「いきましょう。マスタング少佐。こんな騒ぎを起こしていたら敵が気がつきます。俺は後始末をしますから、少佐は装備をお願いします。」
そう言って俺は後始末を始めた。まだ燻っている固まりに銃弾を打ち込み死体を岩の隙間に重ねる。手伝おうとする彼を「これは俺の仕事です。」といって止める。俺の顔つきに何を感じとったか少佐は荷物を纏めるのに専念していた。
そうして俺達はそこを離れた。

「もーちょい少佐手のばして。足場はしっかり確保して。」
「わかってる!そっちこそちゃんとホールドしろよ!」
一夜明けた午後俺達は目的地の岩山に辿り着いた。これはもう登山と言うくらいのもので、てっぺんは狭いながら平らな場所がある。そこに立てば『砦』は目の前だ。あれからお互いにほとんど無駄口をたたくこともなく黙々と歩き続けた。少佐はなんだか俺を気づかっているようで、時々こちらを伺うように見る。あの時-淡々と後始末をする俺を見つめたのと同じ視線。哀れんでるのか、嫌悪しているのか。昨日までの戦友を射殺して俺が傷付いていると思っているのか。いらん心配ですよ。少佐殿。これくらいで傷付いていたら戦場でやってけません。俺は心配されるほどヤワじゃないんです。アンタもこんなこと気にしてたら生き残れませんよ。心の中のつぶやきはモノクロの風景にとけた。

「マイヤー軍曹のこと帰還したら、報告しますよね。」
「そうだなお前まさかかばうのか」
頂上に登るのは深夜にーそのほうが少佐の作戦にはいいらしい。ーということで俺達はそのすぐ下で夜更けを待つ。狭い岩場に肩を寄せあってしばしの休息をとりながら問いかけると、驚いた様に少佐は答えた。
「や、そうじゃないんスけど・・罪人になったら軍人恩給とか家族にはでませんよね。」
「お前も変わった奴だな。あんな修羅場をくぐって平気な顔してると思えば、遺族のことを気にするのか。」
「あいつのやったことは許せません。けど待っている人がいるからあんなことしたのかなって考えるとね。少佐だって待っている人いるでしょう?」
「待ってる人か・・私には家族はいない。待ってるとしたらヒューズぐらいなものだ。」
「友達っスか。」
「親友といえるかな。でも錬金術師として召集されたの黙ってきたから、今頃怒ってるだろな」
懐かしげに答える顔は優しい目をしていてこんな顔するのかとちょと見とれた。
お前にだって待っている人がいるだろう。」
急に悪戯っぽい笑みを浮かべて彼は続けた。
「お前の御両親、姉上達に甥、ついでにとらじまの大きい猫」
「・・・は?なんで俺の家族のこと知ってんですか。」
俺の経歴見たのかな、でも身上書には猫のことまで書いていてないよな。
「ふふん。国家錬金術師に解らないことなどないさ」
「マジですか・・」
呆然として彼を見つめる顔がよほどまぬけづらに見えるのか、クスクス笑いながら彼は手品の種明かしをする。
「ほら、これお前のだろう。基地で拾ったんだ。」
と故郷から送られてきたあの写真をポケットから取り出す。
「なんだー吃驚した。俺はまた魔法でも使ったのかと。でもよく俺のだって解りましたね。」
「見ればわかるさ。どことなく似ている。なかなか美人の姉上だ。これはお前の家の庭か。よく手入れされているな。この薔薇。」
「姉の自慢の薔薇ですよ。とても大切にしている。」
「そうか。残念だがこの写真じゃ何色かは解らないな。赤か?」
色ー子供の頃から見ていたその薔薇の色が今はまるで思い出せない。薔薇の色だけじゃない心に思い浮かべる故郷の風景もいつも写真と同じモノクロームだ。いつからそうなったかもわからないが。今では目に映るこの世界までもが色を失っている。
「ハボック伍長?」
少佐が黙り込んだ俺を覗き込む。黒い瞳が近くに見える。黒いけれど深い、黒曜石みたいな。「いや、その何色かな」
ちょっと引きぎみになりながら慌てて答える。
「忘れちゃったというか、何と言うか・・」
ごまかそうとするのを彼は無言で止めた。ちゃんと話せ、そう言っているみたいだ。
「なんかね・・こんな荒涼とした砂漠に長いこといると色なんか忘れちゃうみたいで。ほら緑とか全然ないし。砂色以外に見る色と言えば軍服の青とか後は血の赤とか・・そんなの見たくないって思っちゃうんですよねーきっとおかげで夢の中までモノクロで・・」
あやふやな返答に何を思ったか
「その写真かしてごらん。」
そういって少佐は写真を地面に置いた。そしてその周りにぐるりと円を書きそしていくつかの記号のような物を書き足す。そっと円の上に両手を
つき、淡い光が円の中一瞬を包んだ

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