「長い話になってしまったな、いい加減お前も飽きたろう」
すっかり溶けたグラスの氷にロイが苦笑すればいいえとハボックは首を振った。
「あんたが自分の事こんなに話してくれるなんて俺はすっごく嬉しいです。ホント色々あったんですね」
「別に隠してたわけじゃないんだがな。いささか変った生い立ちだから話すのもどうかと思っただけで」
「でもこれで判りました。あんたがあの本どれだけ大切にしてたのかも。だから燃したんでしょう?」
「え?」
「燃やした本偽物だったんでしょ?あいつらに言ったの本当の事だったんだ。あの本は贋作でだから大佐はそれが許せなくて必死に捜して処分しようとしてたんだ。大事な本の贋作なんて嫌ですものね。だから俺にあの本がどんだけ大事か話してくれたんでしょ」
答えを見つけた子供の様にハボックは無邪気に言う。曇りのないその笑顔にロイはどれだけそうだと言いたかったか。そんな単純な理由だったらどれだけ─
「・・残念だけどそれは違う。燃やした本は贋作じゃない。正真正銘同じ本だ。そもそもこの本はごく少数しか刷られなかった。ある錬金術師が自費で出版したもので理論の特異性から殆どが返品されたものなんだ。私はずっとそれが市場にでたら買って同じように燃やしてきた、イシュヴァ−ル以降もう何年も。だから多分さっきのが市場に出回った最後の1冊だろう」
シュヴァ−ル。その名にハボックの顔が強ばる。今も癒えないロイの傷跡、思い出したように今も血を流すそれに今度の件が関わっていたなんて想像もしなかったから。

「ここまでは判る・・でもそれじゃダメだ。自在に焔を操るにはこの先があるはずなんだ」
揺らめく焔を前に主は呟く。すみからすみまで私を読み尽した主はその先にあるものを見い出そうと足掻くがまだ力が足りないのか思うような結果がでない。
「この本が発行されたのは僕が生まれる前なんだ。きっとこの本を書いた人は研究をもっと進めている・・きっとこの先を知ってるはずだ」
書かれた理論のその先を私は知らない。私にできるのは書かれた知識を主に伝える事だけだ。正直この時ほど失望という意味を実感した事は無い。大事な主の助けにならないなんて無力なんだろうと。だが主は私の最後のページをめくって言ったのだ。
「L・ホークアイ。この人を捜せば、この人に教えを乞えばその先が判るかもしれない」
私を生み出した創造主の名─それが私が最後に主に与えた贈り物になった。

「ロイ坊、あんた学校はどうするの。いくらなんでもこのままじゃ良い訳ないだろう」
成り行きで引き取ったとはいえ責任はある。このままの生活ではまともな社会性など身に付く訳もないと思ったマダムがそう言ったのは一緒に生活を始めて3年ぐらいたった頃か。
「マダムの名誉のために言っておくが引き取ってすぐセントラルの小学校に編入はしたさ。だけど半年で放校になった」
「なんでまた・・・」
「教師のミスをことあるごとに指摘するわ、こ難しい専門書は読むわ、注意されればへ理屈はこねるわじゃ向こうもキレるだろうさ。実際小学校のレベルはもう独学でクリアしていたし。だからしばらくは店の手伝いなんかしながら図書館に通って錬金術の勉強をしてた。店のレディ達との付き合いでそれなりに社会勉強はできたし」
ニッと笑う顔は東方一の女たらしの顔だ。なるほどそんな子供の頃から玄人のお姉様方に囲まれていれば女たらしになるはずだとハボックはしみじみ納得する。
「正直どうしようかと思ってたんだがある日出版社から来た手紙で全てが決まった」

