「ヒューズ中佐〜頼まれていた資料の返却は終わりました。お次は何を致しましょう?」
「んーそんなら次はそこの記録の山分類してもらおうかぁ。アルファベット順に並べてくれよ」
「これ全部スか!」
声の主が絶句するのも無理はない。指し示された小部屋には足の踏み場もない程のファイルの山が築かれていた。
「あん?何だって言う事聞くって言ったのは誰だったかなぁ、わんこ」
タンッ。声と共に飛んで来たダガーに逃げ道を塞がれ退路を失った男は諦め切れずに訴える。
「あれは言葉のアヤですって!第一俺は要人警護の研修にセントラルに来たんっスよ〜」
「男に二言はあっちゃいかんなぁ、ハボック少尉」
ピタピタと冷たい刃で頬を撫でる男の目は据わっている。突然の内部監査の情報で皆が走り回っている時のほほんと軍法会議所に挨拶に来た大型犬はまさに猫のいや犬の手だった。
『お久しぶりです、ヒューズ中佐。今日は要人警護の研修でこちらに来ました。この間の裁判では大変お世話に・・』
『そう!思いっきりお世話したよなぁ、わんこ。んで御挨拶だけかね、少尉』
『あーいえその何か自分にできる事があれば・・』
『何でもする!そーかそーかじゃあまずこの本返して来てね』
『はい?』
そのままハボックはヒューズの仕事場に拉致された。後はもう召し使い同然、あっちこっちに書類を届け軍法会議所中をハボックは走り回った。
「勘弁して下さいよ、俺午後から研修なんスよ〜」
「そんなの初日だから顔合わせだけだ。俺が上手く言っとくから大丈夫。よってお前は今日1日俺の奴隷ね。なーにテキパキやれば定時で終われる。俺は残業しない主義なんだからな」
「そんなー」
逃れられそうもない運命にハボックは悲鳴をあげる。でもあの裁判でヒューズがどれだけ尽力してくれたか知っている男はそれ以上逆らわなかった。
仕方ないなぁ。確かに借りは返さないと。それだけの事してくれたもんなぁ、中佐は。
「はいはい判りましたよ、整理しますよ、すりゃいいんでしょ〜」
覚悟を決めた男が上着の袖をめくった時だった。ノックの音と同時にぬっと大柄な影が部屋に差す。
「お忙しい所申し訳ありません、ヒューズ中佐。我輩は例の用事で出ますが本当によろしいので?」
入って来たのは長身のハボックも見上げる程の巨漢。岩のようにがっちり筋肉の付いた身体は壁のようだが厳つい顔の目は柔和で頭の天辺にだけ一房ある金髪の巻き毛もどこかユーモラスだ。
「ああアームストロング少佐こっちは大丈夫だ。猫の手ならぬ犬の手も来た事だし」
ほらと肩を押されてハボックも右手を上げる。その名には聞き覚えがあった。
「初めてお目にかかります、少佐。自分は東方司令部所属ロイ・マスタング大佐配下のジャン・ハボック少尉であります」
向こうもハボックの名を知っていたらしい。
「おお君があの事件の!マスタング大佐を庇って罪を1人で引き受けようとしたとか。若いのに中々見どころがある!我輩感動しましたぞ」
嬉しそうにグローブ並にでかい手でがっちり手を握ってくるのにはハボックも驚いた。セントラルの軍人は皆いけすかない奴ばかりと思っていたけどこの大男はどうも奇跡的に人が良いらしい。だけど身体に見合った握力のおかげでハボックが痛がって手を抜こうともがいているのには気が付かない。
「きょ・・恐縮です。アームストロング少佐。ですが外出の御予定があったのでは?」
「む、そうだった。約束の時間に遅れてしまう。それではヒューズ中佐後をよろしくお願い致します」
礼儀正しく一礼した男は入って来たのと同じく唐突に部屋から出ていく。その後ろ姿を見送るハボックの手は真っ赤になっていた。
「いってーすげー握力。・・口が軽過ぎやしませんか、ヒューズ中佐。あの事件、彼に話してたんスか」
刺のある言葉にも書類を繰る男の手は止まらない。
「あんな暑苦しいのに詰め寄られたら仕方ねぇだろ・・てのもあるけど、アームストロング少佐にも色々調べて貰ったからな、話さない訳にはいかないだろう。さすがに錬金術師関連は俺にも敷居が高いんだ」
「って事はあの少佐も・・」
「そう豪腕の錬金術師、アレックス・ルイ・アームストロング少佐だ。今度会ったらちゃんと礼言っておけ。俺達と比べられない程良い家柄の出なのに、何も聞かずに無許可で閲覧禁止の資料を持ち出してくれたんだ。ばれたら処分確実もんの行為だぞ」
「はぁ、偉い人なのに良い人っスね、アームストロング少佐は・・少佐?」
あれ?ハボックは思う。国家錬金術師は資格を取った時点で少佐待遇と聞いた。今の人物は家柄も良いし、ヒューズが頼るぐらいだから決して無能ではないんだろう、年齢だって自分達よりは上のはずだ、なのにまだ階級は少佐?って事は・・
「余計な事考えるな、わんこ」
手が止まったハボックをヒューズが見咎めて言う。
「お前さんは勘だけ良いな。でも思った事が顔にすぐ出るんだ。少し意識しておけよ。もちろんアームストロング少佐もイシュヴァールには行ったさ。でもその話は彼の前で絶対するな」
ボールペンの先端がナイフの様に突き付けられる。無論ハボックはそれに逆らう気は毛頭無い。この国の軍人の殆どが持つその傷跡に無神経に触れる気なんかない。
「彼は良い人だ。軍人なんかには惜しい程の。でもだからこういう組織では貧乏籤を引かされる..今日の様に嫌な役目をグランなんかに押し付けられるんだ」
「嫌な役目?」
「禿鷹さ」

アームストロング少佐登場。一体彼の年齢は何歳なのか。ずーっと疑問に思ってます。オリヴィエ姉さんが出て来てから特に(だって子供が居てもおかしくないって言うし)彼女が長女だとするとその下にもう1人姉がいるはずなんですよね。(姉上がたって戦う少尉さんで言った)謎ですアームストロング家

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