防弾チョッキを外し、黒いTシャツを脱ぐと鍛え抜かれた褐色の体があらわれる。ところどころに小さな傷跡が見えるがそれもその肉体を飾るための紋様の様だ。
「結構!これでなんの武器も隠し持って無いって証明できました。それにしても忠実な犬ですね。」
うるさいよ。背中に投げ付けられる嘲笑を無視して、脅えた様に立ちすくむ少女を安心させるように垂れ目の顔でへらりと笑うと、その緊張感の無さにつられてか彼女も微かに微笑んだ。そのまま膝をついて胸の練成陣に手をかける。もし今背後の男が気紛れを起こしたら、もし本当に外そうとしたら爆発するようになっていたら−2人はお終いだ。
震えそうになる手を宥めてちらりと視線を斜め上に流せば、静かな光を宿した黒い瞳がじっとこちらを見ているのに気付く。
大丈夫だよ、声にならない言葉が届く。大丈夫、私はここにいる。私を信じると言ったろう?
黒曜石と見まがう黒い瞳は表情よりも雄弁にその気持ちをハボックに伝え、それに答えるように彼は胸の練成陣を一気に剥ぎ取った。
ほっ。緊張の糸が途切れたかのように少女が小さく息を吐く音が辺りに小さく響く。
剥ぎ取った布を胸に−心臓の上にのせればどう言う仕組みかそれはぺたりと褐色の肌に貼り付いた。
「これでもう大丈夫、だから君はこの家から出ていくんだ。心配しなくてもパパとママも必ず後から行くからお向かいのお家にお行き。そこに行けば綺麗なお姉さんがちゃんと面倒みてくれるから。」
戸惑う少女の肩に手をかけて、ゆっくりと言い聞かせるとこっくりと小さな頭が頷き、そのまま周り右をして下に降りる階段が口を開けている所に向かう。2、3段降りたところで振り返る幼い顔に手を振って別れを告げればごめんなさい、ありがとうと微かな声が見送るハボックとロイの耳に届き、小さな姿は2人の視界から消えた。

「さて、余計な者は居なくなった。本題に入りましょうか、マスタング中佐。・・これがなんだか判りますか?」
ほっておかれたのが気に食わないのか、いささか苛ついた声が2人の注意を灰色の男に向けさせる。注目を浴びた俳優のように大袈裟な身ぶりで背後の壁に男が手をつくと赤い光が壁から生まれ、それは壁の表面を縦横に駆け巡ったかと思うと地図の上に複雑な模様を描き出し、光が消えた後も焼き付けた様に赤黒い紋様として壁に残った。地図を囲む二重の円の中には左右に月と太陽のシンボルが描かれ、その間に幾つかの小さな円がランダムに散らばっている。よくよく見れば小さな円の中にもそれぞれ月と太陽が描かれ、それが置かれた下にあるのは−
「東方司令部と憲兵本部と駅など・・見事な練成陣だヨハン、イーストシティ全体を網羅しているのかねこれは。」
「もちろんそうです。この陣の中なら何処でもここから術が発動できますよ。受け皿になる練成陣を何処に仕掛けたか判りますか?」
挑むような声を無視してロイは練成陣が焼きつけられた地図を凝視する。壁に貼られてるのは確かにイーストシティの地図だが、会議などで使うものと何処か違った。通りのライン、建物の位置は変らないのに何故かそこに存在しないはずの線が幾つもひかれそれは網の目のようにシティ全体を被っている。
「・・これは地下の下水道を表した地図だな、そうか地下水路を利用したのか。」
イーストシティの地下には古くから水路が造られていた。それらは時代にごとに延長され続け、今では血管のように複雑にシティを被い尽くし、水道局や軍でさえ完全に把握してるとは言い難かった。壁に貼られているのもおそらく最近のものには違い無い。
「そのとおり!この街の下には迷路のような水路があり、それは地上の建物に関係なく何処にでもある。東方司令部の地下にも、駅の下にも。おかげで誰にも邪魔されずに設置できましたよ、練成陣付きの箱に入った僕特製の爆弾を。たった一個で地上の建物を吹き飛ばす威力があるんだ!それがイーストシティ中の地下にばらまかれて、この練成陣を発動されるのを待っている。ここは特等席ですよ、マスタング中佐、いながらにしてイーストシティが焔に包まれるのを見物できるんだから!」
狂気に彩られた破壊の宣告を聞くハボックのむき出しの背筋に冷たい汗が流れ、ひやりとした感触に思わず首を竦めながら彼は男が指差す方向を見た。細い指が示す先には大きな窓がありそこからイーストシティの中心部の微かな明かりが見える。夜明けが近いのか東の空は白みかけてるが街はまだ闇に沈み、その中で人々は安らかな眠りを貪っているはずだ。やがて全てが焔と破壊に包まれるとも知らずに。
ちくしょう、絶体絶命ってやつじゃんかこれは。今俺があいつに飛び掛かろうとしたらあいつは即座に俺の心臓を吹き飛ばすだろう。ここからじゃ距離が有り過ぎる。もっと近付いて、油断させて、そうすればなんとかなるかも。ああ、それにしても何で中佐は平然としてられるんだ?

