「・・案外早く辿り着きましたね、ロイ・マスタング中佐。こんな夜更けに何の用です?」
「君がしようとしてる事を止めに来た。話をしたいんだ、中にいれてはもらえないかね、ヨハン」
「話をするのにそんなごつい護衛をつれて?ここから貴男達の様子は良く見えるんですよ。この調子だと家も包囲されてるでしょう?」
マイクから流れる声には僅かに焦りが感じられる。ここで彼がヤケを起こしたら全ては終わりだ。それなのに黒髪の中佐はのんびりとこんな事を宣う。
「見えてるなら話は早い。これは犬だ。」
「は?」
「人間の形をしているが実は犬なんだよ、もちろん合成獣とも違うんだが。主人である私の後をいつもついて来るんだ、寂しがりやでね。ああ躾はちゃんとしてるから君に飛び掛かったりはしないよ。飼い主の私に免じてこいつも中にいれてはもらえないか?」
状況を解ってるのかこの人は!ハボックは心の中で思いきり叫んだ。なんでこんなシリアスな時に犬呼ばわりされんだよー恨みがましい視線を向けても相手は勝ち誇った様に笑みを浮かべるばかり。そしてしばしの沈黙の後呆れ返った声が返る。
「・・・解りました特別に犬の同行を認めますよ。ただしちゃんと武装解除してね。ああ貴男も御自慢の発火布は外して下さい。それが確認できたら迎えを寄越します。」
どこから見てるのかはっきりしないが2人は大人しくその要求に従い、各々の武器を外す。ハボックは銃のホルスターとナイフをロイは白い発火布を地面に置いた時、屋敷の扉が開かれ白い人影が現れた。
意外なことにそれは小柄な金髪の−8歳位の少女だった。多分この家の1人娘に違い無い。夜目にも白い模様入りのワンピースを着た少女は扉から門まで続く赤い煉瓦で鋪装された小道の上を何かを捜すように下を見ながら恐る恐る歩いて来る。その泣き出しそうな表情と真直ぐで無い歩みに2人は迎えの意味を悟る。彼女は練成陣が隠れた道の上を誘導するために寄越されたのだ。
「あの野郎なんて事させるんだ!あんな子供に」
怒りの声を上げるハボックに
「それだけじゃない。よく見ろハボック彼女の胸の所を」
冷静な声がより悲惨な事実を知らしめる。
小さな胸には白い布がどういう手段かピッタリ貼り付いていた。布に赤で描かれているのは彼等にはお馴染みの紋様、忌わしい紅蓮の練成陣。
「あの野郎・・」ギリッと奥歯を噛み締めるハボックに唐突にロイは問う。
「ハボック准尉、私を信用するか?どんな状況でも私が大丈夫と言えばそれを信じるかね?」
「?、アイ・サ−俺はマスタング中佐を信頼してますよ。アンタが平気っていうなら火の中でも飛び込みます。だから中佐もできれば俺を信用して下さい。あんたからみりゃ頼りになンない若造でも俺はアンタを守りたいし、助けたいんスよ。それだけは憶えておいて下さい。」
「肝に命じておくよ。・・ああ彼女がきた」
ようやく門についた少女にロイは跪いて安心させるように微笑みながら挨拶をする。
「こんばんわ、かわいいお嬢さん。私はロイ・マスタング中佐だ。よければ君の名前を教えてくれるかい。」
「・・セーラ、セ−ラ・メイヤー。私と一緒に来て、マスタングさん。彼が中で待ってる。」
震える手が軍服の裾を掴み泣き出しそうなのを我慢して少女は自分の役目を必死でこなそうとする。大きく見開いた瞳が深い緑である事にハボックはその時気がついた。
「お父さんとお母さんは中にいるのかい?」
小さな頭が前に振られる。
「これと同じものをつけられているのか」
胸元の布を指して問うロイにもう一度同じ動作をくり返す少女の目には恐怖の色が映る。
「勝手にとろうとするとボンッてなっちゃうの。」
よし、じゃあ行こうか。そう言ってロイは彼女を抱き上げた。
「ダメ!あぶない。私の近くにいちゃいけないの!」
「中佐!」
胸にある紋様の意味を知る少女は降りようともがくが、それをなだめるように軍部一のドン・ファンはとっときの笑顔を浮かべ、こう言った。
「大丈夫、彼は私に会いたいんだ。会うまでは何もしないよ。君は強い子だね、こんな目に遇っても泣くのを我慢できる。約束しようセーラ、恐い事も嫌な事ももうすぐ終わる。」
「ほんとうに?」
力強く頷く黒い瞳に励まされたのかに小さな手が地面を指差し屋敷までの道を指し示した。
「煉瓦の上にチョークで小さな印があるでしょう?そこは踏んじゃダメなの。だけど芝生を歩くのもダメ。どこにアレがあるか判らないから。・・お願いだからパパとママを助けて、マスタングさん」
「ロイと呼んでいいよ、セーラ。必ずパパとママは助けるからね。行くぞハボック。」
「アイ・サ−。お願いだから俺に先行させて頂けませんか、中佐。」
我慢できずに懇願する護衛の必死の頼みも
「だめだよ、犬は主人の後をついて来るものだろう?」
軽くいなしてロイと少女は白い屋敷に向かい、すっかり犬扱いが定着した部下はその後を追った。

