「今日はここで野営だな。ここはこの岩があるから外から見えにくいが、火の使用は最低限だ。よろしいですか少佐」
「判った。」
「当然煙草は禁止だ。ハボック」
「アイ・サー」
すこし開けたスペースのあるところで俺達は休むことにした。とは言ってもテントもはらない。地べたに毛布。何かあったらすぐに動ける体制だ。
「自分が先に哨戒任務に就きます。」
「いや俺がさきに見張りやるわ。」
とマイヤー軍曹は言って俺を岩場に引っ張り込む。
「あの少佐殿と二人きりってのがどーもーな。わりぃけどお前面倒見てやってくれよ。」
「いいスっけど、珍しいですね」
「誰にでも苦手ってモンはあるんだよ」
苦笑しながらライフル片手に軍曹は岩影を出て行く。後には俺と少佐が残された。
「とりあえず食事にしますか。」
固形燃料でお湯を湧かしコーヒーをいれる。食器もないので缶詰のままの糧食を「どうぞ」スプーンを付けて渡せば文句も言わずに目の前の人は無言でそれを口にする。軍曹が逃げるのも解るなーという居心地の悪い沈黙が落ちた。しかし俺は気にしない。
「コーヒーどうぞ。身体暖まりますよ。敵に気ずかれるとヤバイんで火は焚けません。これで我慢してください。」
そういって毛布を差し出した。砂漠の夜は冷える。昼の気温から想像もつかないけれど、少佐がかすかに震えているのが解った。
「敵はよくこのあたりにくるのか?」
毛布をしっかり身体に巻き付けてぽつりと少佐が問う。
「あいつら神出鬼没だから。何度か俺等も『砦』まで攻撃しかけにいったけれどたいていその前に奴等に見つかってしまうんです。」
「補給部隊が襲われることもよくあるのか。」
「・・・そうですね何回かあります。俺の時は夜でしたが。」
「全滅したのか」
「そういうわけでは・・何人か重傷でしたが生き残りました。もちろん彼等は後方に送り返されました。」
「君は何歳だ。」
唐突に質問が変わる。
「えっ?17ですが。」
「本当ならこんな最前線にいる年じゃないだろう。どうしてそれをロイズ少佐に言ない。」
「お言葉ですが今さら年なんか関係ないスよ。戦場で使える奴と思われたら誰も後ろに下がらしてくれません。」
「お前は『使える奴』なのか?」
黒い瞳が興味深そうに俺を見る。
「ロイズ少佐はそう思ったみたいっスね。その後何回か戦闘に行っても俺は戻ってきたから。」
虚勢ではなく事実を俺は述べた。若い癖に人殺しが上手だ。と言ったのは基地司令のロイズ少佐だったか。生き延びるに必要なのは経験だ。年じゃない。おまけに俺は戦うのに秀でていた。東部の田舎にいたんじゃ一生気付かない才能だろう。
「ここから目的地まではあとどのくらいだ。」
黙ってしまった俺をどう思ったのか少佐はまた話題をかえようと地図を広げる。
「今俺達がいるのがこの岩場です。これからここを下って、この岩山を迂回し、この丘に登れば『砦』は正面に見えますが。今のペースなら正味あと2日ぐらいです。」
「ペースは別に平気だ。もう少し速めてももらいたいくらいだ。」
「はーそう言われるなら軍曹に相談しますが・・ぶわっ」
急に風が吹いて砂埃が舞う、飛ばされそうになった地図を慌てて押さえる。 
「あっぶねー危うく大事な地図飛ばす・・・」
「どうした伍長?」
危険信号?急に首の後ろがゾクゾクして、
俺は辺りを見回す。唐突に首筋に来るこれはもう勘としか言い様のないもので、これに俺は何度も助けられてきた。根拠の無いものじゃない意識にのぼらない何かを俺の五官が感じとっているのだと思う。補給部隊が襲撃された時もそうだ。あとで思えばあれは道の乱れかた-ほんのすこし前に大人数の人間がそこを通過した跡-まだ乾いてない石のひっくり返った痕跡などをぼんやり見てた時にきた。
今度は-何だ。
声をだそうとした少佐に向かって指を口にあてて合図、飲み込みがはやい彼はそうっと毛布をはずし臨戦体制。神経を研ぎすます。風は下の方から吹いてくる、そちらには軍曹がいるはず。
でもこれは-この臭いは!
岩に走りよって下を覗く。暗視スコープの中に確かにチラリと動く影が見えた。イシュヴァール人!さっきのは彼等の着た獣皮のにおいだったのか。
「敵です!後ろの岩影に下がってください。」
囁きながら下に向かってライフルを撃つ。
「ぎゃ!」悲鳴がして、すぐに銃の発射音が響く。
「何人だ!」
応戦しながら隣で少佐が叫ぶ。軍曹はどうしたのか、考えてるヒマは無い。応戦する銃声はそんなに多くない、せいぜい3〜4人か、偵察の連中かにしても少ないと思った時に頬に焼け付くような痛みが走った。
「伍長!」
「少佐!後ろ」
銃を連射しながら反転する。3人の男が頭上からナイフをきらめかせながら襲ってきた。
「少佐!前の方頼んます」
言いながらこちらもコンバットナイフを抜いて彼を背にかばう。打ち込んでくる刃先を受け止め、横から飛び掛かってくる相手をおもいきり蹴りあげる。相手のナイフを押し返しバランスを崩した喉元を切り裂く。生暖かい血がかかるのが感じられたが、そのままもう一人を追い詰めた時、俺の注意は完全に彼からそれていていて、彼のほうは前方に気をとられていた。だから
「そこまでだ。伍長。少佐殿を傷つけたくなかったら武器を捨てな。」
とマスタング少佐の頭に銃を突き付けたマイヤー軍曹の勝ち誇った声が響いた時何もできなかったのだ。

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