国境の南


最初の出合いはまったくの偶然。再会も偶然。でももし三度目の出合いがあればーそれは運命だとあのひとは言った。

薄暗い部屋の中央に男が一人椅子に縛り付けられている。目隠しされた顔は前髪に隠れて見えず、ぐったりとして動かない。椅子の周りには三人の武装した兵士が護衛の様に立ち、時折辺りに鋭い視線を巡らす。部屋には窓がなく壁は土が見えるくらいぼろぼろで、崩れそうなぐらいだった。コツン。壁から小さな土のかけらが落ちる。中にいる兵士に緊張が走ったと同時に、突然轟音と閃光と共に壁の一部が崩れた。音と衝撃を耐えた兵士が、砂煙りの中からくる者に構えた時、正面のドアが吹っ飛び黒ずくめの人間がなだれ込んで
くる。銃声が響き、ホコリが収まった時には兵士は床に赤い模様を描いて倒れていた。黒いフルフェイスのマスクをかぶったリーダーらしき男が縛られた男に駆け寄り目隠しと猿ぐつわをはずして確認する。
「J少将でありますか?」
弱々しく男は頷いた。手早く手の縄をほどくいて、撤収の指示をだそうと部下の方をリーダーが向いた瞬間それまでぐったりとしていた男の身体がバネの様に動き、目の前のリーダーに飛び掛かった。一撃で銃を奪い取り突然のことに反応できない周りの男達に銃弾を浴びせかける。部屋に静寂が戻った時、立っていたのはその男一人だった。
「ゲームセット」
淡々と言って倒れた兵士を軍靴でこずく。
「おらさっさと起きろ。ハインツ、ヨーデ、いつまで寝てる。」
「ひっでなーハボック准尉。」
ぶつぶついいながら腹に真っ赤なペイント弾を食らった若者達が起き上がる。
「捕虜が攻撃してくるなんてずりぃですよ。」
リーダー役を演じて思いきりなぐられた青年が抗議する。
「これは人質救出の訓練ですよね。」
「ハインツ俺は最初になんて説明した?」
煙草に火をつけながらジャン・ハボックは部下に訊ねる。
「視察中のセントラルの少将が南の連中に拉致された。俺達の任務はその救出です。」
「拉致されたのはどのくらい前?」
「えっと一ヶ月前という設定でした。」
そこまで言って急に何かに気がついたように下をむいた。ハボックは頷きながら説明する。
「ミスに気がついたな。拉致されてから一ヶ月も経っているならアエルゴの連中に洗脳されている可能性も十分ある。平たく言えば帰りたくないってことだ。そういう可能性がある人間に無防備に背を向けるのなンと言うんだ。ヨーデ」
まるで教室の先生の様に一番年下の若者を指名した。
「・・間抜けです。」
なんで俺に聞くんですか?とソバカス顔にはっきり表しながらそれでも、小さな声で答えたのに
「違う。正確には度し難い間抜けだ。」
とダメ押しして、殴られた青年に追い討ちをかけてから付け加えた。
「こういう場合はとにかく最後まで気を抜くな。相手が武器を持ってないか確認し常に背後に気を配れ。周りの人間もそのつもりでサポートしろ。任務の終了は基地に帰還するまでという事を肝に命じておけ。」「YES.SIR!」
背筋を伸ばしてその場にいた全員が答えるのにくわえ煙草を上下させて応えると手許のストップウオッチを見て「突入からここまで来るのに20分35秒。前回より5分短縮できてる。よくやったな。今日はここまでで解散だ。とりあえずシャワー浴びに戻ろうや。」
さっきまでの無表情から一転のんびりした言い種に、周りの若者も好き勝手言いながら装備を抱えてもはやドアの形もない穴から出て行く。
「シャワーより冷えたビールが先でショ。」
「あとでミーティングあんの忘れたか。」
「でもあれですね。セントラルからきた偉いサンがあんな強いのってありですか。」
「偉いサンにも強いのはいるさ。グラン准将なんか見ろ。」
「うへぇ、あんなん誘拐しようとするやついないですよ!」「違いない」まるでハイスクールの悪ガキように騒ぎながら彼等は訓練用の廃屋から出る。薄暗い室内に馴れた目に南部特有の強烈な陽光が突き刺さる。
「今日も暑いな」
金髪の准尉はうんざりした様に空を見上げた。短くなった煙草を軍靴でふみ消し、さてもう一本いくかとポケットに手を伸ばした時、通信機を抱えた兵士が駆け寄ってきた。
「ハボック准尉、先ほど司令官から連絡があり、訓練終了次第、司令部の第3作戦室に出頭するようにとのことです。」
「はあ?」
銜えようとした煙草が地面に落ちるの無視して呼びだしくらう心あたりを探す。何かミスしたかな最近でも作戦室に呼び出しってのもへんだよな。
「准尉、早く乗って下さい。」
気のきいた部下がジープをまわしてあれこれ悩むハボックをせかした。
「遅れるとうるさいですよ、あのおっさん。」
走りだしたジープに慌てて飛び乗ろうとしてけッつまずいた上司を遠慮無しにからかう笑い声が抜けるよう
な青空に響いていた。

南部アエルゴとの国境地帯ー散発的な紛争と仮そめの平和が交互にやって来る不安定なライン。
イシュヴァール内乱時には、漁夫の利を狙ったアエルゴ側が攻勢をかけることもあったが今はお互いに牽制しあうと言う小康状態が続いていた。それでも気を抜けない隣人のせいで国境に点在する基地にはいわゆる戦いのプロが集まっている。

ジャン・ハボックがよびだされた第3作戦室にも、どうみてもそういった人々ー実戦をこなしてきましたという厳ついしかし無表情な男達が集まっていた。どうやらミスの叱責ではないらしいと内心ホッとしつつ、後ろの席に副官-さっきリーダーを演じたエルガー・ハインツと共に腰をおろした。
「なんか見た事無い奴ばっかりですね」
ハボックより上背のある巨体を縮めながら不安げに囁く部下にうなずきながら
「ああ他の基地の奴って感じでもなさそうだし・・」
と応えた時、前のドアが開き4人の将校が入って来る。一斉に立ち上がって敬礼する兵士に頷いて1人の士官、4人の中で多分一番上位、が壇に立つ。残りの3人は後ろに控えその中の1人にハボックの目は吸い寄せられた。どこかで見た、いや会った?4人の中では多分一番若い。オリーブグリーンの瞳にスクエアな眼鏡。いかにも切れ者といった風情の青年将校。どう見たって自分とは縁がなさそうなエリート臭さについ無意識に眉を潜めたのに気がついたのか相手もハボックの方に目を向ける。一瞬視線が交錯し、すぐに離された。

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