「そもそも錬金術師は皆自分の術に並々ならぬ執着を持つ。おいそれと他人に自分の教えたくはないのが普通だしまして国家錬金術師制度ができてからこの傾向は強くなるばかりだ」
「はぁ、金になるから他人には教えたくないって訳っスか、結構俗っぽいんですね」
立て前で言えば真理の追求が錬金術師の至上の目的だが術師も人の子、食べていかねば研究もできない。市井の術師もそれは同じで腕が良ければ良い程稼ぎは大きくなる訳だ。
「そういう事だ。だから最新の研究はあまり皆発表したがらないんだ。それにレベルで言えば軍の施設の研究が最先端だから最新の研究が知りたければ私はそこへ行く。国家機密扱いの研究でも幸い私にはそれを見る権利があるからね。しかし過去の先達達が残した書物にはもっと純粋なエッセンスのようなものがあるんだ。彼等は必死で錬金術という新しい真理の基礎を築こうとした。その情熱に溢れた研究の中には思いも掛けないヒントが隠れている」
「うーんとつまり大佐にとっては出来上がった商品じゃなくその材料みたいなもんの方が良いと」
「お前らしいたとえだが、間違いじゃない。だから私は古書を漁るんだ。そういう訳だから古本と言っても安い訳じゃないぞ、むしろ新刊よりずっと高い。今日買った本の金額を知りたいか、ハボック」
にっこり笑う男にハボックはいいえと首を振った。どうせ比較されるのは自分の給料だ。聞くだけ野暮というもの。
「でもそうなると普通の錬金術師なんかまともに本なんか買えないじゃないスか。えーっとあの何でしたっけあの言葉と随分違いますね」
「錬金術師よ大衆のためにあれ、か?まぁあれもある意味軍に対する皮肉みたいなもんだ。もともとあの言葉はずっと昔軍部がこの国の政権を握った当時生まれたスローガンらしい」
政権を握った軍部は錬金術を国家の管理下に置こうとし、手始めに術師を登録制にしようとしたのだ。だがこれは市井の錬金術師達が猛反対し一時はかなり激しい抗議活動が行われた。その時のリーダー格だった無名の術師が残した言葉が『錬金術師よ大衆のためにあれ』だ。
「元は争いに巻き込まれた旅の術師らしいがな。金髪に金の瞳の男で見事な指導力で反対運動を指揮し最後には軍部に登録制を撤回させその後この国を去ったと伝えられれている」
「はーなんかカッコ良いすね」
「伝聞だからどこまでが事実か良く判らんが、まぁ大きい街の図書館に行けばそれなりに資料はあるし古書といってもピンきりだ。手頃な値段の物もある。あの主人は良心的な方だ。ちゃんと商品の価値を見極めて値段を付ける」
「確かに真面目そうな爺さんでしたね。そういや何か探し物頼んでたけどそれも古本なんですか?」
主人との会話をハボックが憶えているとは思わなかったのだろう。ちょっと驚いたように黒い瞳を見張って
「ああ、ずっと捜し続けている本があるんだ。どうしても見つけて欲しいから彼に頼んでいる」
言えばハボックは
「そうスか、それは見つかると良いスね!」
と屈託のない笑顔で応える。その曇りのない青い瞳からロイはそっと目を逸らした。



「原初の自然が叡智の光に達するためには、焔による浄化を経なければならない・・」
昼も夜も主は私を手放さなかった。判らない言葉は辞書を引き知らない記号はまた他の本で調べる。すっかり夢中になった彼の健康を私が心配するくらいそれは熱心で
「ちゃんと食事をとらなければいけませんよ、坊ちゃん」
たまにそう言って強引に私を取り上げる人物が居た事に密かに私は安堵する。私と違って人間─しかも子供には十分な食事と睡眠が必要なはずだから。
それにしても彼を取り巻く環境は随分変っていたと思う。一日中錬金術の本に没頭する子供と同じように過ごす大人、時折その2人の世話を焼く老人。彼の周りにいたのは多分これだけでそこは酷く静かな変化のない世界だった。