「ようこそ、ロイ・マスタング中佐。貴男がここに来てくれて僕はとても嬉しいです。」
芝居がかった声ががらんどうの部屋に木霊する。少女が導いた先はこの家の3階、天井の高いだだっ広いスペースに東向きの大きな窓が開いた空間だった。かつてはビリヤード台などが置かれた娯楽室だったが、持ち主が真面目な男に変わってからはほとんど物置きと化して古い家具が置かれてるだけだ。その一つ古いが大きい革製のソファに陣取った男の背後には大きな−横2mぐらいのイーストシティ全体の地図が貼られている。
「お招きをありがとう。しかしどうせなら招待状でも送ってくれれば良かった。そうすればこっちの手間も省けたし。ああ案内ありがとうセ−ラ。」
にこやかに言って抱き上げてた少女を降ろし、ロイは部屋の主と向き合った。ヨハン・フォークスはこの間会った時と同じ灰色の上着に白いシャツでただ手には黒い手袋は無かった。歓迎の意を表すように両手の練成陣を見せながら口を開きかける男をロイの言葉が遮る。
「旧交を暖める前に一つ提案がある。この家の住人を解放してはくれないか。御覧のとうり私達は武器を持って無いし、部下は待機させてある。もう人質の必要はないだろう、ヨハン。」
「さあどうしましょう。丸腰とはいえ軍人2人と僕じゃハンデが必要だと思いますがね。そう貴男も錬金術師ならその法則に従って交渉すべきじゃないですか。」
声にはこの場を支配したという自信と獲物をいたぶる様な酷薄さがあった。この男はそのために部下の付き添いを許可したのだろう。
哀れな犬を玩具にするために。そして聡い犬は自分の役割を忠実に果たす。
「あーマスタング中佐、よろしければ自分が彼女の身替わりになります。なんて言いましたっけ、等価交換の法則ってやつスね。」
「さすがは軍の飼い犬だ!よく躾ができてる。じゃあ代わりに彼女の胸の練成陣を身に着けてもらいましょう。ああその防弾チョッキは脱いで裸になって、ちゃんと心臓の上に着けて下さい。」
「・・言うとうりにし給え、ハボック准尉。」
勝ち誇った声を無視して冷静な上官の命令は下された。

やっと直接対決の場面となりましたが、何故かいたぶられるハボ。
ストリップさせるのは決して書き手の趣味ではない・・かな(視線そらしてます)

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