「サー申し訳ありませんがもう一度言っていただけないでしょうか?」
マイヤー軍曹が信じられないという風に聞きかえす。
「今言ったとうりだ。敵の前線基地-君たちのいう『砦』だな。それを叩く。マイヤー軍曹、ハボック伍長は私をそこへ案内すればいい。」
「砦」それはこの基地から一番近くにあるイシュヴァール人の拠点の一つだ。このあたりは砂漠とういうより岩だらけの荒れ地で容易に進軍できない。彼等はその中の丘のような岩山に基地を造っていてそこからゲリラ戦を仕掛けてくるのだ。地の利を利用した攻撃は神出鬼没でおまけに「砦」の周りは比較的ひらけた地形なのでこちらからの攻撃は気ずかれやすい。大型の火器と圧倒的な物量戦じゃなきゃ攻略は無理だろうと誰もが思っていた。ただ戦略的にそれほど重要でないポイントにそれだけの支援を送れる余裕は今のアメリストス軍にはなかった。
俺達にできるのは奴らがこれ以上侵攻してこないようにするだけ。それをたった3人で攻略する?いや俺達は道案内だからこの少佐が一人でー
「そんな顔をするな。伍長。私は狂人じゃないしこれは司令部からだされた正式な作戦だ。君たちは私を砦から一番近い岩山に案内してくれればいい。」
俺の顔よっぽど間抜けに見えたのだろう、少佐は能面のような表情を崩して苦笑を浮かべながら言った。
そうするとなんだか少し幼い感じするな、一体何歳なんだろう同じぐらいにしかみえないよなー脱線しかけた思考を引き戻しながら俺は言った。
「しかしそこに行くまでにゲリラに遭遇する可能性はかなりあります。あのあたりは奴等の庭同然です。」
「だから君達が必要なんだロイズ少佐によればマイヤー軍曹、ハボック伍長がこの隊で一番出撃回数が多いそうじゃないか。軍曹は解るとして伍長、聞くところによると君は補給部隊の生き残りだそうだな。それが何故ここに残っている。ロイズ少佐の推薦が何か含むところがあるのなら正直にいいたまえ。未熟な者を同行する気はない。」
きっぱりと言い放つ言葉は傲慢。
「サー、確かにこいつは若いですがゲリラ戦の腕は確かです!それは一緒に戦った私が保証します。こいつは自分の隊をたった一人で守ったやつです。」
漆黒の瞳がひたりと俺に向けられる。心の中まで見すかされそうな、挑発的な光を含んだ視線だ。考えるより先に言葉がでた。
「イエッサー。喜んで同行いたします!」

夜陰にまぎれて俺達は出発した。目的の岩山までは何もなければ大体三日の行程だ。偵察中の敵兵や山賊くずれなんかにあわなければの話だけれど。なるべく早くしかも騒ぎをおこさずに行きたいと言うマスタング少佐の意向で最低限の休息をとるだけの昼夜兼行の行軍になる。こんなエリート士官が大丈夫なのかと最初は危ぶんだが彼は平気な顔をして俺達のスピードについてくる。
日中荒野の日ざしは容赦ない。砂礫だらけの道とはいえないようなところをマイヤー軍曹、少佐、俺の順番で登って行くと、急に前を行く人が体勢を崩した。
「うわっつ!」
「どうしました!少佐」
バランスを崩した人がよろけてころびそうになるのを慌てて支える。あれ意外と小柄。目の前にたっている時は大きく見えるのに。
「大丈夫ですか。このへん足場が悪いから」
「私は平気だ。そこの岩を掴もうとしたらアレがいたので驚いただけだ。」
指差す先には尾を振り上げて威嚇する黒い蝎。
「あーアレ。大丈夫いらんちょっかいかけなければ何もしません。小さい岩の隙間なんかに迂闊に手をいれないようにして下さい。毒蛇なんかもいるんで。」ころびかけた人のホコリをパタパタと払いながら言うと、その手を払いながらムッとしたように返してくる。
「砂漠地帯での野外訓練も十分経験している。忠告はありがたいがな。」
「失礼しました。サー!」
にっこり笑って敬礼すると一瞬目を丸くしたがすぐに歩き出した。拗ねたような横顔がちらりと見えて「無駄にでかい図体だな」そう呟いたのを確かに聞いた。
・・・なんか子供?会ってからたいしてたってないのに印象がころころ変わる人だ。とらえどころがないてゆーか。などと憮然とした背中を見ながら思い、ああそういえばこんなに他人に興味もったの久しぶりだなと一人で笑った。

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