30分後いい加減固まった筋肉が悲鳴をあげ始めても忠実な准尉は動かない。けれど『待て』の姿勢は退屈で。
しかしよく寝てるな−。いてて腰にちょっときたけど動くわけにはいかないし。あ、つむじみっけ、おお左巻き。でもなんで男のくせにこんなさらさらキューティクルへアなのかね。俺なんかつんつくの麦わらなのにって比較してどうする。意外と小柄だよな、普段は大きく見えるけどこうしてるとジャストサイズ・・ナンのだ。柔らかそーなほっぺた、これで年上だなんて信じられねー。触ったら起きちまうかな・・・はは疲れてンな俺も。
「失礼します。マスタング中佐!いらっしゃいますか?」
退屈なあまり何やらおかしな方向へ流れ始めた思考は突然響いたせわしないノックの音に断ち切られる。
慌ててハボックが頭を離し、瞬時に起きたロイが体勢を戻したのと同時にドアが開き入ってきたのはブレダ准尉だ。彼が中にいたハボックを見て何か言おうとした瞬間、けたたましく電話のベルが鳴り、ロイの注意はそちらに向かってしまう。
「もしもし、こちらマスタング・・何だヒューズか・・何だって?」
一気に緊迫したロイの声にこれがいつもの惚気攻撃でない事を察知した二人の部下は顔を見合わせ無言でそっと部屋を出る。
「何だこっちにいたのか、書類だしに行ったまま帰って来ないってホークアイ少尉が捜してたぜ。」
「うっわやば、でもそーいうお前だって何処に行ってたんだよ。」
「憲兵本部」
「はぁ?」
何でと疑問符を張り付かせた顔に不敵な笑みを浮かべた男は声を潜めて答えた。
「見つけたんだよ、手掛かりを。」

