「あいつお前の言う事しか聞かねーな。かわいくない。」
「私以外の命令は聞かない様に躾けてあるのさ。お前もあんまりからかうな、あれで結構ナイーブな犬だ。」
そのナイーブな部下を犬呼ばわりする親友に苦笑しつつ、ヒューズはそっとその頬に手を当て労るように尋ねる。
「お前は大丈夫か、ロイ?。これであいつが関わってるとはっきりしただろう。絶対これだけじゃすまないぜ。」
頬に寄せられた温もりに憩う様に目をふせ力を抜く、まるで猫が飼い主に甘えているような仕種でロイは答えた。
「心配するな。相手が誰であれ容赦はしないよ。私の管轄でこんな騒ぎ起こした事死ぬ程後悔させてやるさ。」
「おっかねーな。まぁ勘の良い番犬も着いてることだし?・・ところでロイさっき練成したこれ何だ?亀か」
ひょいと摘まみ上げたスプーンの成れの果てはかなり丸っこい胴体に短かめの手足がついた正体不明の生き物で。
「蜥蜴だ!見ればわかるだろう。」
「うっそ、この丸い胴体が蜥蜴?そういやお前美術はからきしだめだったよなー」
「やかましい!さっさとセントラルに戻って仕事しろ、ヒューズ!」
廊下まで響く2人の士官の声に通りかかった部下達はまたかとため息をついた。

「お待たせしました、ヒューズ少佐!紙焼きできました。」
まだ生乾きの白黒写真をひらひらさせながらハボックが執務室に戻って来たのはそれから30分後だった。写真機材班に何と言ってやらせたかは謎だが多分記録に残るスピードだったろう。それをヒューズに渡し
「さあ今ならなんとか間に合いますよー。正面に車廻しておきましたから!」
さっきのお返しとばかりに背中を押すようにせかす。
「あれお前さん送ってくれないの、准尉?」
「そんなの他の奴でいいだろう、こいつは他にやる事がある。」
「申し訳ありませんが、仕事がありますので、サ−」
だからさっさと行やがれとにっこり笑顔を向け密かに勝った!と思ったのもつかの間。
「んー今からじゃぎりぎりだし。ロイ確かこいつ車でのイーストシティ中央駅までの司令部内記録保持者って自慢してたよな。あせって不馴れな奴の運転で事故って愛するグレイシアを悲しませたく無いし、そういやもうすぐお茶の時間だし、やっぱ1本遅らそーかな−。」
「・・・・ジャン・ハボック准尉。ヒューズ少佐を中央駅まで送って差し上げろ。」
「アイ・サ−・・・」
儚いつかの間の勝利であった。さぁ急げとばかりに眼鏡の男は首根っこをひっつかんで大型犬を拉致していった。