「ハボック少尉、マスタング大佐が何処に行ったか知りませんか?」
数日後、お馴染みのセリフをハボックにかけてきたのは黒眼鏡の同僚だ。愛用の道具箱を抱えてる所をみると又何処かで修理を頼まれたのだろう。
「今受付から連絡があったんですけど、大佐にお客様なんです。何でも馴染みの古書店の主人だそうで3時半に約束してたそうなんですが・・」
「執務室に大佐は居なかった訳か」
つまり東方司令部名物マスタング大佐の逃亡な訳だがそれをまさか民間人に言える訳がない。会議が長引いてるから少々お待ち下さいと相手を待ち合い室に待たせたところでフュリーは通りすがりのハボックに済まなそうに頼み込む。
「すませんが、僕通信室に呼ばれてますので、ハボック少尉代わりに大佐を捜して頂けますか?」
「オーケイ、適材適所だ。後は任せておけよフュリー」
部下の中で誰より大佐を早く見つける男は苦笑しながら早く行けと同僚の肩を叩いて見送るとやれやれと新しい煙草に火を付けた。
「まーったくしょうがない、御主人様だぜ。きっと注文した本が見つかったって知らせなんだろうに」
外を見れば綺麗な青空が広がる。きっと裏庭で惰眠を貪ってるのだろうと当たりをつけてハボックは外に飛び出した。

忠犬の勘は当っていた─半分だけ
「だっから東部の方が飯は旨いっていうんです。西の方はどうも薄味でねー」
「じゃあ女はどうなんだよ、ダミアノ、ちゃんと試してきたか?」
「お、こいつ赤くなってやんの!さては良い子ができたんだな?」
よ、色男と声がかかりどっと歓声が涌く。どこかの隊が休息してるのか練兵場に続く小道の端の大きな木の下に車座になった男達の姿があった。別に珍しくも無い光景だとハボックは横目で通り過ぎようとしたところで
「あんまり苛めるな、皆。軍曹はやっと西の戦場から帰ってこれたのだから」
耳なれた低いテノールに足が止まる。こちらに背を向けてはいるが男達の輪の中に座っていたのは確かにハボックの捜していた人物だ。
「そうですよ、やっとペンドルトンから戻ってこれたんだ。少しはのんびりさせてもらわないと。ねぇ大佐殿」
・・・誰だ?
話し掛けた声のトーンは何処か親しげで無意識にハボックの眉が顰められる。いわゆるマスタング組と呼ばれる自分達以外で焔の錬金術師にこんな風に話し掛ける兵士をハボックは知らない。
「残念だが約束はできないよ、軍・・いや曹長。イーストシティもそれなりに忙しい」
応えるロイの声もいつもより被った猫が薄いようだ。いつも普通の兵士にかける声ではない。
知り合い?でも俺見た事ないなぁ、あんな奴。
丁度ロイの向い側あたりに座っているその男はハボックよりかなり年上だろう。黒髪に削ぎ落としたような鋭い頬のラインが戦場の経験を表わしてるようないわゆる古参の下士官タイプでふいにその吊り上がった瞳が固まった様に立ちすくんでいたハボックを射る。
「どうやら見つかったようですよ、大佐殿。忠実な部下のお出迎えです」
「む、しまった見つかってしまったな」
振り返ったロイの表情はいつもと変らなかったけれど
『なーにサボってるんスか、たいさぁー』
喉に何かが詰ったみたいに金色の大型犬は何も言う事ができなかった。

捏造アメストリス錬金術事情。ホ−パパは結構この国をうろついてるんだからこっそり何かやってる事もあろうかと。あとチャーリ−登場。しかしハボ達は彼等の事を知っていたのか?クーデター時は共同戦線張ってた訳であれが初顔合わせとは思えない。

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