HOT DAY!


暑い、暑い、あつい〜〜

真夏の太陽は何人も容赦しない。外にいる者皆等しくその熱と光の洗礼を受けてうつむきながら一際黒い己の影を見る。もちろん犬だって例外ではない。だから昼過ぎの東方司令部、マスタング大佐の執務室に大小2匹の形態違いの犬達はそろってそう訴えながら入って来た。
「やーほんっと今日は暑いッスねぇ。練兵場なんてサウナですよ、全く」
わぁう〜 人間より俺の方がずっと暑いって、こんな毛皮着てるんだから!
しかし
「なんだ2人とも入って来るなり。夏は暑いのが普通だろう」
迎えた黒髪の御主人様はいたって普通の様子だった。夏仕様で薄手になってるとはいえきっちり長袖の上着を着て珍しく真面目に仕事に勤しむ姿は外の暑さなどどこ吹く風といった涼しげな風情。
「・・やけに平気な顔してますねぇ、あんた」
わう  大佐は暑く無いの?
「ようは気の持ちようだよ、少尉。暑いと思えば暑い。涼しいと思えば涼しい。シンより東の国の賢者は言ったそうだ。心頭滅却すれば火もまた涼しってね」
わふ しんとーめっきゃくすればひもまたすずし?ふうん人間はそう言えば暑くならないのか。便利だなぁ。
椅子に近付いた俺をわさわさ撫でる大佐の手は確かにひんやり心地よい。もともと人間は俺達犬より体温低いから夏でもくっついたって暑く無い。でも大佐はきっと暑いよな。なんてたって俺はこんな毛皮着てるんだから。
「ああ、ジェイ。私は暑く無いからお前が側に来ても大丈夫だよ。でも今ちょっと手が離せないんだ。ハボックと一緒にシャワー浴びておいで。そうすればスッキリするよ」
机からぴったり離れず大佐は俺にそう言うとあいつも側にやって来る。俺と同じ様に大佐に掏り寄ろうとすると大佐は
「暑い、汗臭い。さっさとシャワーを浴びて来い、ハボ」
と押し退けた。なんで俺だけ〜と喚くあいつに大佐は俺の前足を上げて説明する。
「犬は汗をかかないんだ。そもそも汗腺が無いのだから。ほら汗がかけるのはこの肉球だけでだから体温調節は人間よりずっと大変だ。特に夏はな、お前も気を付けてやってくれ」
「アイ・サー・・・」
しょんぼりした顔であいつが頷く。その情けない顔にちょっと可哀想だなと同情したけどしょうがないじゃん。
だって俺のほうがイイオトコなんだから。

さっさとシャワー浴びてこい。つれない恋人の言葉に涙目になりながら金髪の部下は首を傾げた。なんだってこの人はあんな涼しげな顔してるのか。
部屋にある冷却装置といえば天井のばかでかい扇風機だけ。それが温い空気をかき混ぜるだけで今日はそれ程風も無い。人が居ない分大部屋よりはましというだけで蒸し暑さは外と変わらないというのに。
・・おっかしいなぁ。昨日は今日より暑くなかったけど大佐はここで暑いって散々ごねてうるさい程だったのに。キレた中尉が安全装置外すまでそりゃ使いモノにならなかった。それがなんで今日は平気なんだ?
不審な視線に気が付いたのかロイは再び退室を促す。素直な大型犬はさっさとドアに行って早く開けろとズボンの裾を引っ張った。その時
わぅ?
何かの音を拾ったのか金色の頭が宙を向く。黒光りする鼻が空気を嗅いで垂れた青い目がロイの方を見た。
まるでここにあるはずのない物の音と臭いに気が付いた様に。
「ど・・どうかしたのかな、ジェイ。ほら早く行っておいで。帰ったらひと休みしよう」
わざとらしく手を振る涼しげな笑顔は何故か引きつって、それを見たハボックの右の眉が上がる。早く行けと大佐が中腰になって手を振った時犬並みに鋭いハボックの耳もここに無いはずの音をキャッチした。

ぴっちゃん。

「こっこら、ハボック側に来るな。ジェイもここには何もないから!よせって!ハボ」
制止の声にも好奇心に駆られた2匹の犬は止まらない。ロイの背後に廻ったハボックは高級そうな佐官用の椅子を思いきり後ろに引っ張って机の下を覗き込んだ。
「あーなんスか大佐これ〜」
わん! 何これ!
書類の山が積み重なった広い机の下にあったのは大きな丸い金だらい。なみなみとふちまで水が入ったそれの中央には大きな氷の固まりが鎮座していた。氷の冷気は果敢に夏の熱気に挑み机の下の空間だけひんやりとした空気が漂う。そうして机に隠れて見えなかったロイの姿と言えば−分厚い革の軍用ブーツも靴下も脱ぎ捨て、ズボンを膝までまくり上げた生足からは冷たい水が滴っている。それがさっきまでどこに浸けられていたかなんて聞くだけ無駄な話だった。
「ずるいッスよ大佐!なンですかこれ?自分だけこんなん持ち込んで涼んで。何がしんとーめっきゃくですか!」
「暑いんだから仕方ないだろう!こんな温度で書類なんか読んでられるか。氷だって自分で錬成したんだ文句は
ないだろう!」
「イテっ、なんですかこの足は!」
逆ギレしたロイがしゃがみ込んで氷を見ていたハボックの後頭部を蹴り上げるとすかさずその足は太い腕に掴まってしまう。離せと喚くロイを無視してハボックは掴んだ白い腿をしげしげと見つめた後すりと頬を寄せた。
「あー冷たくて気持ちイイ〜」
わう! あ、ずるい俺も〜ほんとーだ冷たくてひえひえ
うっとりと足にしがみつく男に負けじと大型犬ももう一方の足にしがみつく。堪らずロイが
「ええい、うっとおしい、暑い、離れろ2人とも!」
叫んで足を振り回すとよろけたハボックが手を付いた先にあったのは例の金だらい。
ばっしゃーん。
「わ、冷てェ!」
きゃう!
「ああ、せっかくの氷が〜」
毛色の異なる悲鳴が3つ上がる。その時それを空中で凍結させる程冷たい声が背後から響いた。
「執務室では水遊び厳禁です、マスタング大佐」

ぴっつきーん

ブリックス要塞も凍らす程の極北のブリザードが執務室を襲い、暫くは誰もそこに近付けなかったという。

・・・ねぇ大佐。しんとーめっきゃくするよりこっちの方が涼しいと俺は思うよ。(汗)



季節シリーズです。暑いの苦手です。でもクーラーも苦手。大佐の冷却法は一度試してみたいと思ってます。
それにしても真夏のワンコは大変そう。ハァハァ言って散歩してるのをよく見かけます。

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