嫉妬:INVIDIA

それは小さな棘のようなもの。あるいはチリチリと胸を焦がすささやかな焔。恋愛に不可欠なちょっとしたスパイス
─だと思っていた。あいつがああ言うまでは。

「御苦労さまでした、閣下」
私室に戻るなり、上等な礼服を床に脱ぎ捨ててソファにダイブした最高権力者に護衛官は笑いを噛み殺しながらぬるめのカフェオレを渡す。いくら地位が上がろうと変らないものがあるなぁと思いながら。
「ああもう何だって客が来る度に夜会なんか開かなきゃならないんだ。別に手土産を抱えてくる訳でもないのに」
「それが外交ってもんでしょうが。お話し合いで問題が解決できればそれが一番。第一ここぞとばかりによその国の元首夫人に愛想振りまいてたの誰っスか」
「外交手段だよ、ハボック。彼女が私に好感を持てば国家間の問題も解決しやすくなるだろう」
「えーえ、確かにそうです。特に今日は熱心でしたね。美人で若くて元女優の元首夫人。けど旦那に恨まれちゃ元も子もないでしょうに」
「妬いてるのか、ハボック」
クスクス笑いながら黒髪の独裁者はこっちにおいでと金の護衛犬に手を差し伸べる。その誘いに抗えない男が足を折って相手の膝に頭を乗せると待ちかねたように白い指が金の髪をかき乱した。
「まったくもー。俺が嫉妬するのそんなに面白い?あんたは昔からそうやって俺を挑発するんだから・・」
数々の浮き名、大事な親友、見守っていた金瞳の錬金術師。そのどれもがハボックの胸に爪を立てた。それを髪を撫でる男は知っていた─知っていて時にわざと見せつけるような事をしてきたのだ。
「俺が苦しんでるの知ってるでしょう?ったくタチ悪いんだから」
「だって嫉妬してる時のお前の目ときたら。視線が突き刺さってくるように熱いんだ。あの目で見られるのが堪らないんだよ、ハボ」
性悪な男が艶やかに笑えばもうハボックは白旗を上げるしか出来ない。

「あ、今日俺デートです、すんません」
あいつがそう言ったのはいつだったか。まだ出会って大して時間は経ってなかったと思う。東部に赴任した私とその護衛役となったハボック。仕事の流れで皆で飲みに行こうと誘った私をあいつは垂れた目をいっそう下げてそう断わったのだ。
─瞬間胸が抉られたと思う程痛んだ。
それが嫉妬であるとその時は気がつかなかった。だってどんなレディとおつき合いしてもそんな痛みは感じた事がなかったから。
この感情はなんだ?この痛みはどこからくる?
キリキリと締め付けるような、まるで自分の焔で灼かれているような感じに戸惑うしかなかった。
それが『嫉妬』だと気がついた時はもう遅かった。

・・だからお前の嫉妬なぞ甘いもんだよ。ハボック。

                 

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