Desert Rose

I dream of rain
I dream of garden in the desert sand
I wake in pain
I dream of love as time runs through my hand.                   by STING

昨日の夜は故郷の夢を見た。多分補給物資が到着してついでに手紙も配達されたからだろう。母親からの手紙は家族の様子、父親の容態、飼っている猫の健康とあらゆることが書いてあった。他に何を書いていいかわからなかったのだろう。遠く離れた戦場で人殺しをしている息子に一体どんな言葉をかけたらいいのか−その戸惑いだけが行間から感じられた。最後に俺の健康を祈り、愛してるわ、ジャンとあった。ため息つきつつ手紙を仕舞おうとすると、白黒の写真が一枚入っていた。姉御自慢の薔薇が満開、両親と姉、甥っ子達がこちらを向いて笑っていた。なんとなく後ろめたそうな笑顔に見えたのは俺の気のせいか。くわえた煙草に火をつけて肺に煙りを送り込む。
俺はもうその薔薇が何色だったか思い出せない。

一発の銃声から引き起こされた、イシュヴァール内乱は俺が従軍した時すでに7年も経過していた。戦局は一進一退し、膠着状態になりかかっていて戦場にはいいようのない倦怠感が広がりつつあった。

「よう坊主!愛しい彼女からの手紙かい?」
「イタッ!からかわんでくださいよ!マイヤー軍曹。そんないいものじゃなくておふくろからですよ」
「馬鹿野郎、母親からの手紙よりいいもんはこの世にないんぞ!」
もう一回俺の背中をはでにどついて赤毛の軍曹は隣に座った。俺と同じヘビースモーカーの彼は俺より10才ぐらい年上で部下の面倒見がよく信頼も篤い。補給部隊の生き残りで本隊に戻れず、この基地に残された俺の世話もなにくれと焼いてくれる。
「そういう軍曹は愛しの奥さんからの定期便でしょー」
「そーなんだよ。息子がもうはいはいを始めたって書いてあってなー」
「へー早いっスねー。この間生まれたばかりて聞いたのに」
「俺の息子だからなー優秀なんだよ。」
煙草の煙りと共に親ばかのセリフ吐き出される。急になごやかな空気が生まれ、一瞬ここが何処だか解らなくなる。
周囲を見回せば変わりないテントがモノクロームの世界に並んでいた。

「・・・聞いたか昨日の補給部隊と一緒にきた士官の話?」
「は?何ですかソレ」
「こら人の話はちゃんと聞けよ。ジャン・ハボック伍長」
「や、聞いてますよー何スか、新しい指揮官でもきたんスか」
「阿呆あの能無し少佐が昇進じゃなきゃ、他人に自分の椅子渡すわけねーだろ。しかももう半年以上ここから先へ進軍できてないんだぜ」
「そーですねーじゃそれに業を煮やした偉いサン達が俺らのケツ叩きにきたとか」
「ちげーよ。いいかこれはここだけの話だぞ。」
と軍曹はわざとらしく声を潜めた。つられて俺も頭を近付ける。
「やって来た士官ていうのはーどうも国家錬金術師らしい」
「錬金術師?道具使わないで家とかなおしちゃうアレ?」
「そーじゃない!!俺もよく知らんが何でもたった一人で一個師団に匹敵する力を持つて言われてる奴らだ。前線じゃこう呼ばれているらしい。」
『人間兵器』
突然低いテノールの声が後ろからした。
「エーリク・マイヤー軍曹。ジャン・ハボック伍長だな。」
「イエッサー!」
条件反射で振り返り、敬礼をする。いつからそこにいたのかそこに一人の青年将校がたっていた。東部では珍しい黒髪に切れ長の黒い瞳。戦場にいるとは思えない白い膚。じっとこちらを見る瞳には冷ややかな光が宿り、一瞬背筋に電流のようなものが流れた気がした。
「私はロイ・マスタング少佐だ。今度の作戦にあたってロイズ少佐が君らを推薦してきた。ただちに作戦用テントに来るように。」
それだけいうとその将校はさっさとテントの方に向かっていった。どういうこと?とお互いの顔に疑問符を張りつけながら、俺と軍曹は後を追う。前を行く人の背筋はぴんとしてさながら軍人の見本みたいで、よけいにこの前線の雰囲気とそぐわないような気がする。おまけに白い手袋−何か紅い模様がある−までして、こいうのは閲兵式かなんかで偉い人たちの横に侍っているものだと思っていた。その「場違い」がここにいる理由それはきっととんでもないもんじゃないだろうか?
首筋がぞくぞくする-こういう時の俺の予感は外れたことがなかった。

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