Dear, Santa

Dear, Santa Claus. I have been a good child this year, so・・

親愛なるサンタクロース様、今年はずっと良い子だったよ。だからプレゼントはね・・
1年が終わろうとするこの月に世界中の子供達はこのいっせいに同じ人物に手紙を書く。たどたどしくでも一生懸命に書かれたそれは大抵目的の人物の代わりに両親が開封してしまうのだけれど子供達気付かずまた白い季節に手紙を書く。無邪気な夢と希望が溢れているそれにもちろん罪は全くないのだがある少女の書いた手紙が1人の男を苦悩のどん底に突き落としてしまう事も─たまにある。

それは大佐と過ごした最初の冬のお話。

「ああ、どうしよう、ジェイ・・」
ふかーいため息と共にこの言葉が大佐の口からでるのはもう何回目だろう。そのたんびに
くーん。ねぇ元気だしてよ、大佐。俺が付いているからさぁ。
って頬を舐めても黒い瞳はまるで晴れない。ただ悲しそうに笑って俺の首に抱き着くだけだ。
わーう。俺にできる事なら何でもするよ。前に買って来たあの赤い帽子被って散歩行ってもいいから。
「ああお前はホントに良い子だ。大好きだよ。絶対他所になんかやりたくないんだ」
わん!俺だって大佐の事大好きだよ!・・ってねぇちょっとそれどういう意味?
予想もしなかった言葉に青い瞳が真ん丸になる。そこに
「いきなり何言い出すんスか、大佐。相棒が驚いてるでしょーが」
トレーにおやつのセットを乗せてあいつが居間にやってくる。この季節にしか作らないシュトレーンの白い砂糖がかかった姿にも反応しない大佐に熱い紅茶を差し出して
「盛り上がってる所恐縮ですがね、大佐。それって考え過ぎじゃないですか。手紙にはただ会いたいって書いてあるだけなんですから」
騒ぎの元になったピンクの封筒を手に取る。それはつい数日前家に届いたもので金髪の恋人は差出人の名前をエリシア・ヒューズと声を出さずに読んだ。

「しんあいなるサンタさん。ことしエリシアはいいこでした。ママのアップルパイをつくるおてつだいもしたしかぜひいたときもおくすりちゃんとのみました。それからはじめてひとりでおつかいいきました。ちょっとこわかったけどちゃんとたまごかえました。えーとだからサンタさんおねがいです。こうえんであったあのきんいろのおおきいあおいめのワンちゃんにどうかもういっかいあわせてください・・ってそもそも本当にこれ相棒の事なんですか?」
ことの起こりは数日前セントラルから届いた1通の手紙だ。差出人はロイの親友マ−ス・ヒューズの愛娘エリシア・ヒューズ。もっとも彼女はこの手紙を読んでいるのがパパの友達ロイおじさんだとは思っていない。手紙は遠い北の国に居るはずのサンタ・クロースに宛てて書かれたものだから。それが何故この家に配達されたかというと
「サンタへの手紙はヒューズの奴が毎年彼女に書かせてたんだ。サンタ・クロースは必ず良い子のお願いを聞いてくれるからと」
「あーあの人ならやりそうですね」
「子供に夢を見させるのが大人の義務だと毎年意気込んでな。あいつの基準ではサンタは少なくとも10歳まで妖精は8歳までその存在を信じさせるのが父親の役目なんだそうだ」
「・・・でそれを実行してたんですかヒューズ中佐は」
「もちろんだ。ある年なんか雪が降るのが見たいと書いてあってな。しかしセントラルの天気は晴れ続きで雪がふる気配すらない。であいつは軍の気象情報を徹底的に分析してここなら降ると確信した所にイブの夜彼女が眠ったのを見計らってグレイシアと共に車に飛び乗ったんだ」
目指すは山あいのコテージ。1晩中運転し続けて夜明け前にそこに到着した時天も父親の執念に感心したのか空から白いものが落ちてくる所だった。そうして目覚めた娘に父親は驚いた振りをしながらこう言った。
「サンタさんがここまで連れて来てくれたんだよ」と。
「大したもんですね、父親ってものは」
軍随一の親バカの名は伊達でなかったのだとハボックは今更ながら感心しそうしてその不在をあらためて思い出した。かのスクェアグラスの軍人が非業の死を迎えて今年は2度目の冬だという事を。
「あいつが死んでからその役は私が引き受けるとグレイシアには申し出たんだがな。その年は結局彼女は手紙をこちらに寄越さなかった。多分書かれたお願いは誰にも叶えられないものだったんだ」
最愛の父を失った少女が願う事はたった1つ。それを思ってロイはぎゅうと犬を抱き締めれば金色の大型犬は暴れもせずただ手を舐める。対抗するように人型の犬もそっとその背中に身を寄せて
「・・・そうっスか。事情は判りましたけどね。エリシア嬢が会いたがってる大きな犬が相棒だってのは本当なんスか?なぁ相棒」
わざと陽気に問えば同じ蒼い眼がフンと鼻を鳴らす。それを宥めるようにロイは金の頭を撫でてハボックに嘘のようなその偶然を話し始めると犬の瞳もその出来事を思い出したのか遠くを見るように細められた。