「奴と接触した人間がいたぁ?」
「そう4、5日前にあの青の旅団のメンバーと接触があったんだ。」
「でもヨハン・フォークスに政治的あるいは組織的な仲間がいないのはこれまでの調査ではっきりしているわ。」
ブレダが持ち込んだ手掛かりは大部屋中の人間を集め、彼等は停滞した捜査に溜まったストレスを発散させるようにてんでに意見を言い始めた。
「青の旅団て東部では結構大きい反軍部組織ですよね?それがなんで?やっぱり仲間だったんですか?」
「確かあそこは構成員は100人近く、しかし首謀者は収監中で内部では権力争いが起き、肝心の反政府活動はお留守になってると聞きましたが・・。」
「そうその中で一番過激な一派の1人が一昨日憲兵隊に武器密輸の容疑で勾留されてたんだ。そいつが言うには奴等が溜まり場にしている酒場にリーダーを名指しで電話掛けてきた奴がいた。リーダーが電話にでると相手は連続爆破事件の犯人と名乗り、こう言った。−数日のうちにイーストシティで大きな騒ぎが起きる。その時同時に軍を攻撃すれば指導者は奪回できるし、組織のナンバーワンになれるってな。」
「それって犯行予告ですよね・・」
眼鏡の軍曹の不吉な言葉にその場は一瞬重たい空気に支配される。誰もがあの瓦礫の山と泣叫ぶ人々の声を思い出したから。
「それで?奴は金か何か要求してきたのかね、ブレダ准尉。」
そこに厳しい表情で大部屋に現れた彼等の上司の額にはくっきり縦ジワが刻まれ、セントラルからの電話も朗報とは言い難いと彼等に知らしめた。
「いいえ、そういう話は一切なかったそうです。だからこそ彼等のリーダーも半信半疑ですが武器を用意し始めたそうで・・」
「准尉が尋問した相手はそれで憲兵に捕まったのか。それにしてもよく見つけてきたな。我々は単独犯だと思ってうたから組織関係は重視しなかった。その盲点をついたわけだ。」
「俺も奴は単独犯だと思います。ただこれは中佐の出されたヨハン・フォークスのプロフィールを読んで思ったんですが、あいつの目的は軍、あるいは中佐御自身の権威を傷つけることじゃないかと。もしあいつの計画どおりにイーストシティに大規模な爆破テロが起き、その上過激派がそれに連動して攻撃すれば市内はパニック状態になります。軍の権威なんかあったもんじゃありません。そしてそれを高みの見物したいんじゃないかと思って、憲兵本部に勾留されていた活動家を片っ端から当たってみたんです。」
「すげぇ、さすがブレダ准尉!しかしヨハンもサイテーの野郎だな。自分の手は汚さないってやつか。」
ハボックの脳裏にあの無表情な男の顔が浮かぶ。何をやっても目に止まらないと言った男はいつしか裏で人を操る事に喜びを見い出すようになったのか。
「・・・そうすると他の組織にも声をかけている可能性もある。ブレダ准尉、電話の相手は犯行の正確な日時は言わなかったのだな?」
「はい、また電話すると言ったそうです。少なくとも昨日までは連絡はありません。」
「それではフューリ−軍曹、ファルマン曹長は直ちにその酒場の電話回線をおさえて、全ての会話を盗聴しろ。奴から連絡がきたら逆探知は可能かフューリ−?」
「ある程度、話してくれないと無理ですが何処の交換台を経由したのかは比較的短時間でも大丈夫です。」
「ではすぐに準備にとりかかれ。ブレダ隊は酒場に何人か張り付けろ。できればその勾留されていた男にも協力させたい。どうだ?」
「うまく話を持ってけばいけます。実はそいつ組織の過激さについていけなくなって抜けたがってるらしいんで。」
「では身の安全は保証するから何とか協力させろ。残りの者はハボック隊と一緒に過激派などをあたれ。やっと見つけた手掛かりだ。なんとしても奴の居所をつきとめろ。一以上だ!」
凛とした声に弾かれる様に男達は立ち上がって一斉に部屋を出ていき、後に残ったのは金髪の少尉とその上司だけ。
「それで私は何をすればいいのですか、中佐?」
ヘイゼルの瞳が探るように見つめる。誰より信頼している部下を居残らせたのはまだ何かあると判っているからだ。
「ああホークアイ少尉は今から明日の朝まで私の代行として皆の指揮をお願いしたい。それと書類関係の調整を。これから私は執務室に籠る。奴の居場所が分かったと言う以外は報告の必要もないからな。」
「・・・何があったんです?」
訝しげに尋ねる少尉にほらと2枚のメモが手渡される。1枚は2桁の数字がデタラメに羅列したもの、そしてもう1枚には
「ノット・バートン。23日心筋梗塞で死亡。葬儀はイーストシティ、メルフォード街446ーNの教会にて執り行います。弔花御辞退・・何ですかこれは?いわゆる新聞の死亡広告にしか見えませんが。」
「ヒューズが寄越した宿題さ。数字の方はヨハン・フォークスからの手紙、死亡通知はキンブリ−からの返事でどちらも錬金術師特有の暗号化されたものだ。今日の夕食時にキンブリ−に届けられ返事は明日のセントラル・タイムズに掲載される予定だ。」
「しかしそれでは情報が相手に渡るのを見過ごす事になります。内容は判らなくとも危険な事になりませんか?」
確かに内容は十中八九今度のテロに関する情報だろう。それが相手に渡るのは武器を渡すのに等しいだが
「かといって掲載しなければ連絡を抑えられたのが相手にばれる。その結果計画を早めるなんて事にもなりかねん。だから暗号を解いて尚かつ相手に渡っても害が無いように手を加えて掲載するんだ。新聞社の印刷所はヒューズが押さえた、と言っても明日の午前3時までだがな。そういうわけで少尉私はこいつを解読しなければならない。できなければこれはそのまま新聞に掲載される。」
面白そうに笑う上司とは反対に大部屋の時計を見て有能な副官は内心青くなった。時計の針は8時を示しておりタイムリミットまでには後5時間しかない。
しかし彼女はロイ・マスタングを良く知っていた、というより信頼している。こういう瞳する時の彼は決して裏切らないと。
「わかりました現場の指揮はお任せ下さい。執務室には誰も近付けさせません。それから夜食とコーヒーをお持ちします。」
「夜食はいいよ、その方が集中できる。コーヒーはポットごと持ってきてくれ。・・・長い夜になりそうだ。」

軍部のみんながわいわいやってるのが好きです。マスタング組は少数精鋭のチームですよね。知識、技術、知力に行動力。某24みたいにかっこいいチームプレイを目指してはいるのです・・が

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