「貴様、軍の犬か!」
どうやら彼等はそれなりに実戦の経験があるらしかった。ショックから覚めるのが早くまだ煙で視界が効かないのに銃を乱射し始めて
「うぉ、あぶねぇ」
裏口に通じる扉に行く前にそこは乱戦状態になった。場慣れしてるハボックは素早く身を箱の影に隠して気配を殺すが殺気だった男達はそれに気付かず銃を乱射する。闇雲に飛び交う銃弾は床や壁に当り積んであった荷にまで当ったのか袋の崩れる音が辺りに幾つも響いて周囲はあっという間に白い粉が舞い散りまるで視界が効かなくなる。
「なんだこりゃ、息もできねぇぞ!」
「何も見えねぇ、おい奴は何処に行った!」
怒声と銃声が響き渡り混乱が酷くなる中で
「ここ小麦の倉庫だったんだ・・ってこの状態はやばい」
舞い散る埃と白い粉にある可能性を思い付いてハボックはそろそろと壁伝いに撤退を試みる。が
「待て、貴様!」
リーダー格の男が目敏くそれに気付いてそちらに銃を向ける。白い粉塵のベールを幾つもの銃弾が突き抜け仕留めたかと目を凝らす男の前に突然黒い影が飛び出して
「悪いけど長居する気ねぇんだ、よ!」
鋭い蹴りが容赦なく腹に叩き込まれた。よろけた男の顎に止めとばかりにアッパーをかましてハボックはドアに向かって走り出すがその時粉塵の壁の向こうに見えたのは見慣れた人影。どんな状況だって見間違うはずのないそのシルエットが右手を上げいつものポーズをとったのを見てハボックは叫んだ。
「ダメです!大佐!粉塵爆発の・・」
その時また銃声が響き同時に背筋に走ったのは馴染みのあの感覚。それに突き動かされるままハボックは前に飛んだ。

「ハボック?」
部下の叫びにロイは振り上げた右手の指を寸前で止めた。だが次の瞬間耳をつんざく音と閃光とそしてそれを遮るように黒い影が飛び出して来て
「うわっつ」
同時に襲って来た衝撃に黒い影と共にロイは思いきり床に叩きつけられる。背筋が軋む程の傷みと轟音で効かなくなった聴覚に一瞬意識を失いかけたロイの意識を留めたのは嗅ぎ馴れたあの苦い香り。
「ハボック!」
目の前には煤で汚れた金髪に苦痛で歪んだ部下の顔。閉じられた瞳に全身の血が逆流して
「おい大丈夫か、ハボ目をさませ!聞こえてるのか、この駄犬!」
のしかかってくる身体を横へどけるとロイは力任せにぐったりとした身体を揺さぶりその名を呼ぶ。それがどれだけ必死だったか轟音で耳をやられたロイには判らなかったが
「ハボック、目をさませ!」
忠犬の耳にはちゃんと届いた。ゆっくりと垂れた蒼い瞳が見開きそこに黒髪の姿を影を映すと
「たいさ」
煤で真っ黒になった口が確かにその言葉を形作るのをロイは見てほっと肩の力を抜く。だが何かに引火したのか辺りには白い煙が充満し始めここにいるのは危険だとロイは
「何があったか知らないがともかくここを出るぞ、少尉、歩けるか・・」
肩を貸して立ち上がらせようとすれば大丈夫とばかりにふらつきながらもハボックは意地で立ち上がり自分の耳を指差して頭を振った。
「お前も耳をやられたか。被害がどれくらいか判らないがともかくここを出るのが先決だ」
爆発は収まりあちこちからキナ臭い臭いが漂ってはいるがまだ余裕はあった。煙の向こうから人の声もするが相手が敵である以上退避するのが先だとロイは冷静に判断を下す。
「あいつら・・『青の団』の一派らしいッス。で撃ち合いになったら積んであった小麦の荷が崩れて粉塵爆発を引き起こしちまったんですよ・・」
より爆発に近かったハボックの耳はまだ回復しないらしい。ロイの言葉には反応せず何とか事情を説明しようとするがロイに背中を叩かれてゆっくりと歩き出す。徐々に濃くなる煙を吸わないように手で口を被い2人はゆっくりと出口に向かう。そうして狭い通路の向こうに爆風で開いた扉が見えた。その向こうに変らない夜の闇が広がっているのを見てほっとロイが気を抜いた時ハボックの足が突然止まった。
「ハボ?」
「しまった!」
空の両手を見つめ狼狽えて何度も辺りを見回し
「本!俺この手にちゃんと持っていたのに!爆発の時離しちまった!」
「おい、待てハボック・・」
「大佐は先に退避してて下さい。ちょっと俺あの本持って来ますから」
扉の方へロイを押し出すと自分は身を翻して煙の中に駆け出す。
「この馬鹿、戻れこの駄犬!上官命令だ!」
マヒした耳にはロイの声も届かない。だからハボックは知らなかったその時ロイが何と叫んだかを。
「もういいんだ、ハボック!あの本は始めからこうするつもりだったんだから!」
必死の制止の声に振り向きもせず走りだした男を追ってロイもまた煙の中に飛び込もうとしたその時
「危険です、マスタング大佐!」> 後ろから誰かの手が掴んで止める。
「誰だ、離せ!」
咄嗟に振り上げた手はしかしそこで止まった。何故なら
「チャーリ−曹長?」
腕を掴んだのは黒髪、つり目の東方司令部の部下だ。予想もしなかった男の登場にロイの動きが一瞬止まりその間にハボックの姿は見る間に煙の向こうに消えていってしまう。焦ったロイが離せともがいても腕を掴んだ手は揺るぎもしない。それどころか
「ファビオ、アルベルト、大佐を安全な所まで避難させろ!」
掴んだ男は更に仲間を呼んで有無を言わさずロイを扉の向こうに連れ出そうとする。それでも尚も動こうとしないロイに
「ハボック少尉は私が救出しますから!大佐は先に避難して下さい!」
それだけ言うと彼もまた焔の中に消えて行った。残されたロイはなす術も無く2人の男に引きずられるように倉庫の外へ連れ出されいくしかなかった。

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