「なーに企んでるかなロイちゃんは」
「別にただちょっと司令官殿に聞いてもらいたいお願いがあるのさ」
セリフだけならかわいらしいが言っている本人には百戦錬磨の娼婦並の強かさと艶がある。
「あの男が欲しいんだよヒューズ」
だけど声と表情はペットをねだる子供の様で。そのギャップを見なれたはずのヒューズも思わず引き込まれた。
「ジャン・ハボック准尉を東方司令部に転属させて欲しい。」
「東方?なんでセントラルにしないんだ?」
「あんな体力勝負の奴をいきなりセントラルに回すのはいくら何でも無理がある。・・それに私も近いうちに東方に行く事になる。」
「聞いてねぇぞ、俺は。」
「当たり前だ。これから希望をだすのだから」
それはしばらく前から考えていた事だった。若手出世株の中で抜きん出ていたロイは当然風当たりも強かったし妨害もある。今回の事はその際たる物だったがつまらない足の引っ張りあいは日常茶飯でいい加減それにうんざりもしていた。自分には叶えなければならない望みもあったしそのための努力は惜しまないがどうしたってある程度の駒は必要になる。それに人材を集めようとしてもセントラルで派閥を作ればよけい警戒されるだろう。おまけにいらん失態を理由に北方あたりに左遷されてはたまらない。そうなる前に
「先にこっちから地方に引っ込めば爺さん達も安心するさ。」
「ロイ・マスタングとあろう者が尻尾を巻いて逃げたと言う奴もいるかもよ」
「言わせておけばいい」
あっさりロイは言ってのけた。
「どうせ目先の事しか見えん連中さ。」
「何で東方なんだ?」
「西も南も隣との小競り合いばかりだし北は遠い。東方は一応落ち着いているがイシュヴァールを抱えているからセントラルも無視はできない。そこで使える人間を捜そうと思う。」
「なーるほど、それで手始めにあのワンコか?」
「交渉をやってくれるなヒューズ」
NOなんてはなから考えてない、無邪気なしかし艶を含んだ眼差しに降参とばかりに手を挙げてヒューズは厄介な交渉を引き受けた。尤もカードさえそろえばこの男に勝てる者などそうはいない。
「でハボック准尉に言っておくのか、東で待ってろと」
「いやあいつには何も言わなくていい。」
ふと悪戯を思い付いた子供の表情で
「だって偶然にしなけりゃ運命にならないだろ」
とまた意味不明のセリフを吐く。
「あいつに言ったんだ偶然の出合いが3回続いたらそれは運命だってね。だから今度の再会も偶然てことにしなきゃだめなんだ。」
「運命ねぇ」
深みを増したオリーブグリーンの瞳が細められ伸ばした手が顎を引き寄せ自分も顔を寄せる。
「そんなに気に入ったかあの若造が。」
吐息が触れる程の距離で囁かれた言葉に
「決めたんだ。あれは私だけのものにする。」
嫣然と返された返事の語尾は唐突に途切れ、そのままお茶を運んできたホークアイ少尉がドアをノックするまで、密やかな沈黙が病室を支配した。


「どーも訳わからないんだがなー」
本日何回目かのつぶやきを煙りと共に吐き出しながらジャン・ハボックは組み手の練習をする部下を見ていた。
「また言ってるんですか?いいじゃないですか東部への転属、一種の栄転でしょ」
同じ返事を巨体の部下もくり返す。
「きっとあの救出作戦の成功が効いたんですよ。」
確かにロイ・マスタング中佐救出作戦は結局ハボック達の手柄になった。セントラルからきたカイル大尉達はハボック達を命令違反と決めつけ軍法会議ものだと詰め寄り、両者はあわや乱闘という雰囲気になりかけたが情報部の将校がハボックに別に命令を出していたと言ったのでその場は収まった。その展開の裏にハボックはあのオリーブグリーンの瞳の少佐の存在を感じたがよけいな事は言わなかった。それより救出されてからすぐに街の病院に移送されたロイの容態のほうがよっぽど気に掛かったが、もう関係者ではない自分には知る方法もないのだとそちらの方が落ち込ませた。
これではイシュヴァールの時と全く同じだ。誰よりも近くにいられたと思ったらあっという間に手の届かない所に行ってしまう。抱き締めた身体が以外に柔らかかったのも、ふれた唇の心地よさも昨日のことのように鮮明に思い出せるのに、3回めの偶然が起きない限りもう会う事もない。腕の中で縋るように呼び掛けられたあの名前、どう考えても只の友人に対してじゃないだろうそれは何故だかハボックをよけいに落ちこませた。
やっぱそーいう関係なのかな、別に軍隊じゃ珍しくもないし、それが俺に関係あるかーってとそうじゃい、そうじゃないんだが何故ショックを受けてんでしょう俺?
そんなこんなでしばらく沈滞モードだったハボックに降ってわいた様に東部転属の命令は下った。
こんなところで使い回されるよりは絶対良いと部下一同は喜んでくれて
「送別会は街で派手にやりますから逃げんで下さいよ」
人のいい部下は幹事を買ってでてあれこれ計画している。それには感謝しているがどうもしっくりこない。時期もずれている、なにより仕官学校でた直後におこした上官侮辱罪などで経歴に傷がついて以来、出世とは無関係だと思っていたのに。なんだか自分の知らないところで誰かの手が動かしているような感じがしないでもないが、あいにくそんな価値自分にはない。
「まさか・・ね」
呟きながら立ち上がり組み手に参加しようと歩き出すハボックに
「きれいな女性もできれば揃えますからね。ちゃんと好み教えてくださいよー」
と泣かせる事を部下が言いう。
「とりあえずボイン!」
自分の『運命』がとんでもない人間に決められたとは露知らず、呑気に返すハボックの言葉が晴れ渡った南部の空に消えた。

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