「どういうことです!マイヤー軍曹!」
吠える俺を無視してさっきまで味方だった男は
「こいつの手を縛り上げろ。錬金術師は手を封じれば何もできん。」
リーダーの口ぶりで命令する。
「ほぅ・・詳しいな軍曹」
黒い瞳におもしろそうな光を宿しながらつぶやく少佐を後ろの2人が縛り上げる。くたびれてはいるけど青い軍服を着たソレは
「・・・アメストリス人?」「そうだよ。軍曹。俺達はゲリラなんかじゃない。ただの商人さ。売れるモンなら相手がイシュヴァール人でもかまやしねえ。情報でも人でもな。」
煙草に火をつけながら赤毛の男は悪びれずに宣う。
「ふざけるな!こんなことしてばれないわけないだろう」
「そうでもないさ。おまえさえ黙ってりゃいいのさ。俺達は任務に忠実に動いた。しかしイシュヴァール人の部隊に発見され果敢に抗戦するも、頼みの国家錬金術師は役にたたず戦死。俺達は命からがら帰還する。」
「馬鹿にするんじゃねぇ!誰がそんなことするか」
怒りに頭が沸騰しそうだ、本当にこれがあの人の良い軍曹なのか、親ばかで息子自慢の。
「おいおい俺はお前の命を助けたんだぜ。このまま行ってもどうせ俺達は殺されるところっだたのさ。このお綺麗な少佐に。こいつらは狂った人間兵器だ、前線じゃ何度か錬金術師に同行した兵士が帰ってこないことがあったんだ。皆、連中の術の巻き添えになったらしい。こいつらは敵、味方の区別なんかないのさ。」
「嘘だ・・」つぶやきながら俺は少佐の方を向く。少佐は静かに俺を見つめ返す。漆黒の瞳には何の感情も浮かばない、軍曹の言葉を否定も肯定もしてはいない。
「少佐はどうするんだ。」
「このままイシュヴァール人に引き渡す。後は連中の好きにさせるさ。俺達には関係ネェ。お前も俺達の仕事を手伝えば良い目みさしてやるぜ。こんなしょうもない戦争なんかしてるよりよっぽどマシさ。うまく賄賂を使えばこのクソみたいな戦場から逃れることもできるんだ」
言いながら男は銃を手放して放心したようにへたり込む俺に近付きー次の瞬間強烈な足払いを受けてバランスを崩した。
「この野郎!」
砂埃が舞い起こり、他の連中が慌てて銃を向けた時には俺は拾った銃を軍曹の喉元に突き付け、叫んだ。
「少佐から離れて武器を捨てろ!」
「やれやれ・・お前意外に利口じゃないな。軍に忠誠を尽しても何も返ってこないぜ。第一このまま逃げられると思うのか。少佐殿はまだこちらの手の内だ。」
「それはどうかな。」
パチン。小さな音がして縛られていた手をあげて少佐が指をはじく。小さな火花あたりに走りーボンッ!という音とともに左右の人間が火だるまになった!
「うわッなんだこりゃ」
「アチイ!」
叫びながら地面を転げ回る連中をしり目に彼は優雅ともいえる仕種でもう一度指をはじく。ボン!今度は逃げようと走り出したやつらが焔に包まれる。そして3回めで彼の手を縛めていた縄が火の蛇みたいにくねりながら焼け落ちる。
「お前の情報は不完全だよ。軍曹。錬金術師は手を縛られたくらいじゃ大人しくはならない・・今度からは指を全部切り落とすんだな。できるなら。」
「化け物・・」
「ただの兵器さ・・怪我はないか。ハボック伍長」
嫣然と俺に向かって微笑みながら問いかける少佐の気配はさっき見た焔だ。下手なことしたらあっさり燃やされそうな感じに俺の首筋はチリチリする。
「大丈夫です。サー」
声が裏返えなかったのは褒めてほしい。動物なら全身の毛を逆立てていただろう。恐怖ではない、嫌悪でもない。ただ強烈に引き付けられた。あの焔に、それを操る人に。
「立て。軍曹。他に仲間がいるのか。」
「勘弁して下さい!ほんの出来心なんです。」
哀れな声をだして許しを乞う相手を冷ややかに見ながら彼は指を弾く。
「ぎゃあ!」
囚人の右手が火に包まれる。
「次はどこだ脚か、手か。特別に焼き加減も選ばせてやろうか。」
「うっ・・資材係のレイトン曹長と第一班のライト軍曹だ」
「聞いたな伍長。お前はこいつを連行して基地内部の仲間を捕らえろ。」
「少佐はどうされるのです。」
「後は私一人で大丈夫だ。」
「無茶です。この先にも危険なところはあります。」
「さっきのを見たろう。イシュヴァール人に遭遇したって私は平気だ。」
「でも崖崩れなんかにはききませんよ。それにあそこは迷いやすいんですよ・・!」
その時突然少佐の背後に黒い固まりが立ち上がった。それが黒焦げになった人間のなれのはてだと気づく前にソレは彼に飛び掛かってくる。咄嗟にその間に飛び込み黒焦げのソレを押さえ込んだが、標的が変わったのも解らないのかそいつは俺に掴み掛かる。
「放せこの野郎!」
肉の焦げた臭いが鼻を襲ってくるがそんなこと気にしちゃいられない。ぼろぼろの首根っこを押さえて口に銃口を突っ込むパンッッ中までは焼けてなかったのか黒焦げた頭から血と脳漿が飛び散った。このアクシデントを囚人が見のがすはずがない。少佐を突き飛ばして軍曹は走り出す。
「このっ」
俺の銃声と彼が指を弾く音は同時だった。夜の闇に一瞬人の形をした松明が浮かび、ゆっくりとそれは倒れた。ほんの一瞬会ったことのない子供と母親の顔が頭に浮かんだが、すぐに消えた。さっきの焔みたいに。          

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