「ほら1ヶ月前、我々が北部に出張した時だよ。留守を預かるホークアイ中尉は多忙でとても2匹の犬の面倒は見れないだろうからジェイはフューリ−に預かってもらったろう?」
くー。そういやそんな事あったっけ。
「で非番だった彼は公園にジェイを散歩に連れ出した。あそこは犬を放してもいい所だからリードを解いて自由にさせた」
そーだった。好きに走って良いよってあの眼鏡の曹長がそう言ったから俺は走り回って・・したらリスがいたんだよな。つい追いかけて林の向こうに行ったら小さな女の子が居たんだ。
何処かで見たような大きな目。それが涙に潤んでこっちを見た。小さい子は俺の姿に時々怯えるからそれ以上近づかないようにしてるとポロリと涙がこぼれて
「パパが買ってくれた帽子・・」
と小さな指が前を指す。そこには夕べ降った雨が作ったかなり大きい水たまりができていてその真ん中に小さなピンクの帽子が半分沈みかけている。
「風でぴゅーって飛んじゃったの。ママどっかに行っちゃたしこのままじゃ帽子汚れちゃう・・」
水たまりは黒く大きい。もちろんこんな小さな子には手が届かないし入れば足の半分は濡れてしまうだろう。空気は冷たいし曹長を呼んで来ようかと思ったところで小さな足が決心したのか前に進み出す。
わん!ちょ、ちょっと待てよ!こんな小さいのに危ないって!
慌てて前に飛び出せば怯えたのかそこで足は止まる。でもどうしても諦められないのか小さな瞳を真ん丸に見開いてじっとこっちを見つめてくる。溢れた涙がぽろぽろと頬を伝ったところで
えーい、しょうがない!
根負けした俺はじゃばじゃばと泥水の中に飛び込んだ。そっとリボンを傷つけないように帽子をくわえて水からあがれば小さな身体が思いきり抱き着いてきて言った。
「ありがとう!ワンちゃん」

「迷子になったエリシアをようやくグレイシアが見つけた時そばにまだその犬は居たんだ。で青い首輪に付いていたメダルに気が付いた」
帽子拾ってくれてありがとう。そう言って俺の頭を優しく撫でてくれた人は首に下げた金のメダルに目を見張った。
まぁ、貴方の飼い主は・・そう言いかけた時向こうでフューリ−曹長が俺を呼ぶから。俺はどーいたしましてって言ってその場を離れたんだけれど。
「まさかそれがグレイシアさんだったとは大した偶然だ。ってかなんでイーストシティに来ていたんです?」
「学生時代の友人がこちらに住んでいるらしい。その招待を受けての訪問だったそうだ。エリシア嬢にも良い気晴らしになると思ったんだろう」
「でその時の犬に会いたいと彼女が手紙に書いた訳ですか。マスタングサンタとしては確かに叶えられる願いですね」
それがどうしてそんなに悩む事なのかとお気楽に問うハボックをロイはキッと睨んで
「会うだけじゃなく、ずっと一緒に居たいってエリシアが言ったらどうするんだ、ハボ。サンタとしては叶えない訳にはいかないじゃないか」
そう答えれば垂れた青い瞳が大きく見開かれる。思ってみなかった事だがそれは確かに小さい子なら言い出しそうな事で
「考えてもみろ、小さな子供がこんなに可愛い犬を欲しがらない訳がない・・」
呟く声に今度こそハボックも何も言えなかった。

次の日ロイは日勤でハボックは夜勤だった。だからハボックは朝からマスタング邸の掃除に洗濯にと忙しく働いた。一通り片付けてさて夕食の支度の前の一服とばかりにソファに座ったところでふいに足を引っ張る感触に下を見ればのんびり昼寝してたはずの金色の大型犬がもの問いたげな顔で見上げている。
くー。あのさぁ昨日の話本当?けどなんで大佐があの女の子の言う事聞かなきゃならないの。
「エリシア嬢はそれだけ大佐にとって大事な存在なんだよ、相棒」
取り出した煙草をポケットに戻してハボックは安心しろとばかりに相手の黒い鼻を撫でた。
ハボックにとってこの大型犬はただの犬ではない。不思議な縁で自分を助けてくれた大事な相棒だ。だからいつも人間と同じように話しかけるし、なんとなくだが相手の気持ちも判るような気がする。ロイに言わせると犬同士だから当たり前らしいがそれだけこの犬の瞳は雄弁だ。今も昨晩の御主人様の言葉に不安を感じてるのが判るから安心させるようにゆっくりと語りかける。
「エリシアちゃんっていうのはヒューズ中佐・・お前は知らないだろうが大佐の親友だった人で彼女はその人の愛娘なんだよ」
わぅ?え?俺その人多分知ってる・・
「2人はずっと昔から友達だった。判るか?大佐にとってヒューズ中佐はとても大事な人だった。でもその人はもうこの世にいない」
くー。けどその人これまで何回も会った事あるよ。ただなんでか知らないけど俺以外には見えないんだけどさ。『このよにいない』ってそういう事なのかな。
「もしかしてお前大佐にヒューズ中佐の事聞いた事ある?そういう訳でエリシア嬢は大佐にとっても大事な存在なんだ。だからヒューズ中佐の代わりに守ってやらなければならないとあの人は思っている・・」
亡き親友が誰より愛した天使。ロイにとってはただ親友の忘れ形見というだけでなくそれ以上に大切な存在なのだとハボックは当のヒューズから聞いて知っていた。
それはいつもの家族自慢攻撃に1人付き合わされたある冬の午後の事。

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