。」
「とういうより執念だな。よーし良くやった!わんこ。これで物証がでたわけだからこっちも動きやすくなる。ほら准尉行動開始だ。ぼやぼやすんな。」
「え?えーっとマスタング中佐?」
いきなりその場を仕切る男に頭が付いていかないハボックは縋るように自分の上司に問いかけた。
「ハボック准尉、この破片を写真撮影し速攻で現像、30枚ぐらい紙焼きしろ。先にできた2枚をヒューズ少佐に届けたら後は各小隊で手分けしてイーストシティ全ての園芸業関係に配り、問題の植木鉢の捜索・回収にあたれ。こうしてる間にまた何処で爆発が起こるか判らん。急げよ」
「YES.SIR!」
「俺3時のセントラル行に乗るからなー間に合わせろよ。准尉。」
敬礼と共に机の箱を掴んでどたどたと出ていく金髪の准尉の後を眼鏡の男の声が追った。

ヒューズ登場、しかし何故私の書くヒューズはべらんめぇ調になるのか。
江戸っ子なんでしょうか?

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