「・・・それで君の望みはなんだ?」
興奮に上ずった声を鎮めるように静かな声でロイは奇妙な質問をした。
「?、どういうことです?」
「ずっと考えていた、君がこんな事する理由は何か。自分を顧みない社会への復讐か、単に私が憎いのか、あるいはあの男のように焔と破壊が好きなだけか。この練成陣を発動させれば確かにイーストシティは破壊され、混乱に乗じて騒ぎを拡大する者も出るだろう。だがそれで君は何を得る?錬金術師としての満足感か?破壊による快感か?」
「・・そんなものただのそえものに過ぎない。僕の望みはこの国がもう一度内乱状態になること。そしてそれが続く事。そうすればキンブリ−少佐は牢屋から合法的に出て来られる、軍の人間兵器として。」
「あいつがそういって君を唆したのか?そのために連絡をとって術を教えたのか?」
「いいえ、連絡をとったのは僕からですよ。貴男が東方に赴任してきて以来、街に焔の錬金術師の名が溢れるのが面白く無かったから、牢獄の師に訴えてみたんです。そうしたら新たな術とその活用方法を教えてくれた。でも監獄から出たいとは言ってない、ただあそこは退屈だ、爆薬も閃光も無いと嘆いていた。だから僕は彼を彼の望む世界に、思う様紅蓮の焔が操れる戦場に戻してあげようと思ったんです。この国が再び内乱状態になれば軍は必ず彼を必要とするはず、だってそうでしょうマスタング中佐?そのために彼は銃殺もされず牢獄で生かされている。何故なら戦場なら彼は無敵だから。軍は喜んで彼を迎えるでしょう。そうして僕はまた彼の傍らに立つ事ができる、今度こそ本当の弟子として学ぶ事もできるはずだ!」
「狂ってやがる・・。」
ハボックはうなった。握りしめた手が汗ばみ、裸の背中に再び冷たい汗が流れる。傍らの上官がそれを聞き付けて訂正をした。
「彼にとってはそれが正しい望みで、正統な理由だよ。ハボック。何処までが狂気で何処からが正しいなんて線引きは人によって違うものさ。」
「そのとうりです、マスタング中佐!今まで誰も僕を顧みなかった、おかげで僕は自分が生きているっていう実感も持てなかった。でもあの戦場で彼の傍らで破壊と殺戮を担っていた時初めて生きているという事を実感できたんだ!それを再び望む事の何処が狂気なんです?それにもうすぐ望みは叶うんだ!」
灰色の瞳に宿る歪んだ光が輝きを増す。
「あの練成陣がちゃんと発動すれば・・ね。」
黒い瞳をわずかにゆがめてロイはハボックに向かって呟いた。微笑んだらしい。ハボックの垂れ目の眉の片方が上がる。
「おや、聞き捨てならないですね?これは彼が練った最高の練成陣だ、完璧なんだ!すぐに成果を見せてあげますよ!本当は貴男もその中で死んでもらう予定だったがこうしてここに来てくれたんだし、気が変った。貴男は生かしておいて上げますよ、彼の退屈しのぎのお相手としてね。なにしろ彼は退屈が嫌いだ。だからイシュヴァ−ルの時も彼が興味を持っていた貴男を差し出したんだ、あの2人の術師を唆してね。」
「やかましい!いい加減な事いうな!」
金色の獣が怒りに身を震わせて叫んだ。

これを書いている最中にガ○ガ○6月号読みました。色々ショックだったけど一番の衝撃はキンブリ−氏があんな美形だったことかも知れない。こ汚いおっさんという印象はどこへやら。おかげでびみょーに影響受けた気がする。

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