「今から3週間前に国境の南ーF地域でセントラルから視察に来ていた将校がアエルゴ側に拉致された。」
部屋に響く緊張した声にハボックの注意もそちらの向かう。
「諸君らの任務はその将校の救出である。決して新たな紛争の種になる事ではない。あくまで隠密に行動し速やかに囚われの者を奪還し帰還する事。これが本作戦の要である。解ったな。」
「アイ・サー」
救出作戦?たった1人の将校のためにこんな大掛かりで?そうするとこいつらはセントラルからきたのか?疑問が泡みたいに湧き出てくるくらいそれはうさん臭い話だった。何故3週間の時間が経ってから救出なのか。しかもセントラルから特殊部隊を引き連れて。おまけに作戦の説明が粗方終わっているのに肝心の救出対象が誰なのか名前も顔も説明されていない。
「・・・襲撃地点まではジャン・ハボック准尉の隊に先導してもらう。しかし作戦開始後はこちらーカイル大尉の指示に従ってもらう。」
つまり俺等は道案内兼荷持つ持ちかよ。勝手な言い種に苦笑しつつハボックは手を揚げた。
「サー質問してよろしいでしょうか?」
「なにかね准尉?」
「救出対象の指名及び写真を公開していただけませんか。相手がアメリストスの軍服着てるという保証はありませんし」
茶化したような言い方に隣の副官は首を竦める。誰が相手でもマイペースな態度を変えない上官を彼は気に入っていたがそれが出世を妨げているのには気がついて欲しい。いやきっと解っているのに止めないのだこの男は。この質問を予測していたのか幸い相手は激昂せず淡々と答えた。
「それは今ここでは言えん。明朝4時この基地を出発してからカイル大尉が公表する。なぜなら拉致された将校は我が軍にとって極めて重要な人物でー」
なぜかここで話し手の視線は一瞬後ろに向かった。
「その人物がアエルゴ側に拉致されたという事実が広まれば軍に要らぬ動揺が起こる可能性もある。それ故に本作戦は極秘に細心の注意を払って行わなければならない。解ったな准尉」
「アイ・サー」
つまり作戦に参加するまで蚊屋の外ということか。どうみたってセントラルから来た連中は誰が拉致されたか知っているのに。そこまでしなきゃいけない相手。軍に影響力を持つか、名の知られた者。さっきの視線の意味を考える。視線は後ろの将校−あのエリ−ト士官に向かっていた。もう一度ハボックはオリーブグリーンの瞳に目をあわせる。今度も相手は気がつきハボックの方を見る。探りあうような視線が交わされ、そして同時にそらされる。眼鏡の奥の瞳が興味深げに細められた。

「解散」の声に送られて部屋から出る。何か言いたげな副官に
「皆をミーティングルームに集めとけ。この作戦は何か裏がある。装備の準備と点検を念に入りにするよう伝えろ。」
と小声で指示しながらハボックは反対方向に歩き出す。
「どこいくんですか。准尉」
慌てて後を追おうとするのをライター振りながら止める。
「煙草だ。煙草。肩こっちまったから、ちょっくら外で一服してくるさ。」
場違いにのんびりした声にちょうど部屋を出てきた士官達が顔をしかめるのを横目で見ながら、ゆっくり外に向かった。中庭の木の下、丁度窓側からは見えない木陰に腰を下ろし待つ事10分、背後からのんびりとした声がした。
「火貸してくんねぇ?」
オリーブグリーンの瞳の士官が人懐こい笑みを浮かべて立っていた。
「どうぞ。ヒューズ・・少佐」階級章を確認しながらライターを差し出すと
「ありがとよ。ジャン・ハボック准尉。」
楽しげに返してマース・ヒューズはハボックの隣に腰を下ろした。
そのままのんびり煙りを吐き、猫の様に伸びをする。
「いやー作戦会議ってやつは疲れるね。特にさっきみたいな極秘任務だと肩こっちゃてさー。」
ぽきぽきと首を鳴らし手をまわす。
「で、俺に何を聞きたい?」
直球の質問に覚悟を決めてハボックはさっきから蟠っていた疑問を口にした。
「拉致された将校っていうのは焔の錬金師・・ロイ・マスタング中佐じゃないですか?」
答えはすぐには帰らない。感情の読めない相手は目を閉じて紫煙を吐き出す。南特有の温い風がそれを大気に散らしてった。
「それ聞いてお前さんはどうする。」
「・・別にどうもしません。攫われたのがマスタング中佐ならどんなことしたって助け出す。そんだけです。」
「ほぉ」
意外な答えだったのか初めてヒューズは目を細めてハボックを見詰めた。
「お前さんロイの知りあいか?」
「知り合いって程じゃないッスよ。ただイシュヴァールで一度会った。そんだけです。」
「補給部隊のお前さんが国家錬金術師のロイと?悪いが俺には覚えがねぇがな。」
疑いをたっぷり含んだ言い方に思わず
「あんたがイシュヴァールに来る前の事ですよ。黙って出征してきたって小・・中佐は言ってた。それで作戦が終わって基地に帰還した時あんたが来ていたのを見たんです。大体何で俺の経歴知ってンです?」
上官向けの言葉使いを忘れてくってかかると思い出したのか
「おーあの時の坊やか。そういや犬っころみたいな若い兵士が一緒にいたなー」
と手を叩く。
「誰が坊やで犬ですか!」
思わず声をあげるといつの間にか手にしたのか一瞬の早業―鋭利なダガーが喉元に突き付けられた。
「静かにしな。坊や。誰が聞いてるか知れないだろ。」
にっこり笑いながら微動だにしない刃先は皮一枚手前で止まっている。何の反応もできなかったハボックは潔く両手を挙げて負けを示す。
「YES.SIR」
「いい子だ。それじゃ聞くが何でロイを気にする。イシュヴァールで命でも助けられたか」
「そんなところです。」
取りあえずハボックはそう答えた。でも助けられたのは魂だ。そんな事言っても分かってはもらえないだろう。自分でさえもこの感情が説明できないのに。助けたい、無事でいて欲しい、ただ―会いたい。今の自分にあるのはそれだけだ。
「少佐はどうなんです?」
「何?」
「あんたは心配じゃないのか。中佐はあんたを親友だと言った。そう言った人が敵に捕われてるんだ。平気なのかよ。」
冷たさを増した蒼い眼がダガーを持つ者を見つめる。その視線を平然と受け止めてヒューズは手を下ろした。
「オーケイ准尉。お前さんがロイの事を心配してるのは解った。そういうことならお前に会わせたい人間がいる。・・ホークアイ少尉こっちだ。」
ヒューズの声と共に茂みから一人の女性士官が現れた。金髪に鋭い琥珀の瞳。頭と腕に包帯を巻いているのが痛々しいがそれをはねのける程、強い目線がハボックを射る。名のとうり鷹の目のような、ごまかしや嘘を見抜く視線を持つ女性。突然の侵入者に驚きながらハボックは無言で敬礼を返す。
「リザ・ホークアイ少尉。ロイの副官だ。本当なら病院にいるはずだがな。あいつが襲撃された時近くにいたんだ。ハボック准尉、ロイは偶然攫われたんじゃない。味方に売られたんだ。」



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