「ごめん、冬至祭には忙しくて出られそうにないんだ。楽しみにしてたのに本当にごめん。それで僕の変わりにカールが・・そうカール・ワッツ、知ってるだろう?同じクラスの。彼が君のパートナーとしてパーティに出たいって言ってるんだ。引き受けてくれるかい?」
そうコンラートが言ったのが始まりだった。
別にどうしてもパーティに行きたいわけじゃないから無理にパートナーを見つけて来なくてもとそれとなく断ったら本当はカールの方がどうしてもと頼んできた事らしい。・・・そこで変だと思うべきだった。高級将校の息子がどうして酒場の女を学校のとはいえ公けの席のパートナーに望むのだろう。昔交際をやんわり断った時酷くプライドを傷つけられたような顔してたのを忘れてた訳でも無かったのに。繰り言でしかないけどコンラートがこう言わなかったら私は断っていたと思う。
「カールは今僕の援助をしてくれてるんだよ。彼のおかげで今度の試験も合格できそうなんだ。だから少しでも御礼がしたいんだよ」
そう言って頼み込んだコンラートの瞳に邪なものは無かったと思う。だから彼は本当に知らなかったんだと今なら言える。でもその事がどれだけ免罪符になったかと言えば・・私には何も言えないわ。
簡潔に事実だけを言うわね、アリス。私はその晩カールとその取り巻き達に性的暴行を加えられました。

その部分の筆跡は酷く乱れていた。書いた本人の苦痛を表わすかのように歪んだ文字を感情を抑えて読む姿に法廷の人々は静まりかえって過去からの告発を聞く。

「訴えたかったらそうしろよ。けどお前は自分からパートナーになるの承知したんだぜ。それは皆も知ってるし中将の息子と酒場の女の言う事じゃどっちが信用されるか判らない程世間知らずじゃないだろう?まぁ大人しくしてりゃ国家錬金術師の妻に納まれるかも知れないぜ、あいつが合格すればな。それまでせいぜい協力しろよ」
この言葉が私を打ち砕いた。身体の痛みなんか忘れさせるくらい胸が痛んで張り裂けそうだった。それなのに平気で呼吸できる自分が不思議だった。病院での世話は女将さんが全て見てくれて私はただ言う通りに身体を動かしていただけ。故郷に帰ると言われたときもああそうかと思っただけだった。そして最後の晩・・明日は汽車に乗るという夜。
隣の家に女将さんが出かけていた時電話が鳴ったのは何故だろう。どうして私はその電話を取ったのか。

「もう一度だけ会いたい。お願いだ会ってくれハンナ」

なんで私は父の形見の銃を持って出たのか。

その晩は雨だった。でも傘はささなかった。呼び出されたのは学校近くの公園の林、よくこっそり寮を抜け出してきた彼とよく会っていた場所。そこに彼は待っていた。やっぱり傘も持たず、青い顔はやつれて幽鬼のようだった。
許してくれ、こんな事になるなんて思ってもみなかった。全て僕のせいだ。でもこのまま別れるのは嫌なんだ。何でもするから、償うからどうか僕を1人にしないでくれ。
彼の言葉は耳に入っても意味が判らなかった。雨の音がうるさくてそれだけが気になって−混乱した意識のまま私は持っていた銃の銃口を自分のこめかみに押し付けた。こうすればもう何も聞こえなくなると思ったから。

「何をするんだ!やめろ!」
強い力で腕が引かれ反射的に引き金を引いた時銃口は彼の胸の方を向いていた。衝撃と音が去った後銃は彼の手に移っていて彼はニ、三歩後ずさり自分の胸についた赤い染みと取りあげた銃を代わる代わる見詰めた後安堵した様に言った。
「よか・・った君が怪我しなくて・・」
そうして彼は糸の切れた人形の様に崩れ落ち2度と動かなかった

どのくらい時間が経ったのか。気がつけば私は濡れた地面に座り込み目の前の彼を見ているだけだった。このままじゃ2人とも風邪を引く。そんな埒も無い事が頭をよぎった時誰かが私を呼んだ。顔をあげるとそこに居たのはジャン・ハボックさんだった。