貴殿がお尋ねの本は確かに我が社が出版したものです。これは自費出版で当時の作者の住所は下記の通りです。

その家は想像以上にボロかった。色々手を尽して調べた結果目当ての人物がかなり厳しい生活をしてるという事は判ってはいたが。それでも深呼吸してロイ錆の浮いたノッカーを叩いた。その先に求める答えがあると信じて。
「ホークアイってまさか・・」
「そうホークアイ中尉の父親だ。ランドルフ・ホークアイ。彼がこの本を書いた人物だったんだ」
思ってもみなかった人物の名にハボックは絶句する。並の結び付きではないと思っていたがまさかそんな昔からの知り合いだとは思わなかった。
大佐が軍人になる前じゃんか。どんだけ深い絆なんだよ!俺なんかかなう訳ないじゃないか!
会話が無くて判りあえる関係をどれだけ羨んだかしれない。だけどそれがそんな昔からだとは想像もしなかった。

ドアを開けたのは金髪の少女だった。自分より少し年下らしいが随分と大人びているとロイが思ったところで
「ごめんなさい。支払いは月末まで待って下さい。必ず月末には払いますから」
悲壮な顔で頭を下げられてロイは戸惑う。そうして
「えーっとすまない。僕は借金取りとかではありません。ロイ・マスタングといってホークアイ先生に弟子入りに来たんですが・・」
抱えていた本を差し出せば少女は顔を真っ赤にしてごめんなさいと謝った。いつも懇意にしている食料品店のバイトだと思ったと。
「ホークアイ中尉のお父さんってそんな貧乏だッたんスか」
「師匠ははっきり言って生活能力ゼロだった人だ。わずかな財産を頼りに研究を続けていたらしいがあの頃はそれも尽きかけていた。リザ・・ホークアイ中尉も苦労が絶えない生活だったろう。それを知ってなお師匠は錬金術を生活の糧にしようとはしなかったんだ。本当に偏屈な人だったよ」
弟子にしてくれと勢いこんだロイに陰気な顔つきの錬金術師は呆れたように首を振った。
「どうしてその本が君の手にあるか判らんが私は弟子をとるつもりはない」
子供の気紛れにつき合うつもりは無い。そっけなくそう言って席を立った男の足を止めたのは
「嫌です!この本の先を貴方は研究してるのでしょう?焔の錬金術─僕はそれを学びたいんです!」
押し掛け弟子の必死の声だった。
「・・君はあの本を理解したのか。あんな未完成の理論を。あれが焔を操る錬金術と気付いたのか」
「火蜥蜴は空気を餌に自らの翼を広げる。貴方の術の本質はこれだ。大気を分解し再構築し焔を操る。だけどこの本じゃまだ完成じゃない。僕の力では先に進めない。お願いです、僕を貴方の弟子にして下さい!」
黒い瞳は揺るがない。動いたのは娘と同じヘイゼルの瞳の方だった。まだ少年といっていいこの訪問者の才能をその時男は見抜いたのだろう。病を抱えた自分の命がそう長くない事も彼は知っていたのかもしれない。だからこそ
「・・基礎をできてないならこの先は無理だ。聞けば君は正式な錬金術の教育を受けてないそうじゃないか。独学は片寄った知識しか得られない。最初は基礎からだ。それでも良いか」
この言葉がでたのかもしれなかった。
「はい、もちろんです!」
「それと普通の教育も受けなさい。自分の口は自分で稼ぐようにするんだ、術師として優秀でも社会性がないのでは話にならない。良い見本がこの私だ。ついでに言えば住み込みも断わる。娘と2人の生活を乱されたく無い。それでもよければ弟子としよう」
「ありがとうございます、ホークアイ師匠」
深々と頭を下げる少し年上の少年を見つめる金髪の少女の瞳は驚きで丸くなっていた。自分の父親がそんな大変な研究をしてるとは思わなかったし偏屈な父が他人を家に入れるとは思いもしなかったから。

リザパパ登場。名前は捏造です。ロイがどうしてホークアイ師匠と出会ったのか。そこがずっと疑問でした。あの性格ではほいほい弟子をとるように思えないし。それ程有名だったとも思えない。なのに何故彼を師匠にしたのか─を考えたらこうなった。あとロイが弟子入りした時期ですがこの話の場合仕官学校入学以前と設定。15巻のシーンは仕官学校入学を決めたところだと思ってます。仕官学校イコール軍人だからホークアイ師匠はああ言ったのではないかと。

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