「あーその、休暇中なのに色々お世話になりましたマスタング中佐」
イーストシティ中央駅−早朝のセントラル行きの急行列車のホームに立つ金髪の軍人と黒髪の青年。見送りに来た者と旅立つ者のありふれた別れのシーンなのだが。
「気にする事はないよ、ハボック准尉。私の方こそ面白い体験ができて楽しかったよ。」
あの追跡劇をさらりと面白いで済ませるお騒がせな人は面倒はごめんと後の始末を全てハボックに押し付けて自身はその場からトンズラしてしまった。おかげで彼は後始末の上に何故タイヤがいきなりバーストしたか、追跡時に一緒にいた人物は誰かなどをごまかした報告書を作るのに一晩中かかってしまった。(あの場にいた部下にはセントラルの友人と言ってある。)挙げ句夜が明けたと思ったら駅から呼び出しがかかり、適当な理由作ってハボックはホームにやって来た「でもほとんど観光できませんでしたね。今度来る時はちゃんと案内しますよ。前もって言って下さればね。」
「それは楽しみだが予告するのは無しだ。4回目の偶然にしなきゃつまらないだろう?」
「またそれですかー3回目が運命なら4回目はなんなんです。そういや俺聞いてませんよ。中佐のやりたい事。あの時言ったじゃないスか、3回目の偶然があったら教えるって。」
「そうだな・・」ひたりと黒い瞳がハボックの目を真直ぐに見詰める。強い意志と力を秘めた双つの黒水晶。思わず姿勢を正すハボックの前で形の良い唇が答えを紡ぎだす。
「私は−」
ところが突然ホームに鳴り響いた発車ベルが紡がれた言葉をかき消していき、そのままロイは手を振って列車に乗り込んで行ってしまう。
一瞬固まったハボックが我に返った時、列車は白い蒸気を吐き出してゆっくり進み出す。見えないはずの姿を捜すように走りかけたハボックに斜め前の窓から小さい包みが投げ付けられる。
「お礼だよ、准尉ありがたく受け取りたまえ!」窓から身を乗り出した黒髪の人が白い手袋をした手をあげるのに答えてハボックも直立不動で敬礼する。
そのまま列車が駅をでて視界から消え去るまで彼はその姿を解かなかった。

「ホント嵐みたいな人だったなー。」
この24時間で3日分の疲労を味あわされたと愚痴りつつそれでもロイが黙って帰らなかった事を嬉しく思う自分がいる。これまでは知らなかった普段の時の彼の様子が判って楽しかったと感じる自分もいる。そのどちらもマトモに考えれば変じゃないかと思う自分は取りあえず無視して、ハボックは投げられた小さな包みを解いた。ああいう渡しかたじゃなきゃ俺が受けとんないの分かってやったんだな−苦笑しつつほどいた包みの中から現れたのは透明なケースに入った黒いべっ甲造りの髪飾り。
昨日ロイと共に見た店のショーウィンドウにあった細工の美しい一品である。
そしてそえられたカードに書かれたメッセージをなにげなく読んだハボックは思わず無言でその
場にしゃがみこんでしまった。

『上官命令その1。このプレゼントを持って昨日の彼女と仲直りする事。誠意を武器にがんばりたまえ。
上官命令その2。昨日言った条件にあう物件を今度会うまでに捜しておく事。
悪いが残念ながら4回目の偶然は無しだ。なぜなら大体3ヶ月後に私は東方司令部勤務となる。つまり君の上官になるわけだ。
楽しみにしたまえ。ジャン・ハボック准尉    −ロイ・マスタング』

「・・東方司令部勤務?上官?あの嵐みたいな人が?しかも家捜しとけってなんで俺が?っていうかどーなるんだよ俺の人生・・・・」
どう考えても下僕決定な未来を予想して頭抱えて呻く金髪の大柄な軍人をホームの人々はいぶかしげに見詰めるばかりである。

その日が来るまで彼の人生は平凡なものだった。ロイ・マスタングという名の嵐が来る間では。しかし嵐が来た日、嵐が彼を巻き込んだその日からそこから先の彼の人生は誰にも予測のできないものとなる。

−エピローグあるいはおまけ−

翌日のセントラル、いつものようにロイ・マスタング中佐のオフィスに金髪の副官が朝のコーヒーの香りと共に今日分の書類を運んで来る。
「おはようございます、中佐。休暇はいかかでした?」
ヘイゼルの瞳をちらりと見て、黒髪の上官はゆったりと返す。休暇で英気を養ったと知らせるように。
「ああ久しぶりの休暇だから家で読書三昧だよ。尤も夜はとあるレディと中央ホールのコンサートに行ったがね。」
「それは良かったですね。ところでこの間セントラルから逃亡したあのテロリストがイーストシティで一昨日逮捕されたのは御存じですか?」
「それは知らなかった。あの無能な連中が逃がした奴だろう。東部の人間もなかなかやるな。」
「逮捕した状況がちょっと面白いんです。逃げていた犯人の車のタイヤが4ついっぺんに爆発した様にバーストしたとか,
謎の民間人協力者がいたとか・・」
「・・・そんなことまで報告書には書いてあったのかね。(汗)」
「いえこれはマ−ス・ヒューズ少佐からの極秘情報ですわ。・・どうかしましたか中佐お顔の色が少し悪いようですね。」
そして金髪の美しい部下はにっこり笑ってとどめの一撃を繰り出した。
「御存じでしたか、中佐。中央ホールのコンサートは指揮者急病のため一昨日から中止となっております。」
一気に氷点下まで下がった空気の中でロイ・マスタング中佐の優秀な副官は微笑みながら愛用の拳銃を構えた。

わがままロイに振り回されるハボをスラップスティック風に書こうとしたんですが半端にシリアスが混じって歯切れがイマイチになってしまいました。でもこれって2人の初デートということになるのか・・・

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