「お呼びですか、大佐」
少年を送りだした後すぐにロイが呼び出したのは細目の准尉。
「ああファルマン准尉、君は新聞を何紙読んでいるかね」
「新聞ですか?家ではイーストタイムスですが・・あ、あと東部新報と東方通信が大部屋にあるのでそれも読んでいます」
この上司は時折突拍子もない質問を投げかけてくる。だけどそれは大抵自分の特技─並外れた記憶力を頼っての事だと知ってるからファルマンは何も言わず彼の質問を雑念を払って待った。
「大体3ヶ月ぐらい前、死亡欄に退官した大学教授の名前はなかったか、専攻は多分文学でこのイーストシティの住人だ」
「日付けははっきりしないのですか?」
「そうだ」
その希有な頭の中がどういう仕組みになっているか錬金術師にも判らない。が彼のこの能力に関してロイは全幅の信頼を寄せている。だから
「・・・条件に該当する人物は3人おります、マスタング大佐」
軽く眉間に皺を寄せたまま告げられた答えを疑いもせず
「では喪主が息子ではなく未亡人の者は?それと住まいは街中のはずだ」
さらに条件を絞り込ませる。すると
「それなら1人しかいません。アルベルト・ノイマン教授です」
細目の少尉は欲しい答えをよどみなく言った。

「それで俺に戦死した彼の息子の友人関係を洗えと。相変わらず人使い荒いのねーロイちゃん。でも何でそんなまどろっこしい事すんの、直接その未亡人にでもに聞けばいいじゃないか。公にしたくないならその古書店の主に頼んで聞いてもらえばいい。問題の本は誰にあげたんだってさ」
遠くセントラルの親友からの提案をもちろんロイだって考えなかった訳ではない。だがそうなればあの人の良い主も事件に巻き込む事になる。その上
「あの本の価値を他人に知らせる事になる。それも専門家にだ。できればそれは避けたい」
「価値ねぇ。いまいち俺は話が良く見えんのだが、つまり何かその本が他人の手に渡ると危険なわけか」
「・・危険は多分殆どない。あの本を読み解ける術師がそういる訳がないし、できたとしても長い時間がかかる。ただ念のため手元に置いておきたいだけだ。起きた事件も単なる放火で小さなボヤ程度だったし」
「何か歯切れが悪いなぁ、ロイ」
付き合いの長い男は友人の煮え切らない態度に眉を顰める。いつもの傲慢さも影を潜めたその口ぶりは滅多にお目にかかれないものだ。しかも問題になっている本に関しては詳しい説明すらしてくれない。
「もしかしてそれって昔お前が大事にしていた本か?士官学校で時々読んでいた古い革表紙に金で蜥蜴のシンボルが描いてあった奴」
それでも勘の良い男は古い記憶から答えを導き出した。沈黙の返答は正解のしるしも同然。
「お前アレ戦場にまで持っていってたじゃないか。それをなんで手放しちゃったんだ」
「マース、すまないがこの件は私の錬金術師としての問題なんだ。全部済んだらちゃんと話すから今は黙って協力してくれないか」
訳は聞くな協力だけしろとは随分虫の良い話だろう。だがスクェアグラスの男は昔からこの声には弱い。特に親友が自分の名を呼ぶ時は本当に困ってる時だと知っているので
「了解したよ、マスタング大佐。すぐに調べてやるから心配すんな。けど1人で抱え込もうとはすんなよ。その本がやばい相手の手に渡った可能性があるのなら必ずホークアイ中尉にも手伝わせるんだOK?」
結局こんな風に言うしかない。思いつめた親友が次にどう行動するかはさすがにヒューズにも読めはしないが漠然とした不安がじわりと胸に広がるのは止められない。
─こういう時東部にいられねぇってのは厄介だぜ。まぁ鷹の目もいるしそうそう勝手はできないと思うが・・
さっき無意識にもう1人の金髪の護衛の名を出さなかった男は切ったばかりの電話をじっと見つめた。


「全は一、一は全・・つまり全ては繋がっていて両方は同じって事?錬成陣の円みたいにさ」
「・・・そうだ」
教えられた知識を主は瞬く間に吸収していく。それは男にとって予想外の事であったらしく声には感嘆とそうしてわずかばかりの嫉妬が混じっていた事にもちろん幼い子供は気付きはしない。だが幾多の術師の手を渡り歩いてきた私にはそれは馴染みの代物だ。錬金術師の誇りは自分の知識、彼等はそこに己の全てをかける。それ以外は地位も富も全て些細な事でだから相手の力量が自分より上だと知った時彼等は平静ではいられないのだ。
たとえそれが血を分けた息子であっても。

「あっれーどうしたんスか灯りも付けないで」
少年をホテルに送り届けて来たハボックが例によってノックと同時に執務室のドアを開けると室内は薄暮に沈んでいた。その中で彫像のように動かない影が一つ。
「まぁた居眠りでもしてたんスか?」
「・・・やかましい駄犬。お前のような凡人なんかには想像もできない深遠な思索にふけっていたのだよ」
パチンとハボックが壁のスイッチを押せば闇は瞬く間に片隅に追いやられる。その光りで生気を取り戻したかのようにロイはいつもの憎まれ口を部下に向けた。
「大体ホテルに送って行くだけでこんな時間かかるものか。どうせどこか寄り道でもしてたんだろう」
「あ、ひでー。ホテルに行く前に例の古本屋の場所教えとけって言ったの大佐じゃないすか。だからちょっと遠回りになったんですよ。そしたらあの子供そこで俺を帰そうとするし・・」

ここでいいよ、後は俺自分でホテルに帰るから。目当ての本屋の近くに車を止めると赤いコートの少年はそう言って車から降りようとした。がハボックの受けた命令はホテルまできちんと送り届ける事だ。ハイそうですかと言う訳にもいかない。
「ちょっと待て・・じゃない待って下さいよ。エドワード君。大佐も言ってたが今日はゆっくり休んで明日一番でここに来た方が良い。君は今日ニューオプティンから着いたばかりなんだろう?」
国家錬金術師は少佐待遇。つまりハボックより軍での地位は上だ。近所の子供と同じように接する訳にもいかない。まさか少年がそれを振りかざすとも思えないが言葉使いにハボックは苦労する。
「それが何なんだよ、別に俺は旅馴れてるから平気だぜ」
「でももう夕方だぞ。それにこの店の店主はよく他所に買い付けに出ていない事が多い。ほら店の扉のカーテンをみろよ、閉まってるだろう?」
目の良い男の指差す先には確かに灰色のカーテンがかかった扉がある。それでも自分で確かめないと納得しないのか少年は小走りに店先まで行ってそこに貼られたCLOSEDEのメモに肩をがっくりと落とした。それを迎えたのは金髪の少尉の得意げな笑顔。
「どうだい、大将。たまには大人の言う事素直に聞いた方が良いだろう?」




ちょっとミステリー仕立てに挑戦中です。なのでロイもいろいろ隠してます。今回は錬金術師としてのロイを書いてみたいんですよね。ああいう力を持った人はどんな業を抱えているかとか。暗い話ににはしないつもりなんですが・・

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