信号弾が青空に上がる。それを見守る二人は川べり近くのなんとか楯になりそうな岩の影にいた。5分・・10分川向こうからは何の反応もない。 無言でハボックは泳ぐのに邪魔になる装備をはずそうとすると
「もう少し部下を信用してやれ、ハボック。」
穏やかな声がそれを止めた。その時
「おーい」
聞き馴れた声が川向こうでなく川下ーちょうど蛇行していてここからは見通せない下流から聞こえて来た。慌ててそっちを見ると1艘のゴムボートがこちらに向かってくる。ボートでは巨体の副官が手を振っていて徐々にそれはこちらに近付いて来る。
「行きましょう!中佐」
ロイを守るように背後をかばいながら二人はそれに向かって走り出すが、半分もいかないうちに後ろの森から銃声が響いた。
「ハボック!」
ロイの声が響く中ハボックは右腕に焼け付くような痛みを感じ、銃を取り落とした。すぐに左手に持ち替えハボックは立ち止まって応戦する。そのまま振り返らずに背後の人に向かって叫んだ。
「行って下さい、中佐。ここはオレが抑えます。」
わらわらと森からわいて来る敵兵に向かっていると、行ったはずの人の声がすぐ後ろに聞こえた。
「あと30秒持たせろハボック。・・大丈夫だ援護もある」
その声に応えるように先頭を走って来る兵士が撃たれて倒れた。
援護射撃?どこから?ボートからでは角度がちがう。川向こうか?
思わず背後を見回すが木に隠れて狙撃手の姿は見えない。すると
「ホークアイ少尉の腕は見事だろう?それにお前忘れてやしないか?私の2つ名を」
のんびりとしたロイの言葉と共にハボックの銃から散った火花が前に走る。そして敵兵とハボック達の間に高さ4メートル程の焔の壁が出現した。火は敵兵を取り囲むように走り、パニックを起こした敵は我先に逃げ始める。唖然としているハボックに
「手をつかわなくても練成はできる。怪我は大丈夫か、行くぞ」
あっさり言う人の足下には火トカゲの錬成陣。かなわねぇなと苦笑しながらハボックはその後を追った。

焔の錬金術師の帰還は密かにしかし南方司令部には安堵をもって迎えられた。なにしろ大総統じきじきの救出命令だったのだ。失敗すれば司令官以下幹部の首はとんだだろう。救出されたロイはそのまま司令部がある街の病院に収容され、治療を受けていた。
「よっ。具合はどうだロイ。」
ノックもしないで病室に入って来た人物にうんざりした様に
「お前それは昨日も聞いたぞヒューズ・・」
ロイは言った。横ではホークアイ少尉がまた始まったとため息をつく。なにしろロイがこの病院に入院してから5日が経つがこの男はセントラルにも帰らず毎日見舞いに来ていて入院患者の気力を萎えさせる事ばかりしていた。
「ほら、今日の見舞いは愛しのグレイシアのなんと!花畑の中のスナップだ。」
「ヒュ〜ズ〜」
思わず発火布を取り出そうとする親友に
「おっと今日は特別なんだ。おまけに見ろグレイシア特製のミートパイだ!」
と切り札を差し出して攻撃の鉾先を躱すタイミングはさすがである。好物を前に固まるロイを横目に
「お茶を入れて来ます。」とホークアイ少尉は不毛な戦場を離脱した。
「明日セントラルに戻るから特別大サービスだぞロイ。」
「そうか!じゃもう来ないな」
嬉しそうに返すロイの頭をぱしりと叩いてヒューズはベッドの横の椅子に腰掛た。
「まあなんとか後始末も終わったし?お前さんを売った野郎は証拠を押さたから今頃はもう身柄を拘束されてるさ。」
軍情報部の調べでアエルゴに情報を漏らしたのはある高官であるのが判明していた。公金横領などの不正をロイに気がつかれたと思ったのが直接の動機となったらしい。ハボックが一緒に拉致して来た医師の証言もあり機密漏洩の罪で処分される男は亡命の準備をしていたところを逮捕された。ロイ自身も敵に情報を漏らしてないか尋問は受けたが比較的あっさり解放されたのはやはり洗脳は失敗に終わったと言うあの医師の証言が効いたのだろう。それを聞いて複雑な顔をするロイに
「安心しろ。あの准尉がよけいな事いうなってたっぷり脅したらしくてな。奴さんお前さんの個人的な事は何も言わなかったよ。ともかくあの男と同じ基地にはいたくねぇて泣きそうだったぜ」
と尋問を担当したヒューズは教えてやる。
「なかなか役に立つ男だなアレは。お前イシュヴァールであんなのに懐かれてたとは知らなかったぜ。」
「・・軍を辞めたと思ってたんだよ。」
「は?誰が?」ぽつりと漏らされたつぶやきに対する問いには
「ヒューズ今度の件で南方司令部の責任はどうなる」
まるで見当違いの質問が返された。話の前後をとばしていくロイの会話に馴れている男はあっさり「ないね」と答えた。確かに視察に来ていたロイを簡単に誘拐されたのは向こうの落ち度になるが、他所の人間が計ったことであり処罰の対象にはならなかった。
「しかし基地内に息のかかった者がいたのは確かだ。うすうす知っていて見ない振りでもしてたのさ、司令官殿は」
「証拠はあるかロイ」
オリーブグリーンの目が興味深げに細められ、なにかよからぬ事を画策している顔の友人を見詰めた。
「私が誘拐された時同行していた兵士は調べたか?」
「一応な、でもはっきりした証拠は見つからなかったぜ」
「手を抜くな情報部。連中はわざとあそこで車を止めたんだ。おまけにポケットの発火布を抜いたのもそうだ。全員が共犯者で口裏合わせたんだろうさ。」
部下に実行犯がいたのを見逃したのでは確かに南方の責任問題になるがそれを取り調べの時に言わなかったのはロイだった。

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