「シートベルトしっかり絞めて下さいよ、少佐」
こうなりゃ新記録に挑戦とばかりに2人の乗った車は砂埃上げて正面ゲートを通過していく。
「おい、安全運転でいってくれよ−。わんこと心中なんてごめんだぜ。」
「ヒューズ少佐〜そのわんこっての止めて下さいよ。おかげで最近中佐まで俺の事犬呼ばわりするんですから。」
南部であった時からこの男は自分の事を犬、わんこと呼んで憚らない。理由を問いただしたら『だってお前犬にしか見えん。』と返され反論もできず今に至る。
「犬は嫌か、坊や」
「坊やも、犬もごめんです!」
「国家錬金術師は軍の狗だぞ。」
「・・・・」
ひきょうだ、その言い方。とは言えずにハボックは無言で煙草に火をつけた。するとちょんちょんと後部座席の人が肩を叩く。何も言わずライターと煙草を手渡せば、カチリという音と共に狭い車内に煙りの柱が2本立つ。
ちらりとバックミラーで見ると眼鏡の男は目を伏せ深く煙りを吸い込んでいる。さっきまでの陽気な光は消え、男はひどく疲れているように見えた。
疲れて−るんだろう。この人の職場はセントラルで一番ハードだって言う軍法会議所で、しかもそこの出世頭と聞いた。それなのに何故か頻繁に東部へやってちゃ、家族自慢で俺らの仕事を妨害したり時折真剣な顔で中佐とこっそり話込んだりする。すると何故か止まっていた案件や事件が動きだしたりするのだ。今日だって本当はこの事件のために来たに違い無いのに。
別に嫌な奴じゃ無い。少佐という地位なのに俺ら下っ端にも気さくで、軍人の癖に階級にこだわらない、良い人なのに、何でか俺はいつもガキみたいに反発してしまう。わんこ、坊やとおもちゃにされるからか、それともこの人がセントラルに帰った後、中佐が寂しそうな顔をするのを知ってるせいか。
執務室のソファーの上、この人の膝で眠る中佐を見た時痛んだのは何処だ。
「難しい顔してどうした、わんこ。ちゃんと前見て運転しろや。」
目をつぶったままでどうして判るのか、まったく油断ならない。
「ちゃんと見てますよ。・・ヒューズ少佐1つ質問してよろしいでしょうか?」
「んーなんだ。グレイシアの誕生日ならトップシークレットだ。」
「今度の事件の犯人・・少佐達は最初から見当がついてたんスか。」
「錬金術師じゃないかと疑いを持ってたのはロイだ。ただ確たる証拠が無いうちはあいつも俺もあまり大袈裟に動けなかった。
知っての通り民間の術師ならともかく軍関係なら中央の管轄で、物証も無しに調査の許可なんてあのグラン准将が出すわけもない。だがあんな技術はを持つ連中は大概軍に関わったことがあるはずだ。・・例えばイシュヴァ−ル。」
暗闇に浮かぶ巨大な焔のドーム、内に何百人のイシュヴァ−ル人を抱え燃え上がる赤い焔。その地名はハボックに否応なくその光景を思い出させた。
「確かにそうですが・・お二人とも誰が犯人か心当たりがあるんじゃないスか?」
「・・ここんとこロイはちゃんと寝れてるか?」
「はい?」
「あいつさ、何処でも何時でもすぐに眠れるっていう便利な特技持ってるんだけど、それって裏返せば夜の眠りが十分じゃないって事なんだ。」
「あのそれはどいういう・・」
「自分用の灰皿置いちゃうぐらいあいつの家に行ってるんだ、知ってンだろう?」
何時の間にかハボックの質問とはまるで関係のない方向に会話は進む。こうなるとはぐらかされてると判ってるが同じ質問をしても答えが返らないのは経験上知っていた。そうやってはぐらかし、煙に巻き、自分のペースに巻き込んで何時の間にか必要な情報を引き出す情報将校の手管に若造のハボックが叶うわけもない。
「いや、確かに何度かマスタング中佐のお宅に食事作りに行ったりはしましたが、泊まる事はありません。そこまでずーずーしく無いッスよ。それより眠りが十分じゃ無いってどう言う事ですか?」
「あらま、そーなの。そーか天然で鈍感で無自覚か。」
言ってる意味は不明だがどうもエライ言われようである。
「ヒューズ少佐、質問は諦めますからもう少し脈絡のある会話して下さい。マスタング中佐と違って俺の頭じゃついてけません。」
「ロイは大切か?」
・・全然聞いて無いよこの人。
「答えろジャン・ハボック准尉、お前さんにとってロイは大切か?大事か?食事の世話なんかするのは只の気紛れか?それとも国家錬金術師のマスタング中佐に取り入ろうって腹か。」
問いただす瞳に笑みはない。さっきまでの遊びの会話じゃない、これは尋問だった。尤も答えるハボックにはそんなのどうでもよかった。
瞬間、沸き起った激情のまま叫ぶ。
「そんなつもりはありません!」
車内に響く大声と共に車は急ブレーキの悲鳴を上げて路肩に止まり、さしものヒューズ
も目を丸くする。

若造吠えます。実はハボックは意外に熱血タイプではないかと密かに思ってます。

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