TRIANGLE TROUBLE

『全くもーちょっと朝の挨拶しただけじゃんか、可愛い飼い犬が無邪気にじゃれたのと同じだよ』
「うるさいそんなでかい図体してどの口が可愛いなんぞ言うのかね」
頭にできたたん瘤をさすりながらハボックは涙目で訴えるが、黒髪の大佐は聞く耳持たない。
「おかげですっかり目が醒めましたよ。んで何の御用で俺らを呼んだんです?こんなスペルミスいつもは放っとくでしょーに」
垂れた蒼い目が探る様にロイを見て問う。そこには今度はどんな無理難題をこの傲慢な御主人様は押しつけるのかと微妙な怯えの色が少しだけあった。その色に気が付いた大佐はにんまり笑って1冊のファイルをハボックに投げて寄越す。無言のままそれをざっと読んだ金髪の少尉は訳判らんという顔で問う。
「原因不明の連続死亡事故?それを俺らにどうしろと?」
『これ病気の話だろ?医者の仕事じゃないの、大佐』
戸惑う部下の疑問を黒髪の上司はチェシャ猫の笑みを浮かべて訂正する。
「まだ事故と決まった訳ではないよ、少尉。連続殺人の可能性もあるという事だ。お前達の仕事はまずそれを見極める事なんだ」
にーっこり。胡散臭さ全開の笑顔に忠犬はそっとため息を吐いた。どうやら厄介な仕事を御主人は押し付ける気らしい。さっきの唇の甘さの余韻はもうどこにも残ってなかった

中略

「そうか、そういう事があったんだな」
「すいません、大佐。もっと早く報告すべきでした、俺が・・」
沈痛な面持ちで謝罪する部下をロイは止める。
「いや、午後にしろと言ったのは私だし、あの時点でアレがそんな重要な物だと判る人間はいない。君のせいではないよ、ブレダ少尉」
「でもアレを大佐に見せていればきっと何か判ったはずです。せめてそれだけでもしておけば・・」
こんなことにはならなかった。
声にならない嘆きは隣の病室で眠る男へのものだ。倒れたハボックは直ちに郡病院へ移送されロイと腹心の部下もそれに同行し、ハボックの病室の隣の部屋を借り切って事件の情報を交換している。ホークアイ中尉は司令部に残って事態の収拾に務めていた。
「確かにハボック少尉とは廊下で会いました。落ちた書類を拾うの手伝って頂いたんです」
「気が付いたのはその時か・・ホントに犬並な野郎だぜ」
乱暴な言い種だが言った男の顔は蒼い。この事件の事に誰より詳しい男はベッドで眠る悪友の運命を正確に知っている。もって3、4日。どんな治療も役に立たず患者は死ぬ。
「これが錬金術師の仕業なら大佐をターゲットに狙う可能性は高かったんだ。イーストシティでこんな事してればいずれ焔の大佐に気付かれる。その前に・・って事に何で俺は気がつかなったんだ!」
握った拳は罪も無い病院の備品を叩く。反動で彼が持ち込んだ資料の山が崩れるが誰もそれを咎めようとはしなかった。頭脳派のブレダと実行屋のハボックが悪友同士なのは皆知っているから。
「自己批判はそれくらいにして前に進め、ブレダ少尉。まだハボックは生きている。まだ勝負はついた訳じゃ無い」
静かな声に男は背筋を伸ばす。目の前の黒髪の男と自分の悪友が普通の関係ではないらしいと彼は薄々察していた。だからこの大抵の事には動じない鉄面皮が何のために手を組んでいるのかも知っている。そうしなければ手の震えが抑えられないからだ
いけねぇ、俺が取り乱してどうするよ。
「すいません、大佐。あの封筒は午前の配達で司令部に到着しました。消印はイーストシティ中央郵便局で投函されたのは多分3日前。当然差出人に使われた古書店から心当たりは無いと言われました」
「あそこは業界内では老舗の店だ。街中の錬金術師が一度は足を運ぶだろう。私に何の疑いを持たずに開封させるにはもってこいだ」
「しかし他の例では見つかって無いのでしょう?その手紙」
「そうなんだが、何せ皆事件だと思っちゃいないだろ?そんな細かい事憶えて無いんだ。たださっき何件かしつこく問い合わせたらそういえば・・なんてのが2件程あった。当然何も残っちゃ無いがな」
「これからどうしたら良いんでしょう。ハボック少尉を助けるために・・」
ちらりと隣への扉を見て気弱な声が皆の気持ちを代弁する。あまりに不可解な方法で成された犯罪に優秀な軍人である彼等の意気も沈みがちだ。
「我々のやるべき事は一つ。術師を見つける事だ。どういう錬成が成されたのか判らない以上ハボックを救える手段はそれだけだ、諸君」
部下の迷いを断ち切る様に明解な答えがロイの口から出た時だった。
がっっしゃーん
患者以外は誰もいないはずの病室から何かが派手に壊れる音がする。何事かとロイ達は我先に席を立ち、扉に向かう。真っ先に隣へ駆け込んだのは当然ロイで
『ジャンは何処だ!』
点滴の瓶を倒して立ち上がった男の姿を最初に見たのもロイだった。

中略


「すぐに医師を呼べ、鎮静剤を持って来いと伝えろ・・・それと皆は下がれ。そしてこの廊下を封鎖しろ、医者以外誰もここに近付けるな」
「・・・アイ・サー」
容赦の無い命令に彼等も逆らう事なく後ろに下がる。たった1人残ったロイはそっとベッドの男に呼び掛けた。
「ジャクリーン」
ぴくんと金の頭が揺れ深い蒼いがようやく自分を呼ぶ男を認識する。その男が何か言おうとする前に足早に近付いたロイは躊躇いなくその身体を抱き締めた。
「大丈夫か、ジャックリーン」
『大佐・・』
縋り付いてくる腕を何度も叩きながらロイは震える耳元に優しく囁く。
「そうだ、私だよジャク。もう大丈夫だ、お前は助かったんだここは病院だ」
助かったその言葉にぴくんと大きな身体が跳ねる。
『違う、大佐・・助かって無い。違うんだ・・だってジャンがいない』
「落ち着けジャクリーン、どういう事だ」
再び震えだした背中を宥める様にさするロイの耳に飛び込んで来たのは悲痛な叫び
『ジャンがいない、この身体の何処にも。あの光に飲み込まれちまったんだ、俺を庇って!』




ダブルハボックその4。今回はジャク様主役でがんばってます。でも相棒が消えてしまってちよっと迷子の子犬風?大佐はそんなジャクにきゅんとなりながらジャンを助けるために奔走します。果たしてジャンは無事2人の元に戻れるでしょうか?

                 

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