そこから先はハボックの記憶にも強く残っている。あの晩コンラートが居なくなったと彼の同室の者に言われたハボックが寮を飛び出してようやく公園で彼を見つけた時全てはもう終わっていたのだ。地面に倒れた彼の血は雨水と共に流れ冷たい頬にすでに生命の気配は無くもうどうしようも無いとハボックに告げる。
その時ハボックの頭にあったのは彼女を助けなきゃという事とコンラートの名誉も守らなければという2点しかなかった。コンラートの手には銃がしっかり握られている。これをこのままにしておけば間違い無く彼は自殺と断定される。彼女は疑われる事はないけどそれは間違い無くスキャンダルになって彼の家族はどれだけ打ちのめされるか判らない。それだけは避けないと。

後始末は全てハボックさんがやってくれました。彼の手から銃を取り丁寧に指紋を拭き取ったそれを酒場に戻る途中の雨のせいで水嵩が増した川に投げ込みました。そして女将さんに私を委ねてこう言った。
「いいか、君は今日どこにも行かなかった。コンラートの事も何も知らなかった。だから俺にも会わなかった。そういう事にするんだ。いいねハンナ。そして故郷に帰ってやり直すんだ、全部忘れて・・・無理だって思うだろうけどお願いだからそうしてくれ。俺の事もコンラートの事も忘れるのが一番だ。そうしてくれハンナ」
必死に言う彼に私は頷く以外できなかった。そうして数日後私はアリス、あなたの元に帰ったの。

「これが姉の手紙に書かれていた事です。だからコンラートの死にハボックさんの責任はありません。あるのは姉と・・カール・ワッツです」
挑むような目を傍聴席に向けて彼女は言い切った。視線の先にいた杖の男は気まずげに目を逸らす。
「・・これでハボック少尉の有罪確定ですね。」
手紙を読み終えて一息付く彼女を見ながら沈んだ声でフューリーは呟いた。
「カールが酷い人間だってのははっきりしたし、友人とその恋人があんな悲劇を迎えたのもそのせいなんだからハボック少尉が復讐したくなるのもしょうがない・・・そういう事なんでしょう?」
わざわざ妹に証言させたのもそれを印象付けるためのものだと。
「俺もそうだと思ってたんだがな」
「え?」
「あの中佐殿まだ何か企んでるぜ。ありゃ終わったって顔じゃねぇ」
ブレダの言葉が聞こえたかの様に、もう用は無いはずの女性にヒューズはまだ質問を投げかける。
「辛い事を良く話してくれてありがとうございます。ミセス・ヨハンソン。これで最後の質問です。カールを憎んでいますか、あなたは」
意外な質問に法廷中の人間がえ?という顔をした。これはどうみても審議に関係ない話だし被害者の妹であるアリスがカールを憎まないわけはない。
「もちろん憎いです。できるなら私の手で殺してやりたかったくらいです。・・・でも」
当然これまで感情を抑えるように話してきた彼女の声にも怒りが籠る。だがそれで終わりではなかった。多分言いたかったのはこの後の言葉。
「私は同じくらいコンラートとういう人が憎いんです。だって彼は姉の心を傷つけた。愛し信頼する人に裏切られるのはどれだけ苦しかったか。そして何故彼は姉を放っておいてはくれなかったんでしょう?そうすれば姉は殺人者にならなくて済んだ。事故とはいえ恋人を撃ってしまうなんて事はなかったのに。姉に謝ってそれで自分が楽になりたかっただけじゃないですか!」
今まで抑えていたものが解き放たれたように彼女の糾弾は続く。誰にも言えず行き先の無かった怒りは強く激しかった。
「今までの話を聞いていたから彼も大変だったと言うのは判ります。でも国家錬金術師になるって事がそれ程大事なんでしょうか?自分の恋人を犠牲にするほど?軍人だから許されると思っていたとしたらなんて卑怯な男なんでしょう!」
鋭い弾劾の声に法廷が静まり返った時背後の傍聴席で椅子の倒れる音がした。そして
「嘘だ!そんな事は嘘っぱちだ!あの子が、私の息子がそんな事するわけがない!」
悲鳴のような叫びが室内に響く。突然の事に全ての人々の目はその声の主に向けれらる。
視線の先に居たのは銀髪を後ろに撫でつけた頬の細い痩せた男。いつもエックハルトの傍に影の様に付き従っていた忠実な執事の姿。
「・・・ようやく来てくれましたね。最後の証人。フランツ・アイスラーさん」
怒りで我を忘れていた男はその冷静な声に自分が罠に嵌ったことに初めて気が付いた

やっと最後のオリキャラが出て来たー。ここまで長くかかるとは思わなかったよー。

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